地上へ
ステーションで拝借したシャトルはトラブルを起こすことなく順調に飛行している。
もうすぐ、あの町に帰れる。
みんなに会える。
逸る心を抑えるのにあたしは必死だった。
「美陽! 軌道エレベーターが!」
副操縦席に座っていた慧が窓を指差した。
「どうしたの?」
聞くまでもなかった。
軌道エレベーターが動いているのだ。
上に向かって。
「入れ違いになってしまったわ」
「でも、今さら引き返せないよ」
「そうね」
このシャトルは大気圏に突入できるが、自力では衛星軌道に戻れない。登るときは軌道エレベーターを使っていたのだろう。
あたしは通信機を操作してサーシャを呼び出す。
『こちらサーシャ。なにかあった?』
「サーシャ。軌道エレベーターがそっちへ登ってるわ」
『こっちでも確認したわ。かなりゆっくりした動きよ。どうも私達が到着する前から動いていたみたいだわ』
「ええ!! そんな遅いの!?」
『十六年も前の型だからね』
そうか、いつも使っているボルネオ島の軌道エレベーターなら一時間で静止軌道まで登れるから、ついその感覚で考えてしまっていたわ。昔のエレベーターってこんな時間かかったんだ。
『とにかく、エレベーターが到着したら私が話を付けるわ。終わったらあなた達を《リゲタネル》で迎えに行くからビーコンは出しっぱなしにしておいてね』
「了解」
あたしは通信を切った。
「ほらね。美陽のせいじゃなかった」
「え? なんの話?」
「さっき、美陽は自分のせいで宇宙ステーションの人たちが降りられなかったって言ってたけど、こんなに遅かったら、どのみち宇宙ステーションにいた人達は間に合わなかったよ」
「ああ、そっか」
ちょっとだけ気分が軽くなった。




