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時空穿孔船《リゲタネル》   作者: 津嶋朋靖


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42/51

大気圏突入の時間だわ

「《ファイヤー・バード》から通信が来ているよ。どうする?」

「つないで。慧」

 ディスプレイにマーフィが出た。

 顔には以前ほど余裕がない。

「マーフィさん。久しぶりね。なんか顔色が悪いけどどうかしたの?」

『あなた達が大人しく捕まってくれないからですよ』

 そりゃ責任転嫁だって。

『おかげで私は夜も寝られない日々を過ごしているんです』

「じゃあ昼寝でもしてれば」

『いったい、こんなガス惑星に何をしに来たんです?』

「観光旅行よ。あたしガス惑星のリングって大好きなのよ」

『ふざけないで下さい。さあ、ここに何があるんですか?』

「国家機密には答えられないわね」

『国家機密? まさか!? ここにワームホールが!?』

 う! 意外と鋭いわね。こっちは軽口で『国家機密』と言ったつもりだったのに……

「あらいけない。もう大気圏突入の時間だわ。それじゃあマーフィさん。今度は法廷でお会いしましょう」

『待ってくれ。本当に殺したりしない。だから大人しく捕まってくれ。そうだ! 辺境の惑星であなた達を解放しよう。それなら……』

「あのさあ、なんであたし達が辺境の惑星で暮らさなきゃいけないのよ。だったらあんたが辺境に行けばいいでしょ」

『そんな……許してくれ』

 あたしは通信を切った。

 これ以上あの男の顔を見てもムカムカするだけだ。

「船長、ちょっといいか」

 教授の顔がいつになく深刻だ。

「どうしました?」

「修理の必要がある」

「どこをやられたんです?」

「さっき第二砲塔をやられたろ。あの時、エキゾチック物質の船殻に微かな亀裂ができてしまったようじゃ」

「なんですって?」

「通常航行に問題ないが、このままワームホールに入ると圧壊の危険がある」

「修理はできますか?」

「それは大丈夫じゃ。亀裂に充填剤を注入すればいいだけだからな。ただ船外作業になるんじゃ」

「船外作業!?」

「なに。ほんの三十分もあれば終わる。反物質を蓄積するより早いだろう」

「ロボットにやらせるんですか?」

「いや、ワシがやった方が早い」

「実は」

 あたしはメタンクラゲの事を話した。

「なるほど、そんな物騒な生物がいるのか。まあ、地表に降りたら対策を立てよう」

 《リゲタネル》は衛星への降下を始めた。

 大気が次第に濃くなる。

 ん? 待てよ。

「慧! 降下中止! 上昇して」

「え? なんで」

「いいから、上昇して」

「分かった」

 《リゲタネル》は再び上昇を開始した。

「どうして上昇するのよ?」

 サーシャは不思議そうな顔をする。

「あたしの思い違いかも知れないけど《ファイヤー・バード》って確か……」

 あたしが言い終わる前に、慧の叫びがあたしの推測の正しさを証明してくれた。

「ミサイルだ! ミサイルがこっちに来る」

 やっぱり!

 この前 《ファイヤー・バード》はミサイルを全部で十二発使ったはず。

 やはり二発残していたか。

 こっちが大気圏に突入してレーダーが利かなくなる瞬間を待っていたな。

 さっきの通信も、こっちを油断させるためにやったのね。

 でも、おかげでこっちも、レーザー砲を冷却する余裕ができたわ。

「油断もすきもないわね」

 サーシャはトリガーを握りなおす。

 グレーザー砲は千キロ手前でミサイルをプラズマに変えた。

 今度は何も通信は来ない。通信はなくてもマーフィの落胆ぶりが目に見えるようだった。

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