02.久しぶりの母親との対面_1日目
前回
1.車に轢かれたが生きていた。
2.高校生時代に戻った疑惑。
3.男の娘になった?
姿見から体全体を見る。
黒い髪を触ってみる。すげーサラサラしている。
頬をつついてみる。確かにつついた所がこそばゆい。
眼を見てみる。今は普通に目を開けているはずだが半目だ。そのため光を映していないように見えて、余計に目が死んでいるように見えてしまう。
(これが今の僕?本当に?VRとか脳移植とか、別人に取り憑いたとかじゃないよね?いや、交通事故の夢を現実に起きたと考えれば、今は昏睡状態で夢を見続けていることもあり得るけど…。)
VRと脳移植はともかく、他人に取り憑いたとういう発想はあまり一般人には出ないが。
でも昏睡状態で夢を見ている可能性は拭えない。
とりあえず、リビングに行ってみよう。何か、これは現実だと確信できるものがあるかもしれない。
・・・・・・・・・
「あら、おはよう。珍しく朝に起きたじゃない」
挨拶を掛けられてそこを向くと母親がいた。
「ん。おはよう。なんか嫌な夢をみてさ、すぐに起きた」
そう返しと、母親が唸る声でこう続けた。
「うーん、本当に珍しいわ。昨日まで母親であるあたしを毛嫌いしていたのに、今は態度が軟化しているなんて」
え!と思い、そういえばこの時は将来とか成績とか、いろいろ抱えていたからギスギスしていたんだよな、と思い出した。
「まぁ、話したい気分にもなるさ。あとさ、思い出したんだけど…」
「うん、何?まだ話したりないの?」
母親が茶化すようにそう言った。
「母さん。今から健康診断か、特定検診受けた方が良いよ」僕は検診を推進した。
「何言ってるの!あたしはまだまだ健康よ!ほんとに寝ぼけてるようね。早く顔を洗いなさい」
「はぁ。はーい」
一応だがこれには意味がある。この時は確かに母親は元気で、精神病棟の看護師をしている。ひどい患者さんもいるらしく、看護師では一番ストレスがたまるんじゃないかと考えている。ただ、精神病棟以外の看護師はどんな環境なのか全くしらないが、仕事は色々ときついはずだ。それが原因かは分からないけど、確か大病を患うはずだ。癌だったか。ただ確かに高校生時代の出来事だったことは覚えている。食事中にもう一度言っておこう。人はこんな時には信じない。
顔を洗って洗面鏡を見る。うん、少しづつ慣れてきた。やっぱこれは昔から、この世界の僕の顔だ。そして長い髪を後ろに寄せて、一束にまとめて髪ゴムで縛る。起きたときにいつもやる作業だ。やっぱり体が慣れている。
リビングに戻るとサラダとすでに焼かれている食パンが二枚、机の上に置いてあった。冷蔵庫からイチゴジャムを取りだし、パンに塗って食べた。
「母さんは今日、仕事は休みなの?」と聞いてみる。
「ん?そーよぉ」向かい側でと肘を机に付き、手に頭を載せてブラウン管のテレビを見ていた。
「じゃあさ、病院行かない?」もう一度検診を進めてみた。
「大丈夫よ。まだまだ仕事ができるんだから」と答えた。
そりゃあ聞かないよな。と内心考える。どうやって行かせよう?
ブラウン管のテレビでは、ニュースをやっていて、今日の日を思い出した。
「そういえば、今日はかなり大きい交通事故が起きるね」と今日の起きるであろう出来事を思い出していった。
母親は低い声で威圧するように「はぁ?」と言った。
「どういうことよ?大きい交通事故が起きるって?」
「場所は忘れたけど、かなり遠い場所だったかな。猛スピードで歩道を突っ込む重大事故が起きるんだ」
僕はこのようにざっくりと説明した。というよりこれぐらいしか思い出せない。
「じゃあさ、あんたは助けようとは思わないわけ?巻き込まれるだろうその人たちを」低い声でそう問い詰められる。
「できないさ。だって場所は忘れたし。それにほかの人に「ここは暴走車が突っ込みますー!来ないでください!」なんて言える?だれも信じないよ。どころか警察に職務質問されるし」
これで論破だ!僕の頭はしてっやったと内心ほくそ笑む。
「違うわよ!できないように対策しなさいと言っているのよ!!」
と叱られた。それが出来れば良いのは知っている。
「僕にはそれだけの行動力はないし、たとえあったとしても逆に僕が警察に連れていかれるよ。正直に言っても病院に強制入院だろうし」
なんか拗ねたような言い方になってしまった。
「ちなみにさ、あたしに検診を受けろって言ってるのは交通事故に巻き込まれるから?」
母親はそう言った。
「違うよ。素直に言うけど、何カ月後に癌を患うんだよ。早く進行するんだよ?」
本当に、素直に、進めた理由を言った。
「本当にそうなの?」
怪訝な目で母親が言ってくる。ってか表情豊かだな、僕の母親って。
「本当だよ。いきなり倒れたって学校から連絡がきて、病院についた時には手遅れだから、…まぁ、泣いたし」
今はギスギスしているが、生まれてから育て親が死んで普通に受け止めるぐらい、感情は死んでいない。
「はぁ…。分かったよ。今日は病院に行ってくる」
お家でくつろぐ予定だったんだけどなー、と母親は言った。
「一応言っておくと、検診を受けて再受診してくださいって言われたら危ないよ?」豆知識みたいに一応言っておく。
「なんかあるの?それ」
「何度か診察を受けて、このデータは合っていることを確認できて、初めて病名を言うんだよ。いきなり「癌です」って言われても患者を混乱させるのはまずいし、検診ミスもゼロとは言えないし」
これは朗太の持論である。少なくとも的は得ているはずだと考えている。
「はいよ。一応覚えておくわ。あと、夕方のニュースもね」
人が死んでいること自体、喜べないけどねぇ…。とため息を吐くように言った。
ちなみに母親は死に関することだけは大嫌いである。交通事故に関するこの話でも不機嫌だ。
食事は終わり食器を台所に置いて部屋に向かうとき、
「じゃあ、僕は散歩していくからね」
「はーい。…はぁ!?」
なんか驚かれた。
お読み頂き、ありがとうございました。
1.久しぶりに母親と会話
2.母親に検査を受診するよう説得
3.男の娘になっていた