描写力アップを目指そう企画『梅雨のバス停』
【習作】描写力アップを目指そう企画
第六回 キラキラ☆ワードローブ企画
参加作品です。
青々と背伸びする田んぼの真ん中に佇む錆着いたバス停の前に、ひとりの女学生がいた。紺色のセーラー服が雨に耐えかねて重そうに垂れている。
傘もなく、しとどな少女は、曇天から降りしきる雨を睨んだ。この雨のせいでバスが5分以上遅れているのだ。
「このクソッタレな雨はいつまで降るんだ」
顔に似合わずヘビーな言葉を吐く少女は、スカートのポケットから細い葉巻を取り出した。右手の指で器用にくるくると玩んだあと、片方の端をかみちぎり、ペッと吐き出す。
「ったく、コレも安くねえんだぞ?」
少女が咥えた葉巻は、火もつけていないのに赤く灯っている。
「あー、不味」
口の端で嫌そうに咥える葉巻からは、煙の代わりに泡が立ち、大きくふくらみはじめる。ぽわぽわとふくらむ泡は少女をすっぽりと覆いつくし、降りしきる雨を弾いた。
その時、雨で霞む景色の向こうに、ふたつの光が見えた。その光は徐々に大きくなっていく。
「やっと来たぜ」
少女はまたスカートのポケットを弄った。「ん、あれ、どこいった?」とぼやきながら、行儀悪くごそごそと探す。そして茶色の丸薬をひとつ取り出し、手の中で転がした。
にゃーん。
バシャンバシャンと豪快に水を跳ねて、黒猫のバスがやってきた。長くしなやかな尻尾をくねらせ、大きな黄色の瞳をライト代わりに輝かせ、ニマっと彼女に笑いかけてきた。
「ほれ、あーん」
少女が丸薬を握った手を差し出すと、猫はアングリと口を開ける。大きな舌がひくひくと催促するように蠢く。少女がその口にぽいっと丸薬を投げると、猫はもぎゅもぎゅと目を閉じ嬉しそうに食んだ。
「こっちはびしょ濡れで寒いんだ、さっさとあけてくれ」
眉を寄せた少女がガツンと猫の足を蹴ると、ふにゃーんと唸り声があがる。そして不承不承と言う感じで、肩口にある扉がにゅにゅにゅにゅっと開いた。
「裾野の稲荷まで、急いで」
少女は、水滴で一文字描きを残しながら猫の車内をテクテク歩き、一番後ろの席にどっかと座った。直後、ずぶ濡れの少女の体からポワンと煙が立ち上る。綿菓子のような煙が消えた後には、頭から狐の耳を覗かせた女学生の姿があった。少女が、スカートの裾からこんにちはしているびしょ濡れの尻尾を両手でぎゅっと絞ると、ダバダバと水が滴る。
二度、三度と絞ると、濡れそぼる尻尾の毛がピンと立ち上がり、太い金色の猫じゃらしができあがった。
「アイツの天気予報もあてにならんな。罰として油揚げ五十枚の刑だ。一枚もまからん」
ぼそっと呟いた少女を乗せた黒猫バスは、ぴょーんと跳ねて駆けだした。




