個人戦準決勝:後編
戦闘描写が少ないです。申し訳ないT^T
前半シン視点 後半ガイル視点
(シン視点)
「ハァハァハァ……」
「フゥ…フゥ…」
もうどれくらい打ち合っていただろうか。互いに肩で呼吸しているほどに疲労が溜まっている。
流石にここまで残っているだけあって、このレイモンドという相手は強敵だった。打ち合う中で感じたが、恐らくは私よりも強いだろう。それでも負けたくない一心で食らいついた。
そして一度大きく息を吸って、呼吸を整えてから喋りかけた。
「ハァ……ふぅ~…。君は強いな。」
「…ありがとう、ございます。公爵家の貴方にそう言ってもらえるのは嬉しい…です。」
「私のことはシンと呼んでくれ。無理して丁寧な言葉使いも要らない。それに君のような強い人と戦えて私もうれしいよ。」
「…それじゃあお言葉に甘えて。僕のこともレイモンドって呼んでくれ。」
「分かった。」
レイモンドはそう言って目を細めた。ついでに私はずっと疑問に思ってたことを聞いてみた。
「レイモンド、君は、その、あまり表情を変えないね?私との闘いはあまり楽しくはなかったかな?」
と、少しおどけながら訊いてみることにした。なぜなら彼はずっと表情が死んでいるのかと云うほどに顔が変わらなかったからだ。
すると少し目を開いて驚いたような仕草をした。
「僕は楽しんでるよ、シン。表情が乏しいのは、遺伝?だって母さんに言われた。死んだ父さんによく似てるって。僕としては心の底から楽しんでるつもりなんだけど、周りの人からすると顔が全然変わらないから、不気味に思われてるのかな…。」
少し遠い目をしながら言うレイモンドに、少し余計なことを言ったと後悔した。
「そうなのか…すまない、私が指摘すべきことではなかった。ただ気になってしまっただけだ。戯言だと思って気にしないでくれると助かる。」
「いや、もう慣れたから大丈夫。母さんが言うには、父さんと僕はよく似てるらしいから、気にしてない」
「そうか。君の剣は父君から教わったのかい?」
「いや、母さん。父さんと母さんは冒険者だったらしいから。父さんの戦い方を母さんが覚えてたから、教えてくれた」
「そうなのか……すまない、ひどく個人的な質問に時間を取らせて」
「大丈夫。いい休憩になったでしょ?」
「ふっ、そうだな。おかげで息を整えられたよ」
「そう。なら……再開しようか」
レイモンドがそう言うと、彼からまたプレッシャーが放たれた。私も負けじと闘志を燃やす。
「フッ!!」
「シィィッ!」
彼が使うのは一般的な片手でも持てる両刃の剣。何より彼は緩急が上手い。なるほど確かにこれは冒険者の剣だ、と納得ができる剣捌きだった。ノルンも言っていた、勝って、自らが生き残るための技術。どんなに汚くも勝つための剣だ。
ノルンと散々対戦したが、ノルンは最初以降は貴族の私に…いや、私たちに合わせるように綺麗な剣を使っていた。正々堂々、真正面からのぶつかり合いを。
ガキンっと金属同士を打ち合わせた時特有の音を出しながら、レイモンドとの試合にのめり込む。
もっと、もっと、もっと私は上へ行ける!まだまだ全力を出し切っていない!!倒れるまで剣を振っていない!
「もっと!!!」
「!?」
楽しい。楽しくてしょうがない。恐らく今の私の顔は普段の取り繕った顔ではなく、強敵と心躍る戦いを楽しんでいる一人の男の顔なんだろう。ノルンは上手いタイミングで対戦を切り上げるからな。久しぶりのこの感覚がひどく懐かしい。
「レイモンド、感謝する!私は、いま、もの凄く、この戦いが楽しい!」
ギリギリと鍔競り合いの音を出しながら、至近距離のレイモンドに話かける。
「そう。僕も楽しいよ。でも意外だったなぁ。シンも僕と同類だったなんて」
「?」
「ちょっと待ってね」
「くっ!?」
そう言ってレイモンドが無理やり私を力で跳ねのけた。
「審判、試合中のダメージは実際の身体には影響がないっていう話ですよね?」
「む?あぁそうだ。特殊な魔道具でこのフィールド上に限ってあらゆる身体的ダメージを無効化している。そして他の魔道具との併用でそれぞれが受けたダメージを数値化し、それによって試合の勝敗を決定している。そして君たちには受けたダメージの少量が疑似的精神ダメージとなって帰ってくるようになっている。疑似とはいえ普段は受けない精神へのダメージによって動きなどは鈍るだろうからな。それがなにか?」
「ならこの試合だけ、互いが倒れるまで戦わせてくれませんか?勿論、シンの、相手選手が合意してくれたらですが」
「ふむ…」
ちらりと、審判の騎士は皇帝たちが観覧している場へ目線を送り、何かを確認した後かすかに頷いた。
「シン=ウォルホーク君、君はどうかね?彼の提案に乗るかね?」
そんなの答えは決まってる。
「やらせて下さい」
「ふむ。両者の合意が得られたので、この試合は互いに倒れるまで行う。または、審判の私が戦闘不能と判断するまでは続行するものとする。それで良いかな?」
「はい」
「はい」
「それでは一度仕切りなおす。私がコイントスをしてコインが地面についた瞬間から再開だ」
そう言い切り、すぐに審判の方がコインを弾いた。
私とレイモンドは睨み合い、コインが地面についた瞬間、互いにまた楽しい戦闘を再開した。
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(竜国王 ガイル=ドラゴニス視点)
「これはこれは、激しいのぅ…」
「ウォルホークの次男も頑張って食らいついているが…」
「そうですね。竜国学院の生徒の方が地力が少し上回ってますね」
儂の横でファウスト皇帝とシュバルツ皇帝が頷きながら試合を見ている。
儂も含め、この場の王たちは今回の闘技祭を良く見ている。表向きは3大国の結束を外部に示すこととあるが、人材の発掘も勿論入っている。将来国に仕え、支えていける者を一人でも欲しいのはどこも同じ。むしろ大国だからこそ、有能な人材は欲しいのだ。
「ここにギルバート殿が居てくれたら、解説をして頂きたかったが」
「確かに。しかし、最近の学生のレベルは凄まじいですな。闘技祭に出場している者の中で、ここまで残っている者たちはすぐにでも使えそうな者たちが集まっている。そうは思わんか?騎士団長」
この場には各国の王たちだけでなく、各国の近衛騎士の団長が王の背後で警備についている。また扉の外には国が誇る騎士たちが警備をかためており、非常に安全な空間になっている。
そしてファウスト皇帝が言葉とともに目だけを騎士団長と呼ばれた者に向ける仕草をした。
「はっ。陛下のおっしゃる通りかと。確かにあの年齢にしてはかなり出来ます。しかし、戦闘だけが出来ても騎士は務まりません。恐れながら、このまま登用しても使えるようになるにはやはり相応の時間がかかります」
「はっはっは!流石にすぐに使えるとは思っとらんよ。ただ普通よりも短くすむとは思うが」
ファウスト皇帝と騎士のやり取りに苦笑している間にも試合は進む。
レイモンドという少年は今までの戦闘とは打って変わって、激しい猛攻でシン少年を追い詰めている。シン少年も反撃をしようとしているが、それよりも先にレイモンド少年の攻撃がくるので、思うようにペースを作れないようだ。そして
「・・・アレは中々に痛そうだ」
シュバルツ皇帝が小さく呟くその先で、シン少年の腹に膝蹴りを見舞っているレイモンド少年の姿がある。そのまま吹っ飛ばされて地面を転がるシン少年にさらに追撃を仕掛ける。
だが、負けじと低姿勢のままレイモンド少年の足を払い、剣で無理やり押しのけた。苦しそうに顔を歪めながらもその中に笑みを浮かべながら立つ。
『まだ…立てるんだ』
『げほっげほっ……あぁ、まだ、私は、倒れん』
魔道具を通して聞こえるフィールドの会話を聞きながら、儂は限界が近いのを悟る。
「おい、試合が終わったらすぐに医療班を向かわせるようにしろ。ダメージを完全には切ってないからな。万が一がある」
「はっ。すぐに」
儂の言葉にすぐさま答え、外の者に連絡をしている姿を目から消し、恐らくはもう終わるであろう試合を見る。
『次で…決めるよ』
『あぁ…私も、この一撃に。すべてを』
「…。」
「…。」
「…。」
シン少年の言葉が切れると同時位に、双方が渾身の一撃を互いに放つ。
片やふらつきながらも両の足で立つレイモンドと、限界がきて膝から倒れるシン。
『勝者、竜国学院レイモンド!』
すかさず審判を務める騎士が勝敗の決定を下し、会場が拍手と歓声で沸く。
「良い戦いであった。両者の今後が楽しみだ」
「気持ちの良い戦いでしたな」
「ええ。本当に。うちの愚弟にも見習わせたいです」
シュバルツ皇帝の軽口に3人で笑いながら、ワインを飲む。
「これは決勝の二人が楽しみですな」
「決勝は確か…」
「レイモンドと私の甥のノルンですね。これはまた期待できそうです」
「そうか…シュバルツ殿の…。ん?そういえば、彼は自分が皇族の一人だと知っているのだろうか?」
「知らないでしょうね。愚弟が説明しているとも思えません」
「…まぁ世の中知らない方が良いこともありますからな。儂らの立場や血というのは面倒事が多い」
「その面倒を嫌って愚弟は国を出たのでしょう。そして息子のノルンにも面倒をかけたくないので言ってない、というところでしょうね」
言っていないことが後々面倒になることもあると思うが、という心配をしているシュバルツ皇帝の言葉に耳を傾けながら、儂は医療班に連れていかれるシンの横で、何か会話をしているノルンに目を向ける。
さてさて、彼はどんな試合を我々に見せてくれるのか、非常に楽しみだ。
1年生の決勝戦の前に休憩と2・3年生の試合もあるし、一般の部も大変に盛り上がっているようである。
儂は今回の闘技祭が概ね順調に進んでいるのに満足しながら、グラスを傾けたのだった。




