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時空穿孔船《リゲタネル》   作者: 津嶋朋靖


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48/51

《楼蘭》へ

《リゲタネル》が隠れ場所から飛び上がったのは、爆発予定時刻の十分前。

 今度は迷わずワームホールの方へ向かう。

 ちょうど十分後に到着できる速度で飛び続ける。

 途中のどこかにマーフィは必ずいる。

 だが、あたしの推測が正しいなら、奴はすぐには襲ってこない。

 奴が襲ってくるのは《リゲタネル》が最も無防備になる瞬間だ。

 その瞬間が来るまで奴は現れない。

「慧。レーダーを入れて」

「分かった」

 この衛星に降りて以来、逆探知を恐れて今まで使わなかったレーダーを入れた。

 時計を見る。

 爆発まであと五分。

「敵影今のところなし、あ! ビーコンキャッチ」

「慧、ビーコン発信源の辺りの映像を出して」

 正面の映像が拡大される。

 間違えない。一ヵ月半前あたしと栗原さんが出てきた場所だ。仮設基地の残骸がまだ残っている。

 水タンクや酸素タンクはそのまま。

 傾斜路はほとんど吹き飛んでなくなっていた。

 しかし今はその方がいい。

 《リゲタネル》でワームホールに入るとき、傾斜路はむしろ邪魔になる。

 爆発まで後二分を切った。

 液化メタンの湖の上空を通り過ぎる。

 高度を落としていく。

 やがて《リゲタネル》は地表スレスレまで高度を落とした。

 爆発まで三十秒。

 レーダーには何も反応がない。

 マーフィは本当に隠れているのだろうか?

 爆発十秒前。

 《リゲタネル》減速する。

 カウントゼロ。

 右舷後方の山脈付近に閃光が走った。

 数瞬後に爆音が響く。

 そして重力波が消滅した。

 時空穿孔機始動!

 レーダーに影が現れたのはその時だった。

 山脈の後に隠れていたようだ。

 だが構ってはいられない。

 もうワームホームは開いている。

 《リゲタネル》はワームホールに突っ込んでいく。

 あたし達は光に包まれた。

 特異点を越え。

 そしてワームホールを抜けた。

 正面に小惑星《楼蘭》の姿が見える。

 帰って来たんだ。

「右舷スラスター全開!!」

 あたしが叫んだ時には慧はすでに実行していた。この辺りはすでに打ち合わせどおり。

 ついであたしは通信機のスイッチを入れ、予め吹き込んでおいたメッセージを全周波数で流す。

「こちらは日本国宇宙省所属工作船 《リゲタネル》です。現在、凶悪なテロリストからの追跡を受けてます。《楼蘭》の皆さん救援をお願いします。テロリストの名前はジョン・マーフィ。彼は一連のワームホール圧壊事件の犯人です。私達はその証拠を掴んだために彼から命を狙われ続けています。どうか救援をお願いします」

 マーフィがワームホールから出現したのはまさにその時だった。

 ワームホールを抜ける前に奴の放ったレーザーが虚しく虚空へ消えていく。

 そしてワームホールから《ファイヤー・バード》本体が出現した。

 様子は分からないが、恐らく《ファイヤー。バード》の中は混乱していることだろう。正面にいるはずだった《リゲタネル》がいないのだから。

 そう。これがマーフィの意図していたこと。

 リゲタネルが最も無防備になる瞬間。ワームホールを抜けた直後を狙うことだったのだ。ワームホールを抜けた直後なら《リゲタネル》にはもうエネルギーがない。

 新たなワームホールを開けないばかりか、グレーザー砲も使えない。

 さらに《楼蘭》に帰ったことで安心しきっている。

 そんな時に背後のワームホールから襲われたらひとたまりもない。

 マーフィはそう考えてたのだろう。

 ただ、その場合 《リゲタネル》を葬ったとしても彼は逃げることができない。

 《ファイヤー・バード》とて一度ワームホールを越えたら、もう一度ワームホールを開くまで時間がかかるはず。あたしはそう思って、マーフィがその作戦をやるはずがないと思っていた。

 だが、それが大きな間違え。

 《ファイヤー・バード》は《リゲタネル》と違い、時空穿孔機を二回連続で使えるのだ。

 《ファイヤー・バード》は《リゲタネル》を葬った後、すぐに背後のワームホールから逃げることができるのだ。

 マーフィはそうやって犯罪を隠蔽するつもりだったのだろう。

 それを予想したあたしは対策を用意しておいた。ワームホールを抜けた直後に右舷スラスターを全開にして、《リゲタネル》をワームホールの正面から逃がしたのだ。

 もし、あのまま真っ直ぐ進んでいたら、《リゲタネル》は背後からきたレーザーの直撃を受けて大破していただろう。


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