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儚い雪に埋もれる想い  作者: 雪莉月花
3/5

色仕掛けは、失敗

「…どうしても、今日中じゃないとだめなものなの?」

 


 いつも無表情な美空が、珍しく上目遣いで聞いてきた。



 いわゆる色仕掛け、というものを試してみたかったのだろう。



「そうですねぇ。じゃなきゃ、忙しい僕がわざわざ原稿用紙を取りに来ません。まったく、いくらなんでも主人公の名前と、プロット一枚くらいは書いてください。これはやりすぎです。罪なことですよ、自覚してください」



この日まで考え続けた、最後の足掻き(色仕掛け)までを百瀬は容赦なく切り離す。



美空は君は鬼か、と言いたくなるのをすんでのところで抑え、こんな言い訳を述べた。




「書けないものは、書けない。十年ぐらい一緒にいたら、私の性格は理解しきっているものだと思う」


その言い訳は、百瀬が一方的に悪いと言わんばかりだ。




しかし、負けず劣らず百瀬は、嫌味をたっぷり込めてこう返した。





「もう、そんな顔をしないでください。僕の目的は、原稿を催促するためであって、そんな顔を見るために来たんじゃないです」

 




 言い忘れていたが、百瀬は男だ。


百瀬伽耶斗と言って、年は美空の一個下。百七十五センチの身長に、よく見ると少し童顔を思わせる可愛らしい顔だ。それに似合わず仕事をさらりと、完璧にこなす。



中高と同じ時を過ごしていたから、その出来栄えは痛いほど知っている。




「別に‥。これが普通の顔だ」





そういって美空は、子供が拗ねるようなときに出す顔をし、尚且つぷいっとそっぽを向いた。


そんな幼子同然の顔を、見せられた百瀬は、人差し指を美空の頬に突き出した。


そして、つんつんと少し強めに突いた。




「もう、可愛くないなぁ先輩は。昔はもっと純粋で、からかいようがあって、楽しかったのになぁ」



あたかも幼子に向けているような笑顔は、少し怒気をちらつかせたが、その顔がどうも幼稚で笑ってしまう。




しかし、その片隅に何か、黒い色をしたものを感じてしまう。闇ではないと言ったら、嘘になるのだろう。



けれども、決して怨みだという、おぞましいものではない。


なにか、悲しくて。それこそ今の美空と似たような感情が、百瀬から出てきているのだ。




 それに美空は、その色に気づかない振りをしている。


 あくまで、鈍感な女性を演じて。





 今回も百瀬に勘付かれぬように、鈍く反応する。




だがその行為は、悪く言ってしまえば見捨てる。そういうことになるのだろう。





美空は、何か言い返そうとした。が、突然百瀬が大きな声をあげ、顔を輝かせたのでそれは出来なくなった。


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