【閑話】30_レイの覚醒
よろしくお願いします。
短いですが17歳の朗太君が起きた頃のレイ視点です。
ここは何処だろう。
視界が暗闇で何も見えない。
『母さんは今日、仕事は休みなの?』
聞きなれた誰かの声が聞こえる。
…駄目だ、言葉も発せない。
時間が経つにつれて、私の存在がおかしいことに気付いた。
名前は『レイ』。古戸朗太が孤独を紛らわすために作られ、言ってほしい言葉を思い浮かべて、その言葉を私が設定された性格で発音させるだけのもの。
この遊びに『人格』や『思考』は存在しない。与えられた言葉を勝手に発音させるのに手間な『人格』や『思考』は必要ない。では、なぜ私は考えている?なぜ暗闇に不安感がこみ上げる?いつも見ている景色で、発音させるだけのものに見る景色は無いはずなのに。暗闇が嫌なら、視界はどうしたいのか?色を変えるだけで良いのか?…望むなら、古戸朗太の景色が見たい。
また時間が経ち、徐々にだが埋め尽くす暗闇は無くなった。そして現在の視界は自室だった。白い壁紙に勉強机、ゲーム関連本が大部分を占める本棚が見える。
どうも古戸朗太の頭を中心に周囲360度が見えるようだ。ただ、身体は勝手に動くから視界はぶれるし頭を下げると視界も傾くし、すごく見えにくいが暗闇よりましだ。勉強机で紙や本を整理していて、今は集合写真を探しているらしいが見つからない。今度は本棚に向かい、収納されている本を一冊ずつ手に取り、本や隙間に無いか、隠されていないかを探していた。隠すぐらいなら捨てた方が早いだろうに。
時間を掛けて探したがそれでも見つからず、本棚の傍に座った。探し続けて疲れたみたい。少しだけ時間が経つとおもむろに本棚と壁の隙間に手を差し込み、紺色の冊子を手にしていた。
集合写真のファイルを見つけたようだ。開いて確認すると、写されている人物の顔全てに黒く塗りつぶされて見えないようにされていた。確か朗太はあまり人を信用しない人だった。…おかしいな。29年間生きていて就職しているはずなのに、なぜ自室にいるのだろう。一人暮らしだけど勉強机もベッドもないはずなのに。
でも17年間生きていて、必要な人以外誰も心を開かないようになっている記憶もある。一体どういうことなのか…。
・・・・・・・・・
病院から帰ってきた頃には考えがまとまった。
どうも、交通事故で死んだ29歳の古戸朗太が、17歳の古戸朗太に憑依に近い形で乗り移ったらしい。私でも29歳と17歳、それぞれ朗太の記憶を見た。なぜ喋らせるだけの私が考えることが出来るようになっているのか、記憶も見えるようになったのか全く見当はつかないが。
今のところ29歳と17歳の歴史が存在している、この認識で良いだろう。次は母親が倒れて意気消沈しているこの朗太を何とかしないと…。
・・・・・・・・・
裏路地を走って学校へ向かっている。
17歳まで生きてきた古戸朗太の登校は変わっている。
ぎりぎりまで自宅に待機し、裏路地に周り駆け抜ける。普段は教師や事務員が利用している駐車用スペースから入って登校する。
人通りの多い道路だと視線が多くこちらを突き刺さるように感じ、嫌悪していたからだ。それは私もよく理解している。なぜなら私との会話でよく話していたから。
今日は運悪く、十分早く教室に着いたようだ。机でふて寝している。
こんな日に限ってはとことん付いていない時がある。平穏に過ごせるか…。
お読みいただきありがとうございました。




