予選会:破
シン視点
「あーぁ。ノルンったら結局真面目にやってる」
「そんな風に言ってやるな。私もああ言われたらどんな相手でも本気で戦う。アイリスだってそうだろう?」
んー、っと唸ったと思ったら、即座に首を横に振られた
「アタシは相手に合わせて戦いたいわ。男の子がどう思うかは分からないけど、最初から全力で戦ってこっちの戦術切れで負けたら嫌だから。ノルンだって、今の試合で態々虚像を使わなくったって勝てたのに。なんでノルンが自分の手札を一つ見せたのかが分からないわ」
「まぁ、そう言われればアイリスの言う通りなんだが、これは学生としての競技大会だ。命の駆け引きをしているわけではないのだから、そこまで固く考える必要はないだろ?」
「…ま、それもそうね。あっ、アメリアの試合が始まるみたいだからアタシは応援しに行くわね。それじゃ」
「あぁ。私も丁度試合みたいだ」
「そう。頑張って」
ひらひらと手を振ってから早歩きでアメリアのいる舞台の方へ行くアイリスを見送ってから、私も自分の舞台へと向かう
相手は同級生にしては強いと噂の人物だったはずだ。私は腰の刀に一度触れ、目をつぶる。
「…よし。」
トクンットクンッと鼓動が一定のリズムを刻む。
『第7試合、シン君、ルーズ君。はじめっ!』
「「よろしくお願いしますっ」」
私は合図と同時に刀を抜き、相手へと駆けだした。
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ノルン視点
『勝者、シン!』
「まぁ予想通りね。でしょ?ノルン」
「そうだな」
実際、シンたちに対抗できる同級生が一体何人存在するのか…。上級生ならばそれなりに居るだろうが、同級生なら一部だけだろう。それにしても、今回の対戦は見ものだ。なんたって…
「シン対グレイ、か。これで負けた方が出場枠を逃すわけか。学園も中々厳しいことをするじゃないか」
「これってワザとだと思う?」
「多分な。まぁ学園もバランスを考えてある程度は操作してるんだろ」
「ふぅーん。ま、なんにせよ見応えありそうよね」
俺はアイリスに、そうだな。とだけ言って間も無く始まる対戦へと視線を向けるのだった。
ーーーー
シンvsグレイ
「まさかお前とやるなんて思ってもみなかったぜ。シン」
「私もだ」
歓声が四方八方から聞こえる舞台の上で、私とグレイは何処か嬉しそうに向かい合う
「はっきり言って、今年から卒業までの闘技祭のメンバーは俺らが基本になると思ってた。実際、実力的にもそうなる確率は高かったからな。だけどよ、俺は少し不満だったんだ。だから今!俺は!最高に興奮してる!全力で戦えるヤツとやれて」
「相変わらずの戦闘狂め。……だが、私もお前と戦えることに感謝している。他の実力者は他のブロックだからな」
「ハッハァー!ならお互いぶっ倒れるまで殺りあうぞ!」
「来い!グレイ!」
「行くぞォ!」
『シン対グレイ、開始!!』
まずは様子見を…
「様子を見ようってかぁ?!」
「!!?」
私の目の前にはグレイの拳が迫ってきており、少なくても避けられない迄にはきていた。
「ぐっ!」
「ちっ まともには食らわねぇか。シン、お前は俺らと何年付き合いやってんだよ。お前のことだ。最初に様子を見てから行動を決めるなんてのは百も承知だ。」
「ふふっ そうか。なるべく戦闘でルーティンを作らないようには気を付けていたんだがな」
衝撃で口の中が切れたらしい。鉄のような味がする。
「あん?またメンドクセェ事考えてんだな。んなの赴くままにやれよ」
「お前と私は違う、と、いう事だ。さてグレイ、さっきの一発は中々に痛かったぞ」
「そりゃ俺の拳だ。当たり前だろ」
「だから……」
「?」
『お返しだ』
「!?」
私はグレイに気付かれないように、グレイの頭上に魔力で作った剣を造り、降り注がせるのに合わせてグレイを真っ正面から斬りかかる。
「ちぃっ!」
グレイは一瞬で私をいなして前に避ける判断をしたようだ。
「知ってるさ。グレイならそうするってことは」
「しまっ…」
グレイは急いで横に飛んで回避をしようとするが、こちらの方が早い!
私の魔力剣は地面から上に向かって飛んでゆく。それはグレイの左足を掠めて空中に霧散して消えた。
「ってぇな」
「・・・グレイ、何をした?あのタイミングならあれは躱せないはずなのに、何故そんなにも軽症で済んでいる?」
「っふ。シン、お前だけが成長しているわけじゃねぇぞ?俺やアメリア、ウィルも常に強くなっていってる。あんま舐めんなよ?」
「・・・そうか」
「それと、次は俺の番だ。……俺の本気を見せてやるよ!」
グレイはそう言い放つと、身体に濃密な魔力を纏い始めた。
その濃さは、慣れない者ならば吐き気を催すほどの、洗練された魔力を。
「魔力の、鎧…?」
「ハッハァーー!!!行くぜェ!」
「! はや…」
気付いた時には私の目の前にグレイが現れ、思いっきり腹にフックを貰った
「まだまだまだまだぁぁ!!」
次々とありえない速さで繋がれる拳と蹴りの嵐に、致命傷を負わないようにするので手一杯だ…
「オラオラどうしたぁ!!シィン!」
「ちっ!あまり叫ぶな、うるさい」
私は魔力を雑に練ってから、グレイとの間に放つ。制御の甘い魔法は暴走を起こし暴発する。
間を開けるにはこれしかない。
「うおっ?!」
「っ!…」
中々の爆発が起きて、私とグレイの間には多少のスペースが出来た。
爆発と舞い上がった舞台の破片で私は手傷を負っているのに、グレイは無傷だった。
「シン、少し無謀じゃねぇか?」
「ケホッ…このくらいしなければ、つまらんだろう?それに……」
「それに?」
「見付けたぞ、弱点」
「なんだと?」
怪訝そうにグレイが私を見る。恐らくグレイ自身気付いてないのだろうが、一瞬だけ纏ってる魔力の制御が甘くなる時がある。甘いと言っても他の生徒と比べたら洗練されているが。
「なら見せて貰おうか」
「あぁ……」
凶悪な魔力の鎧を身に付けて、グレイの暴力の嵐が吹き荒ぶ。
耐えろ……耐えろ…………ここだ!!
グレイの右ストレートが私の頭を掠める中、グレイの左の脇腹付近、剣線一つ分程の隙間に私の魔力を纏わせた刀を斬り込ませる。
グレイもすぐに気が付き、払い除けようとするが、私の方が早い!
「んぐっ!」
「っ!!!」
鼓膜を突き破るかと思う程の魔力の暴発が起き、私もグレイもボロボロだ。
「ハァ……ハァ……私の、勝ちだな」
「ゴホッゴホッ!…まだだ……まだ終わっちゃいねぇ!」
「いや、、、終わりだ」
私が指を指した方には、グレイの片足がステージの規定ラインを越えていた。つまり…
『勝者、シン!!』
「なっ!…………クソッ!!!」
荒々しく地面を叩くグレイとは裏腹に、ワァァァッと熱狂している観客席
私は一礼してから、グレイに背を向け歩くのだった。




