悪影響?
お久しぶりです。三日月です。
ここのところ忙しかったので、やっとの更新です。これは本編には直接はあまり関係してこない話なので、暇なときにでもどうぞ!
今後も忙しそうなので更新は不定期です。
心地好い風を身体全体で受けながら、俺は久しぶりにギルドに向かっていた。
最近は学園の方も落ち着いてきて時間が取れるようになった。この間はウィルとリリィのデートイベントもあったしな。
「こんにちわー。何か依頼あり「丁度いい!こっちきて!!」……はい?」
入った瞬間にジーナさんに呼ばれて、別室に連れてかれる。いつもならジーナさん好きな人達から睨まれるのだが、今回は憐れむような目を向けられた。なぜに……
『あー、今回の犠牲者はアイツかぁ』
『よかったぁ…』
『あれ系の依頼ほどやりたくないモンはねぇよな』
『とりあえず……』
『『『俺たちじゃなくて良かったぁ!!』』』
……そんな会話が聞こえ、俺はどんな依頼を受けるのだろうかと恐怖を覚えた
ジーナさんに引っ張られ、連れてこられた部屋に居たのは初老の紳士。
俺を見ると、綺麗な一礼を見せた。
「この子です」
「本当に居たのですな…御名前は伺っております。ノルン様でよろしいですかな?」
「あ、はい。ノルンです」
「私はとある貴族の執事を務めております、スワンと申します。故あって、主人の名をお教えすることが出来ないのですが、御許し頂けると幸いでございます」
「大丈夫です。それで何故俺が呼ばれたのですか?」
ジーナさんの方へ視線を向けると、スワンさんが説明を始めた。
「実は、我が主のご子息様が冒険者になることを諦めさせて欲しいのです。本来なら帝国で貴族がなんたるかを学ばせるのですが、諸事情により他国にて学ぶことになり、それが先日帰ってきたのです。そうしましたら……」
「そしたら?」
「いきなり『冒険者になる!』と言い出しまして……恐らく他国で何かあったのだと思うのです。それに、主人は坊ちゃんに対して甘い所がございます。坊ちゃんが冒険者として成功しないのは主人も理解しているのですが、甘い分厳しい事を中々言えないのです。
そこに帝国の冒険者ギルドにご子息と変わらぬ歳の子が居るという話が入ってきまして、坊ちゃんが駄々を捏ねまして……
ですので、その冒険者の方に現実を見せて坊ちゃんを正気に戻してほしいと考え、今日参上致しました。」
「要するに、恨まれ役になれと?」
「……はい」
「ノルン君、ギルド的にも出来れば受けてほしいの。
無駄に命を散らすのをギルドは良しとはしないわ。それに貴族のご子息だと、不自由が少ない分、甘い考えを持ってるのが多いのよ」
「……申し訳なく」
「いえ。俺は受けても良いですが、恨まれる分保証はしてほしいです。今後、その事を理由に何かしら訴えられても困りますし。あと、どうやって諦めさせるのか段取りとかもあったら教えてほしいですね」
「段取りは単純よ。冒険者という職業に恐怖を覚えてもらえば良いわ。」
「例えば?」
「魔物を間近で見る」
「……俺はかまいませんが、最悪その子死にますよ?」
俺の言葉にスワンさんが瞬時に反応する
「そ、それは困ります!百歩譲って怪我ならまだしも、死ぬとなると……」
「最悪の場合です。俺や仲間の力量を遥かに越える魔物を相手に、戦えない子供を守れる自信はありません。それに冒険者という職業には”安全”なんて言葉はありません。多かれ少なかれ危険が付きまといます。それにやるなら徹底的に恐怖を覚えないと、恐怖が薄れた時に同じことの繰り返しになってしまいますから」
「……」
「スワンさん、ご子息様は武の才能がございますか?」
「いえ……こう言っては坊ちゃん及び我が主にも失礼なのですが、全く才能はありません」
「それなら気配を読むことも無理ですね?でしたら俺たちとその子の周囲を私兵で囲えば万が一に備えられると思います」
「おお!確かにそれなら比較的安全ですね!その案で我が主に提案してきます」
スワンは大急ぎで部屋を出ていった。
「……ノルン君、本当にいいの?私兵に囲まれてたら、もし何かあったらその場で処罰される場合もあるわよ?」
「そうならないようにします。魔物といってもゴブリン程度の魔物で充分恐怖は煽れます」
「そう、ならお願いね。もし何かあってもギルドは冒険者の味方だから。忘れないでね」
「分かりました。」
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・・・依頼を受けなければよかったと、依頼当日になって思い知った。そしてやけに他の冒険者が最近優しかった理由が分かった。
「もう嫌だ!疲れた!休むぞ!おいそこの白髪、休憩の準備をしろ。あとそこの女は僕の肩を揉め!」
……心底、レオとリリィを別行動させていて良かったと思ってる。俺とアイリスじゃなきゃとっくの昔にクソガ・・・子供にブチギレてると思う。俺ですら、なんでまだ12歳の子供に指図されなきゃならんのだと考えているのに。
「はぁ。いい加減にして下さい。まだ前の休憩から1時間も経ってないのですよ?それに俺たちはあなたの従者ではないので、いくら命令されようとも従いませんよ」
「なんだと!僕は貴族だぞ!お前たちみたいな平民とは違うんだ!」
「別にそれは構いませんけど?あとこの程度の事が出来ないのなら冒険者は諦めた方がいいでしょう」
「ふん。お前たちみたいな子供が就けるんだから、僕みたいに選ばれた人間なら、過去に英雄とまで言われた冒険者に並べるんだ!僕はお前たち平民とは出来が違うんだ」
「「はぁ・・・ハイハイ、ソウデスネ。」」
「わかったなら休憩の準備をしろ!」
・・・もうやだ。帰ったらジーナさんに文句言おう。
装備と自信だけ立派な貴族の子供を相手が数時間続いて、ようやく魔物が出る場所まで出てこれた。
こんなとこ普通の冒険者たちなら1時間もかけないで来れるのに…
魔物と出会う前からこんなにも(精神的に)疲れるのは初めてだ。まぁ、あと数分もしないうちにこの子も静かになると思うけど。
俺たちの前方に3匹ほどの魔物の気配を感じる。恐らくこの場所周辺だとゴブリンとかだろう。
少し歩くと魔物もこちらに気付いたのか、もの凄い勢いで俺たちの方へ来る
姿を現したゴブリンの醜悪な容貌に散々偉そうにしていた子は、内心ビビりながらもまだ偉そうに俺たちに命令してきた。
さてここからが本番だ
「ひっ・・・お、おい!お前ら魔物をやっつけろ!」
「なぜです?」
「・・・は?だ、だから早くあのゴブリンどもを殺せと言ったんだ!」
「ですから、その理由がわかりません。あなたは冒険者になるのでしょう?ならあなた自身が殺すべきでは?」
「なっ!僕の命令が聞けないっていうのか!」
「?言ってる意味が分かりませんね。アイリス、分かるか?」
「いいえ。生憎アタシにもわからないわ」
「ふ、ふざっ」
「はやくした方がいいですよ?魔物がすぐそこまで来てますから」
「えっ…?う、うわぁぁぁ!!!!」
一番弱いと判断されたのだろう。ゴブリンが子供目掛けてこん棒らしきものを振り下ろした。
多少なら怪我しても、それで冒険者を諦めるようになれば許されるように許可は取ってあるから、少し痛い目にあってもらおう。
振り下ろされたこん棒は、咄嗟に構えたその子の右腕に直撃し、べきゃっと鈍い音が響いた。
もちろんその直後には男の子の絶叫が森に響いたのだが。
「あああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いぃぃぃぃぃぃ!!!!」
「どうしたんですか?英雄になるんでしょう?未来の”英雄”がゴブリン程度に後れを取ってどうするんです?」
「ごべんなざいっごべんなざい!!た、だすげてぇ!!」
「俺たちの依頼の契約の中に、あなたを助ける、という内容はないので助けません。ほら、はやく殺さないと貴方が死にますよ?」
「あっあっああああああああ!!!あっう…………」
俺に”死ぬ”と言われて、どうやら今後待っている惨たらしい死に方を想像して、失神してしまったようだ
さて、それじゃあさっさと片付けますか。
トドメを刺そうとしていたゴブリンを斬り殺し、残りの2体もアイリスが矢で撃抜いて片付いていた。
「さぁて、と。これで依頼は完了だな。ですよね?」
俺は周囲に隠れている私兵の方へ向かって問いかける。すると一人、私兵というには違和感がある男性が姿を現した。
「うむ。思ったより過激でびっくりしたが、依頼は達成でいい。その愚息も二度と馬鹿なことは言わないだろう。」
おっと、どうやらパパさんだったらしい
「そうですか。では骨も治しておきますね。あとは俺はギルドへ達成報告に行くので。
リリィ、来てくれ」
私兵の更に奥から、リリィとレオが歩いてきて、リリィはさっさと腕の骨を治していた。
「それでは俺たちはこの辺で失礼します」
「あぁ。ありがとう」
一礼して、俺らはギルドに帰って行った。
その後、この依頼の遂行が貴族の間に広まったらしく、『冒険者を諦めさせてやってくれ』という感じの依頼がギルドに増えたのは余談だ。
冒険者たちが受けたがらないのは、貴族(子供)が冒険者を下に見て高圧的にくるのが多いのが一番の理由です。冒険者を下に見ていても、過去に英雄と呼ばれて語り継がれている冒険者の話を聞くと、冒険者になりたいと思うという…矛盾してるけど、それが子供の心だと思います笑
子供のころは自分が他人より優れていると思うこともありますしね。




