再会
どうぞ!
「すいません、依頼達成の確認お願いします。」
俺たちはギルドに着いて早速、依頼終了の確認と素材の買い取りをしてもらう。
「はい、確認終了しました。こちらが報酬です。素材はどうしますか?ギルドで買い取るか、持ち帰りますか?」
「買い取りで。」
「了解しました。」
受付の奥に行って何やらやってる職員の人を見ながら、この後どうするかを考えていた。
あと残ってる依頼が、討伐が2件と採取が1件。討伐の方は歩いて半日程度の近場だから問題はないが、採取の依頼が歩いて3日程の場所に行かなくてはならない。久しぶりに遠出をするので色々準備が必要だ。
霊薬草というモノの納品で、なんと討伐依頼よりも報酬は高い。理由が霊薬草が採ると通常よりも早く鮮度が落ちるそうで、急いで納品しなければならず、更に採れる場所が山の頂上付近。もちろん魔物も生息している。
俺たちもこれは下手すると失敗しそうなので、念の為に違約金の分のお金をギルドに預けておいた。
しばらくして、買い取りの査定が終わりそうな頃合いに、担当をしてくれてた職員の女性が少し興奮した様子で戻ってきて思わず軽くのけぞってしまった。
「あの!」
「は、はい?」
「こ、これって、赤鎧蟻の女王の肉ですよね!?こっちは頭殻に顎、腹甲…どうしたんですかコレ!?」
「いえ、巣を攻撃したら出てきたんで討伐したんですけど…」
「Dランク4人の1パーティで?女王を?」
頷き返すと周囲と職員から軽いどよめきが起こった。
『おいおいマジかよ…Dランクなら複数パーティで討伐が普通だぜ?いくら単体Cランクで弱いほうつってもなぁ。しかもたったの4人の子供が…』
『俺たちも今じゃ討伐出来るけどよ、あいつらの歳ではぜってー無理だわ。』
『本当にあいつらだけだったのか?誰か手伝ったんじゃ…』
『いやでも、あいつらだぜ?今ノッてる”期待の新人”じゃん。わからねーよ?』
etc…
・・・うん。この女性が驚いてる理由が分かった。俺たちはやらかした。余り目立ちたくないんだけどなぁ
「ともかく、改めてギルドカードをお預かりします!報告に虚偽がないかを調べさせてもらいます!」
「そんなことできるんですか?」
「はい。特殊な魔法が掛かっているので。冒険者が虚偽の報告をして、不正に報酬を受け取ることが出来ないようにする為の処置です。」
カードってそんなに高機能だったのか。まぁ調べられても困らないので素直に4人分渡す。
丁寧に受け取った女性は急いで奥に行ってしまったために、俺たちはテーブルについて飲みながら時間を潰す。
意外とギルド内の酒場はメニューが豊富で、子供でも楽しめそうな食事が用意されている。
そんな中でも俺が特に飲みたいのが、”純米大吟醸 暁光”という酒。
前の世界でもそこまで飲んだことが無い純米大吟醸。それがギルドにあるのだ!
ただ値段は高く、一升で金貨40枚、一合で金貨5枚と大変高価な酒なのである。
これを見つけたのは最近で、見つけたときは目を見開いて固まってしまった。これは初代勇者が伝えた酒で、東国からの輸入の米に似たもので作られているらしい。
この世界だと冒険者が重要な依頼の前に景気づけにショットグラスで少量飲むのが一般的だ。
ショットグラスで飲むというのがなんか少し面白いがこの世界だと普通らしい。
困難な闘いも勝利へ導いてくれる酒として有名なのだ。ああぁ、早く一升買ってゆっくり飲みたい・・・
頭の中でずっと”暁光”に思いを馳せていると、職員の女性が戻ってきた。
「お待たせ致しました。審査の結果、不正なしと判明しましたのでカードをお返しします。並びに、皆さまを疑い申し訳ありませんでした。深くお詫び申し上げます。」
と、なんか深刻そうな顔で頭を下げられたので、慌てて気にしてないことを伝えてからギルドを出て行った。
因みに、買い取ってもらった合計金額は金貨2枚と銀貨9枚で、まさかの依頼の合計報酬よりも多かった。なんでも状態が良くて、素材として最高品質だったことに加え、女王の肉は高額で取引されているらしく、現在数が少なくてさらに値段が高騰しているとのこと。思わぬ追加の報酬に思わず口元が緩くなってしまう。
夕方まであと数時間だが、残りの依頼も出来るだけ済ましてしまおうと、俺たちはまた外へと繰り出すのだった。
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帝国のギルドを出発して2日目の夜。パチパチと静かな夜に響く焚火を聞きながら、これからのことを考える。
もう受けた討伐依頼は討伐証明部位だけ取って完了している。蟻よりは簡単な魔物とデカい人喰い熊だったので、さっさと終わらせた。
問題は、霊薬草。なんでも白狼様と呼ばれる山の主がいる白狼霊山の頂上付近にしか生えない薬草らしい。山なのは別に問題はないのだが、そこが一年中雪に覆われているのが問題だ。しかも今の季節はもうすぐ冬。かなり厳しいと思う。
装備と魔法で寒さには耐えられるとは思うが、その分の魔力消費や慣れない環境で集中力を切らさないようにに気を付けなければ。
山では魔物との戦闘はなるべく避けて、最速で採取して戻ることを予定している。
レオたちにはもう説明して了承を得ているが、なにか胸騒ぎがする。だがそこまで嫌な感じはしない。
何事もなければいいが。
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「…7、8、9、10!よしこれで丁度依頼分は揃った。」
あとは個人用に5束くらい貰っていくか。
「ノルン!結構吹雪いてきたわ!急ぎましょっ」
「そうだな。よし、行こう。」
急いで霊薬草を闇魔法で保存し下山を開始したが、可笑しいくらいの猛烈な吹雪きによって視界が確保できない。
何とか俺の光の結界とリリィの炎・風の複合結界で守られているとはいえ、これでは魔物と遭遇したら最悪だ。
「一旦何処かに避難しよう!この吹雪きは危険だ!」
「ノルン!あそこに丁度いい洞窟があるぞ!」
レオの指さす方向を見ると、ぽっかりと空いた大人が立ってでも入れる程の大きさの洞窟があった。
急いでその洞窟まで歩を進めると、結構奥まで続いてるようで、雪が入らない場所まで避難することにした。
ようやく休憩できるであろう場所まで移動し、ホッとしたのも束の間。洞窟の更に奥から何かが近付いてきてる気配がした。
野生の熊か何かかと思い警戒していると、しわがれた女性の声が聞こえた。
「待ってたよ。そう警戒しなさんな。ワタシはあんた等を傷付ける気なんてありゃしないよ。」
「……。」
「…まぁいいさね。ついて来な。」
現れたのは大きな白い狼。狼だがその口からは人語が語られ、その眼からは理性が感じられる。
この狼が”白狼様”なんだろうか?本人が言うように敵意は感じられないので、一応ついていくことにした。
数分歩き、着いた場所には一人知っている顔がいた。
「おばあちゃん、お帰りな、さ…」
「ただいま。シェイ坊。」
そこに居たのは、あの日、死体がなかったので爆発に巻き込まれたと思っていた人型の魔物が、簡易な寝床に伏していた。
こちらを見て呆然とするソイツと目を細め見る俺たち。そして、双方を観察する白狼の構図が出来上がっていた。
「シェイ坊、お前さんが謝りたいと思ってた子らを連れてきたよ。」
「あ、え…?」
話が見えずに俺は白狼に尋ねる。
「どういうことです?なぜこいつが此処に?」
「ま、そのくらいは説明してやるさね。」
俺たちにゆっくりと説明を始めた白狼。曰く、帝国を襲撃した日、最後は自分を改造した男によって心臓部を抜き取られて力尽きたはずだった。が、なんの奇跡か人型シェイは爆発によって吹き飛ばされはしたものの、身体はそこまで損傷なく、本能的に逃げようとあてもなく彷徨って此処までたどり着いたらしい。
その後、いろいろあったらしく、白狼がシェイを引き取り面倒を見ていたそうだ。そして、シェイは白狼には言わなかったが、心の何処かで俺たちに、自分が被害を負わせた人たちに謝罪をしたいと考えていた。それを白狼が勝手に汲み取り、丁度山に来ていた俺たちを此処まで誘導したらしい。
「と、こんなもんかねぇ。色々と言いたいことはあるのは分かってるが、まずはシェイ坊の話を聞いてくれないかい?」
「……わかりました。」
俺はほかの皆の顔を見てみるが、3人の中でもレオが特段厳しい顔をしてシェイの方を見ていた。おそらくレオの性格上、気に入らないのだろう。
「僕、その……ごめんなさい!謝れば済むとは思ってないけど、それでも謝りたい…君たちに、そして僕が手を掛けた人たちに…。
勝手だと思ってる。僕はあの男にいいように使われてた。自分の感情に飲まれてアイツの甘い言葉に惑わされて、僕は魔物に堕ちた…。君たちが羨ましくて、自分が情けなくて…
アイツと一緒に居て、すぐに何処かおかしいと気付いたけど、もう遅かった。アイツは狂ってた。今ならわかる。
僕はそれでも、もう引き返さない場所まで来てることは自分で理解してた。けど…どこかで助けて欲しいと思ってた。
あの日、頭の中は怒りでいっぱいいっぱいだったけど、君が僕の腕を斬り飛ばしたとき僕は『止めてもらえる。この人なら止めてくれる』って思った。
……勝手だと思う。だけどこの気持ちだけは信じて欲しい。ごめんなさい…。」
俺たちは無表情でシェイを見下ろす。確かに此奴からは反省の色は見られる。が
「…おい、お前は何人があの日死んだか知ってんのかよ?」
レオが小さく低い声でシェイに問う。答えを求めての言葉ではないだろうが、シェイは悲しげに首を横に振る。
「ッ! 281人だ!俺たちが守れなかった人たちだ!!あの日、あの男とお前と魔物のせいで死んでいった人たちだ!
確かにその全員をお前が殺したとは言わない。言わないが、それでも今更謝られたって死んだ人は帰ってこないっ。」
レオが拳を握り怒りに耐えるのを見ながら俺もシェイに言う。
「シェイ、俺はお前を許すことはない。恐らくそれは全ての人がそう言うだろう。いくら謝られたとしても。」
「…わかってる。それほどの事をした自覚は、ある。……いっそ今ここで君の手で殺してもらっても構わない。いや、殺してくれ…。お願いだ…」
上半身を起き上がらせ頭を下げるシェイ。白狼の方をチラッと見るが、何もリアクションを取らないので視線を戻す。
「お前が死ねば解決するのか?」
「それは…」
「自分が楽になりたいだけじゃないのか?その罪悪感から逃れたいだけじゃないのか?」
「……。」
黙りこくってしまったシェイに俺はその罪を言う。
「お前はお前のしでかした事に対して逃げているだけだろう?俺たちに謝ったのもその意識から解放されて楽になりたいと無意識に思ったから、謝罪を口にしたんだろ?
そして、許されないから今度は死んで罪を償おうとする。そうすればもう苦しまないから。魔物の肉体と罪の意識から解放されるから。」
「な、ならどうしろって言うんだよっ…僕は、どうすれば…」
慟哭するように問うシェイに俺は残酷な答えを言う
「生きろ。」
「え?」
「生きてその罪悪感に苛まれろ。その感情に押しつぶされても死ぬことは許さない。
自分が殺し、傷付けた人たちの事を思い出しながら毎日を過ごせ。
命が尽きるまでそれを忘れるな。
周りに断罪を求めるな。
もう過去は変えられない。」
しばし呆然としていたが、小さな、だけど決意のこもった声でしっかりと頷いた
「……はい」
ポタポタと涙を流すシェイ。ふと視線を感じ振り向くと慈愛の目で此方を見る白狼が穏やかに笑みを浮かべた。
「お前さんは優しいな」
「俺は優しくなんかありませんよ。コイツにとっては辛いでしょう?
それに、あの戦った日に比べて、魔力が圧倒的に少ない。もう今じゃ動くのも辛いほどに。でしょう?」
「…そうさねぇ。ワタシも此処まで早く悪化するとは思わなんだ。よくてあと2週間持つかねぇ…」
「俺はそんな奴に死ぬまで苦しめと言ったんですよ」
「それでもシェイ坊が生きることを否定しなかったろう?それは誰にでも出来ることじゃあないよ。
だから、ありがとう。」
「…ぼ、僕からも、ありがとう、ノルン、さん」
「……。」
俺は複雑な気分になりながら、一人と一匹に背を向け歩き出す。レオ達もそれに続く。
白狼が俺たちを見送るといってついてきた
「今回はありがとうねぇ、最悪シェイ坊は殺されると思っていたから。」
「では何故入れたのですか?」
「それでシェイ坊が苦しずに済むのならいいかと思ってねぇ。お前さんらは当事者だし。」
こうはいっているが、この白狼はアイツを守る為に動くのは想像がつく。それほど白狼が愛情を持ってシェイに接していたのは分かるから。
「……それでは俺たちは行きます。依頼の途中だったんで。」
「あぁ、そうだったねぇ。それなら私が麓まで送ってあげようかねぇ。」
白狼の魔力が高まった後、一瞬のまぶしい光が収まると、そこは霊山への入り口だった。
「さて年寄りにはこれ以上きついから此処までだ。」
「いえ、十分です。ありがとうございます。」
「白狼婆さんありがとなっ!」 「ありがとうございます。」 「……ありがとう」
満足げに俺たちを見る白狼は俺たちに「またおいで。歓迎するよ」と言い転移魔法で帰って行った。
俺は若干気分が下がっているが、レオ達に気取られないように。
「さて、帰るか。」




