08.図書室と空想
よろしくお願いします。
食堂に向かう途中、スキル「妄想・空想」で場内のマッピングを行う。
(結構分かりやすくできるな。これは便利)
平面・立体で思い描くこともでき、色を分けてバツや丸、メモ書きもできるため、かなり使いやすい。
不便なことと言えば見えた所だけしかマッピングされないことか。
通路を歩いていくと扉があるが、それを見ないで通り過ぎると頭の中には扉があることを認識されず赤い線が出なかった。
扉があったっけ?と確認で後ろを向くと確かにあり、そこで初めて扉があることを認識したらしく赤線が引かれた。
検証をしながら歩いていき、広い食堂に着いた。
クラスメイト達はすでに食べ終えたのかまだ来ていないのか、誰もいなかった。
とりあえず席に着くと、料理が運ばれてきた。
お皿の上には硬そうなパンが三つあった。
(・・・・・。)
黙って運んできてくれた人に顔を向けると、「さっさと食べろ。こっちは忙しいんだ」と目で凄んで言われたので、さっさと食べた。一応、片付けるためなのか横で待っていた。
(ん、そうだ)とあることを閃いた。
残り一本のパンをかじりながら、
「すいません。本がいっぱい置いてある所は分かりますか?」と尋ねた。
「一応、北の庭に別館にある。細かい場所は自分で探せ」
(ねぇ。どうして言葉荒いの?僕、一応勇者らしいんだよ?)と心の中で泣いた。
パンを三つ食べて(フランスパン並みに硬かった)、北へ向かうことにした。
廊下を歩いていると騎士やメイドが歩いてきたが、一瞥されただけで顔をしかめるようになっていた。
(どんだけ嫌われてんだ、僕?)
てきとーにふらふらと歩いていく。
窓から風景を見ると庭があり、木製でできた建物があることを確認できた。
高さから見て今は3階にいるらしい。階段を見つけて降りていき一階へ移動。
草しか生えていない庭を歩いていき、草や土に足を取られながらも到着。
(あの料理人の嫌がらせで、この建物は実は進入禁止だったらどうしよう?)
『あたしたちにその余裕はないわ。早く入りましょ』
そうだね。と相槌を打って扉を開いた。
部屋の中は薄暗い。柱や机の上にランプらしきものが置いてあり、うっすらとだが明るく照らしていた。
『早く行きましょ。本棚は大量にあるようだけど、本当に進入禁止なら早く出なきゃいけないわ』
(了解。見れそうな本から見てみよう)
僕は歩き出した。
1時間後。
僕は色々と本を取り出して内容を確認していく。
おとぎ話や英雄譚から、魔法に関する書物まであった。
その中には常識に関する本もあった。
『それがあることに驚いたわ。紙は貴重なイメージだから、常識をまとめる本なんてないと思ってたけど』
(ほんと、運がよかったよ。バルトが書いていたあの紙も粗悪品に見えたし)
魔法適正の確認では、バルトが書いていた紙はほぼ布じゃない?ってほどに厚く表面がざらざらに見えた。
取り出した本は10冊だが、空想ですべての文字を書き写すことが出来た。途中で消えることもなかったのでほんとに便利だ。
(さて、この文字たちはどうしよう?)
『試しに一行を頭に突っ込んでみたら?パソコンみたいにインストールされるとか?』
(そんな簡単に行けるかな?インストールじゃないにしろ、それで覚えることが出来たら本当に頭はパソコンみたいだよ)
『本当に試してみたら?』とレイはしぶとく促した。
(まぁ、じゃあ、やってみるけど…)
空中で浮いている一行、「お金について」をどう動かすかを考え、左手の親指と人差し指で試しにつまんでみる。
棒状のように持つことに成功した。
(・・・・・。頭に刺してみよう)
口に入れるか耳の中に入れるかを少し迷い、頭に刺すことに決めた。
つまんだこの一行を左こめかみに当てた。そして少しづつ入れていく。痛くはない。
一行を全て頭に入れて、『どう?なんかわかった?』と聞いてきた。
(「お金について」・・・。頭に残り続けるな)
今度は「銅貨、銀貨、金貨、白金貨、黒金貨の5種類が存在する」をジっと見る。
思い描くように「動け」と念じる。
今度は一人でに動いた。上に動かし、真ん中あたりを軸にくるくる回したり、上下に激しく動くよう念じると念じた通りに動いた。
次にこの一行をおでこに向けて、勢いよく入れる。
『・・・・。今度はどう?』
(大丈夫。頭に入れた文字列は記憶できるようになってる。忘れることは無いようだ)
『それはよかったわ。じゃあ、あたしが動かすわよ』
えっ、と思ったときにはそこら中に控えていた文字列が全て僕の頭に向かって飛んできた。
(ちょっ、まって!キャパシティが!)
『大丈夫じゃないの?天才さん?』
15分後。
(・・・・・。きついぃ。・・・・・うぷっ)
『あら、乗り物酔い?おかしいわね。何も乗ってないのに』
全ての文章は1分もかからずに入ったが、吐き気や眩暈が襲い掛かった。
収まるのに15分近く掛った。
(ひどいよ。一気に入れたら脳のキャパシティが足りなくなるよ・・・)
とりあえず、色々と知識は手に入れた。取り出した本は全て元の場所に置き、建物から出る。
部屋に戻るため、歩き出す。
『でも、便利ねぇ。スキル【妄想・空想】って』
(悲しいスキルと思ってたけど、その分使えるのかな?色々と試していきたいね)
廊下を歩いていると、クラスメイトの二人を発見した。
(うわぁ。会いたくねぇやつを見つけちゃった・・・)
先には大聖信弘とその幼馴染、高井友香が歩いていた。
二人ともこちら側に歩いており、見つかっている。
大聖信弘は黒髪短髪、顔は童顔である。だが、目がこちらを睨んでいる。
高井友香は、肩にかかる程度の長髪(言わずもがな黒髪)で真ん中からサイドに髪を分けている。目は狐のように少しだが吊り上がっている。
とりあえず横に避けるように右に避けて、歩いていく。
「おい、古戸。話がある。」少し目の前に来たところで大聖が話しかけてきた。
「あー、なんですか?」話は見えている。
「どうして訓練と授業に出てこなかった。他の皆は出ているんだぞ!?」
(うん?訓練は分かる。窓からクラスメイトがやってたやつだよな。授業って?)
「あ!そんな話あったな!忘れてた!」話は聞いていたけど忘れたことにした。(本当は何も聞かされていない)
僕の両肩をがっしり掴まれた。
「ふざけんな!皆は頑張っているんだぞ!なんでお前だけさぼってんだよ!」
怒気を含んだ言葉でそう言った。ってか怒ってんぞ。
「のぶくん、ちょっと落ち着いて。古戸くんの話を聞かない?」
(こいつの愛称が「のぶくん」?初めて聞いた)
とりあえず謝り続けて、明日は行くように言い含めて5分。
「ごめんね。明日はちゃんと行くようにするからさ」
「はぁ。分かった、明日はちゃんと来いよ」と言ってどこかへ行こうとしたとき、
「あ、そうだ!聞きたいことあるんだけど!」呼び止める。
「え、何?」高井 友香が面倒そうな声で言った。いやおまえじゃねぇよ。
「明日の訓練と授業の場所を教えてくれない?場所忘れちゃったんだー」と、嘘の理由で聞いてみる。
「訓練の場所は中庭、授業は会議室を貸し切ってるんだ。分からないならクラスメイトにも聞いてね」
大聖信弘が爽やかな顔で僕には到底出来ないことをそう言った。
「あー、うん。了解。ありがとう」礼をいい、歩いていく。
『裏表の激しいやつらね』
(本当にそうだね)
足早と部屋に向かった。
お読みいただきありがとうございます。




