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時空穿孔船《リゲタネル》   作者: 津嶋朋靖


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返して!!

「ちょっと待ってください」

『なにか?』

「こちらの船にマーフィさんと、お話したい方がいらっしゃいます」

『どなたですか?』

「マーフィさんの古いお知り合いの方です」

『はて? どなたかな。では出してください』

「教授、どうぞ」

あたしは通信を教授と変わった。

「久しぶりだね。マーフィ君」

マーフィの顔に驚愕が走った。

『せ……先生お久しぶりです。お元気でしたか?』

「君こそ元気そうだね。ところで今、聞き捨てならない事が聞こえたのだが、時空穿孔船の特許を誰が持っているって?」

『も……もちろん先生です』

「そうなのか。まるで今の口ぶりだと君が持っているように聞こえたのだが」

あたしもそう聞こえた。

『いえ……私はただ、日本の宇宙省が先生の特許を侵害したのかな? と思いまして……』

「なるほど、私の特許権を心配してくれたのか。ありがとう」

『いえ、滅相もない』

「ところでマーフィ君。君の乗っている船は誰がどこで造ったのかね?」

『はい。これは私の設計を元に、CFCの造船所で建造いたしました』

「はて、おかしいな? CFCの方からは、特許料の支払いがないのだが」

『なんと! これは失礼をいたしました。会社に戻りましたら直ちに事実関係を確認しまして、特許料を振り込ませていただきます』

「まあいいだろう。ところで君の例の研究はどうなったのだね?」

『例の研究と申しますと?』

「時空管共鳴通信のことだよ。どうなったのだね?」

一瞬、マーフィの顔が引きつった。

『ああ! あれは先生のおっしゃるとおり、使い物になりませんでしたので……』

「通信とは違う別の使い方を見つけたのだろう。ワームホールを破壊する兵器としての使い方を」

『な……なんのことでしょうか?』

「地球と《楼蘭》のワームホールが圧壊した現場に、あの装置があったのはどういうことかね?」

『いやですねえ、先生。私も迷惑しているんですよ。誰かが私の研究を見てあの装置を作ったんですよ』

「ではあの装置にワームホールを破壊する能力があることは認めるんだね。ただし君は使っていないが」

『もちろんです。私は使っていません』

「では、その少し前に《楼蘭》で七つのワームホールが圧壊した事件があった時、君は現場で何をやっていたんだね?」

『いえ、私はそんなところには……』

「いただろう。君はそこで佐竹船長と会ってるはずだ」

『ああ、そうでした!! 思い出しました。あの時は《ファイヤー・バード》の性能試験をあの場所で……』

「なるほど、あそこにいたのは偶然か」

『もちろんです』

「では十六年前にカペラ第四惑星の相手空港に君の操縦する貨物船が停泊している時、相手町のワームホールが圧壊したのも偶然かね?」

『な……なぜそれを……』

「偶然ではないだろう。あの船を臨検した《オオトリ》の乗組員が例の装置を目撃している」

『先生……まさか……カペラに……』

「ああ行って来たよ。この《リゲタネル》がついにカペラへのワームホールを開いたんだ。そこに行って、君のやった悪行の全てを知ったよ」

『そんな……』

「そして君がなぜそんな事をやったのかもね。エキゾチック物資を手に入れるために、どこかの惑星で知的生命体を抹殺したそうだな」

『待って下さい。それは私がやったわけではありません。CFCの一部の者が功を焦ってやったのです。私はただ、会社から隠蔽工作を依頼されて仕方なくやっただけです』

 仕方ないだって?

 なぜそんな事が言えるの?

 相手町を消し去ったのが仕方なかったなんて……

 だめだ。怒りが止まらない。

 許せない。この男だけは許せない。

 だめよ、落ち着いて。

 気がつくと、あたしは教授からマイクをひったくっていた。

「ふざけんじゃないわよ!! 何が仕方ないよ!! あんたが仕方なくやったことのために、どれだけの人が死んだと思っているのよ!!」

『どうしたんです? 佐竹さん』

「返してよ」

『返してって、何を?』

「洋子ちゃんを返してよ」

『誰ですか?』

「優しかった吉良先生を返してよ」

『だから誰ですか?』

「知らないで済ますつもり? あんたが殺した人よ!!」

『私が、殺した?』

「さあ返してよ。あたしの友達を返してよ。先生を返してよ。近所の人達を返してよ。学校を返してよ! 公園を返してよ! お父さんと過ごせなかった十六年を返してよ! あんたがあたしから奪い取ったものを全て返してよ!! 返してったら、返してよ!!」

「船長落ち着くんじゃ」「美陽。落ち着いて」

「みんな美陽を押さえつけて!! 鎮静剤を打つわよ」

 腕にチクリとした痛みを感じた。

 意識が遠くなっていく。

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