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儚い雪に埋もれる想い  作者: 雪莉月花
2/5

小説家の朝

目が覚めると、見覚えのある空色の天井があった。



 頬の濡れた感触に違和感を覚え、恐る恐る触れてみる。

 

どうやら、三年前の夢を見ていたらしい。

夢で泣いてしまうときは、大体過去夢を見ているときだ。


 


 いつのまにか、物音一つたたないこの一人きりの朝が、日常として体に染みつく。

その現状が煩わしくて、これ以上ないというくらいの大きなあくびを吐き捨てた。







「今日は――、何曜日だっけ」





 今現在、二十四歳小説家という肩書を持っている東雲美空。旧名、時雨美空。



ごく一部のマニアからは、絶大の人気を花のように華麗に咲かしている。



 しかし、あくまでも「マニア中のマニア」という小さい植木鉢の中の前提。彼女の誇り高き素晴らしい花は、水をあげることすら世間には許されない。

 





 そんな状態で、出世などというバカな話、彼女の養分として使用することを提案されたところで、彼女が肯定文を述べる術は底辺に近いに等しい。




 今、なんとなく違和感を持った人がいるかもしれない。





 なぜなら出世などという言葉を、今このタイミングで無理やり出したからだ。


実は最近、美空はそのような話をつい最近持ち掛けられた。だから意図的に、考えさせたかったのだ。



 

「おはようございます、東雲先生。今日はみんな大好き、日曜日でございます。が、先生には今日一日で、三百枚という枚数の原稿用紙を仕上げてもらいますからね」

 




 突然聞きなれた馴染みのある声が、前方から聞こえてきた。




その声の主は、美空を担当している編集者の百瀬であった。




泥棒という名の、庶民の敵ではなかったが故の安堵感が混ざり合った溜息をこぼす。


‥まぁ、泥棒が友達みたく陽気にしゃべりかけてきたら、恐怖心で発狂してしまう自信があるが、と美空は思う。




 そんな冗談はさておき、締め切りの日と言えば、悠長な時間を過ごせるくらい先だったはずだ。だが今、美空はスランプ状態に入っている。どんなにせかされたって、いい作品など作り上げられるはずなどない。



それもそのはず。


高校を卒業して早七年。外出と言ってもいいほど、豪華な代物はなかったに等しい。




イコール、人と接することも、編集者である百瀬以外にはなかった。むろん、美空の携帯の連絡も仕事関連だけしか、残念ながら届くことがなかった。




 つまりだ。美空の才能を、決して軽く見ているのではない。作家には必要不可欠なもの、物語のネタが一切獲得できない状態なのだ。



 美空も、薄々気が付いていたのだろう。





十八年間、という少ない間の起承転結で生涯、沢山の物語を作ることなんて、いくら天才と呼ばれる人間でも不可能だという事を。




いつかはまた、外の街に触れないといけないことぐらい、わかっていた。けど、そんな作家人生が終わりみたいなものが、こんなに早く来るとは予想出来なかったのである。






「…どうしても、今日中じゃないとだめなものなの?」



 


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