【閑話】05_受付嬢の登録風景
よろしくお願いします。
閑話です。
レイは渡された紙にはなんて書いたのでしょうか?
「よぉ、ちょっといいか」
「はい、なんでしょう?」
作り笑顔をしてその声に対して応答します。
勿論私がここの受付をしているからだ。
ここ冒険者ギルドスペラー支部で受付の仕事をしてきて1年と少し経ち、声の掛け方で判別できるようになりました。
仕事上の呼び掛けとナンパか遊びの誘いをする呼び掛けです。
同僚の遊びの誘いはともかく、ここで活動している冒険者や騎士のナンパがしつこくかなり面倒になります。会話の中で依頼を優遇しろや関係を迫ってくることもあり、危険があるからです。でもこの掛け方は仕事の呼び掛けの方でしょう。
「あー、なんだ。この二人に冒険者登録を受け付けてもらいたいが良いか?身分証が全くないらしいからよぉ」
私服の人がそう愚痴る。たぶん騎士が本職の人でしょう。
右側にいる人たちをみる。
一人は女性で見たことのないけど高貴そうな服装、堂々としている。
もう一人は女の子。髪は長くかわいらしい顔立ち、身長も低く子供らしい。真っ黒の服を着ていて、両腕の袖が地面に届くかどうかの長さもある。
(どこかの貴族の子かな?)
私の知らない貴族が没落したのか、お忍びで冒険者はどんな職業なのか遊びで体験したいのか。
「わかりました。冒険者登録と説明を行いますね」
私は今日も仕事をする。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「始めにこちらの紙に記入してください」
私はそう言って紙を二枚と羽ペン、黒インクが入っている壺を机に置いた。
「お二人の名前と戦闘で主に使っている武器や魔法を書いてください。緊急依頼やパーティの収集しやすくするために必要なものとなりますので、考えて書いてください」
「パーティって?」
女の子がこんなことを聞いた。
細かいことは分かるわけないですよね。
恐らくこの子はお遊びとして登録するのでしょうね。
「冒険者を集めて依頼を解決していく集団をパーティと呼んでいます。こちらでパーティの申請と作成の仲介もしているので、必要なんです」
そう答えたがあまり反応が無かった。強い私兵がいるのかもしれないですね。
「あんたは書けないから、私が代わりに書くけど良いかしら?」
「ん?…そうだね、代わりに書いていいよ。どうにもできないしね」
そう考えていると左手に座っていた女性と女の子の会話をしました。
書くことさえも従者頼りだなんて、よっぽど甘えて暮らしているんだと思うとやはり貴族と平民の生活はかなり違うことを実感します。
女の子がこちらをじっと見ていることに気付きましたが、その瞳は黒く濁っていました。
その瞬間、
「書いたわ。これで処理して頂戴」
女性が紙を机に寄せました。
いつの間にか時間が少し経っていたようです。
「確認しますね」
そう言い繕って紙の内容を確認します。
――――――――――――――――――――
名前:レイ 女
年齢:17歳
得意武器、魔法:鈍器
私はかなり怒りっぽく、イラつくとロウタに当たることがある。
殴ることしかできないし魔法も使えない。
どこのパーティに入ることも考えていないので勧誘しないように。
入ったら最後、殴り殺す。
――――――――――――――――――――
・・・・・・・。
もう一枚は…?
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名前:ロウタ=フルド 女性
年齢:15歳
得意武器、魔法:無属性魔法
体力も力もない、荷物もろくに持てない子供。
無属性魔法以外の魔法は使えず適性が無い役立たず。
役に立つなら囮以外にない役立たず。
そして小さい女の子に欲情する変態で四六時中、どうやろうかを考えている変態。
子供が近寄らないように注意されたし。
――――――――――――――――――――
仕事中なのに顔が固まる。
普通はどれだけすごいことをやったか、広範囲魔法を連発できるとか大きく書くことはよくありますが、ここまでひどく書くことはなかなかありません。同僚や他の従業員はどうかは分かりませんが、ここまで書く人は初めてです。
「あ、あの、この内容で良いんですか?」
念のため聞いておきましょうか…。
「良いわよ。ロウもそうよね?」
「ん?大丈夫だよ、レイが書いたんなら。信用しているからね!」
にっこり笑う女の子、ロウタちゃんの笑顔がまぶしくて見ていられない。
この従者、レイさんとロウタちゃんはどこか外れているようです。
「そ、そうですか…。分かりました、そのように処理しますね」
この人たちを登録して良いのか、判断が難しいですね…。
「次にナイフを使って少量の血をもらいます」
私は常に用意してある小ぶりのナイフと二つの皿を机に置いた。
常に用意している理由はギルド内で戦闘が起きても対処できるために最低でも武器を携帯する取り決めです。ついでにどのカウンターでも登録できるように皿も用意していますが…。
「登録時に少量の血を使うことになっています。血を利用した個人特定が出来る方法があり、違反者や登録解除にも利用するために必要なのです。手や腕でも構いませんので」
普通は自身で身体を切りつける行為に抵抗はあるはずです。
ベテランの人でも中々出来ないはずですが…。
「・・・・・・」
レイさんは淡々と左手を切って血を皿に溜めました。
あまり痛みを気にしない、いえ痛みを感じていないように見えます。
「ナイフに着いた血はこの布で拭いてくださいね」
溜めている間に布を渡しておきます。
血が混在しないためです。
「分かったわ。ロウは覚悟、良いわね?」
ナイフに着いた血を拭い、レイさんがロウタちゃんにそう聞いた。
「レイ…?どこをやるの?」
なぜそんなことを聞いているのか…。
「もちろん。・・・・・・・・左肩よ」
「ぐぅ!…かなり痛いッ!」
レイさんが唐突にロウタちゃんの左肩を刺しました。
唐突過ぎて判断が鈍りますが、ナイフは切っ先だけでヒールだけで治療は出来そうです。
「大丈夫よ。もう終わったから」
もう一方の皿にナイフを下に向けて血を溜めていく。
「これでいいかしら?量としては十分だと思うけど」
「むしろやり過ぎです!ヒール!」
急いでロウタちゃんの左肩に回復魔法を掛ける。
「ありがとう、痛みが無くなったよ!こんな魔法があるんだね~」
呑気な声でお礼を言ってくるロウタちゃん。危ないと考えていないのか?
「はぁ、貴女は子供を殺す気ですか?…貴女も回復させておきますね」
「殺すわけ無いわよ、刃先だけ切り入れた程度じゃ死なないわよ」
そんなことを言っても必要だから容赦なく子供に刃先を刺すなんて…。
「登録を行いますので少々お待ちください」
ナイフを布で拭い、腰に付けてあるベストに戻して皿を二枚とも奥に持っていきます。
「冒険者カードを作成している間に説明をしておきますね」
奥でカードの登録を行い、カウンターに戻ってきました。採ってきた血をセットして後は勝手に作ってくれるので大変便利です。
後は冒険者ギルドの説明をしていればカードが作成されている状態になり、それを渡せば登録は完了です。
「なんか質問はありませんか?」
冒険者ギルドの規則を説明しましたが、時折頷いていて理解できているようです。
「うーん、まぁ特にないかな」
ロウタちゃんがそう言う。まだまとめきれてはいないようです。
「ランクDの冒険者が相当強い魔物を討伐して素材を売ってきたらどうなる?売却拒否されるのかしら?」
レイさんからはそう質問されました。
「いえ、ちゃんと素材は売却できます。ただ、証言者や確たる証拠が無ければ不正で討伐したという疑いがかけられることもありますので気を付けていただきます」
商人から買い取った素材をギルドに売却されたことがあり、実行した冒険者は罰則を受けることになりました。どんな罰則なのかは聞かされていませんが噂だと違約金が支払えずに奴隷に落とされたらしいです。
「あ、そうだ。ランクってどうやって上がるの?」
ロウタちゃんからの質問です。
「ある程度ですが依頼を完遂していくと試験をして頂きます。試験内容は依頼の遂行や冒険者同士の対決で行います。状況によっては変わることもありますので厳密には言えませんが…」
依頼を遂行し続けて実力を上げてもらい、一つ上のランクに上がる試験を受けることになります。
基本的には冒険者同士の対決が多いですが、特定の依頼を受けてもらい遂行してもらうこともあります。
状況によって変わることがよくあるので断言できない事に説明が難しくなります。
「分かったよ、理解できた。質問は無いよ」
「では次に行きますね」
「最後に魔法検査をします。この水晶を手で触れてください」
魔法適正検査で使う水晶を机に置いてそう言いました。
カウンターによっては行わない従業員もいますが私は行うようにしています。
遂行できない依頼を渡しても、私たちが損するだけです。
「そうね、ロウからやろうか」
レイさんの言葉にロウタちゃんが不安な顔を見せた。
届かないからかな?
「大丈夫よ、手が短いから手前に寄せるわ。良いわよね?」
「届かないなら寄せても大丈夫ですよ」
そう言って私は水晶をロウタちゃんの方に寄せました。
恐る恐る水晶に触り、反応した色は灰色。
無属性魔法が適正のようです。
私は最初に書いてもらったロウタちゃんの紹介状に「適正 無属性魔法」と書いておく。
「次はレイさん、お願いしますね」
「・・・・・・・・」
今度はレイさんに触ってもらいます。
でも反応は無く、透明のまま。魔法適正は無し。
レイさんの紹介状には「適正 魔法無し」と書いておきます。
「反応しないね、故障?」
「故障ではなく適正魔法無しですね」
書きながらロウタちゃんの質問を答えました。
「では、冒険者カードが出来ているかを確認しますのでお待ちください」
「これが冒険者カードです。お受け取りください」
銀色に光る鉄製のカードを二枚、机に置いて二人に寄せます。
「登録時はランクDから始まる規則になっています」
「へー、でもやっと身分証は取れたわけだね」
軽い口調で応えるロウタちゃん。
最初は一番下のランクで始まることに不満を漏らすことが多いのに、それを言いません。賢いのかもしれません。
「早速だけど、採取の依頼はある?お金が無くてご飯も食べれないから困ってて~」
間延びしたロウタちゃんの声に、本当にこの子たちは元貴族なのか疑問が出てきました。
大丈夫でしょうか…。
お読みいただきありがとうございました。




