12_鐘の音
よろしくお願いいたします。
僕らが借りている宿に入ると、女の子が箒を持って床を掃いていた。こっちに顔を向けて会釈した。こっちも会釈をして部屋に戻った。少し笑ってたけど可愛かったな。
「もしあんたが言うと事案ものよ?」
ぼそっとレイが僕だけに聞こえるようそう言った。こ、心の中だけで留めてるから良いじゃない!
「ふー…。結構疲れた!喉も乾いたしお腹空いた!」
ベッドに座るや否や僕はそう言う。慣れない場所を散策するのはかなり体力を使う。身体も縮んだし体力もないし。
『あの、すいませんでした』
ペイリルさんの声が聞こえてきた。
「もともと体力自体ないし、歩きにくかったからね。ペイリルさんのせいじゃないよ」
『いえ、でも…』
「ぐだぐだうるさい。ロウが良いんだからそれで良いのよ。それをスキルにもなったんだから」
レイが助け船を出す。
『そうですか…』
申し訳ないと感じてるのは分かるけど、ずっと言ってると面倒臭くなるから言わない方が良いよ。
「さて、状況なんだけど。まず治療おめでとう」
「うん、ありがと!」
やっと腕を切断した傷を治療することが出来た。これで動くたびに袖の接触で我慢していた痛みも無くなったし義手の創作が進める。
「で、次なんだけどゴブリンが多すぎる」
「腕の話題はこれで終わりなんだ…」
もう少し話そうよ。せっかく治療できたのに。
「あんたの腕より重要なのよ。生物の大量発生は異常現象の一つなんだから」
「んー。そうなんだけど…」
理解してるけど心が納得できない。
「生物の大量発生って異常なのよ。虫の大量発生で作物に被害が発生するし。弱いとはいえ人型のゴブリンが大量に出てきたらこの街にも被害が出てくるのよ」
数によっては一つの戦争よ、レイがそう付け足す。
ガーーン!ガーーン!ガーーン!
遠くから高い音の鐘が聞こえてきた。嫌に耳に残るこの音はあまり好きじゃないなぁ。
「…朝の鐘は鳴っていたけどこんな音じゃなかったわね」
僕ってそんなに寝坊してたの?一度も聞いてないけど朝早く鳴っていたのかな。窓の景色を見ても夕暮れ時。この時間では鐘の音は聞いたことが無い。
「この時間に鳴っていることは、異常事態?」
「そうかもしれないわね」
・・・・・・・。
「どうする。ギルドに行く?それとも街の外に飛び出す?私は着いていくけど」
「うーん…」
僕は唸って考える。そもそも今も鳴り続けている鐘の音が何を意味しているのかが分からない。わざわざ鳴らしているから意味があるはずだけど。街の住人なら知ってるかもしれないが身近に…。
「おいお前ら!鐘が鳴ってんだから避難しろ!木版も返せ!」
扉を勢いよく開けたのは中年のおじさん。カウンターで店番をしていた…、住人いた!
――――――――――――――――――――
中年のおじ…、ここ宿屋の店主さんに現在も鳴り響いている鐘のことについて聞いてくれた。
『鐘のことについて聞きました。ですね』
今鳴っているこの鐘は活動をさせられる朝と緊急事態の時に鳴らされるとか。
『活動する朝、ですね』
それで朝に鐘を鳴る場合は普通にゴォーン、ゴォーンと重い音になるらしいけど緊急事に鳴らす音が変化するらしい。鐘そのものに魔力を流すと音が高くなり、遠くにも音が聞こえるようにするんだと。だからこの耳障りな音は緊急事態ってことになる。
「緊急事態か…。今はどんな緊急事態?」
「んなもん知るか!必要なもん揃えて避難しなきゃいけねぇんだよ!木版返してギルド行け!冒険者なんだろ!」
僕の質問に中年のお…、もういいや。おじさんが怒り出した。避難したいのに悠長と座っている僕らはおかしいのだろう…。まぁおかしいか。
「んー…、じゃあギルドに行こうか。なんか情報あったらいいなぁ」
今までのギルド職員から対応を考えるとあまり情報は教えてくれなさそうだけど。
「はい、木版よ」
「ふぅ、じゃあ早くいけ!俺たちは先に逃げるぞ!」
おじさんに木版を手渡したらすぐに立ち上がり出ていった。
「じゃ、決まったんなら行きましょうか」
レイは立ち上がる。僕も習って立ち上がる。
「イベント発生だね!」
「こんなイベント、立ち合いたくないわ」
レイに叩かれた、解せぬ。




