”アニータ”
おひさしぶりですー^^
どうぞー!
鋭く空気を裂く音が、俺たちしかいない訓練場に響く。
なぜ俺たちしか居ないのか?それは時間が早すぎてである。多分朝の5時過ぎ位。
まだ日がやっと出てきた程なので、流石に冒険者も依頼を受けにくる人は居ない。
それでもギルドは24時間空いていて、絶対ギルドの職員がいる。
ただ余程ヒマなのか、受付にいた一人は机にグダーっとして近くの壁の汚れを数えていた。
他にもすごい細かい所を延々と掃除してる人がいたり、細々とした作業を繰り返してる人も居た。
そして俺たちの姿を認識した瞬間に、全員からの"仕事寄越せオーラ"が凄かった……。
……職員の人たちが優秀ですぐに仕事は片付くのだろう。多分。
俺はそんな職員の人たちに訓練場を使いたい旨を伝えたら、笑顔でテキパキと準備をしてくれた。後で知ったが、普通は自分で用意するんだとか。……どれだけ暇だったんだ。
そんなこんなで、俺たちは最初各々の訓練をし始める。因みに、ギルド職員の人がたまーに仕事欲しさからかチラチラと様子を見に来るが特に何もないので、職員が肩を落としながら帰っていくのが何回もあった。
訓練を始めてから1・2時間位たっただろうか?少しざわめきが聞こえてきて、恐らく冒険者たちが依頼を受けにきたのだろう。
中には訓練場にくる冒険者もいたが、数人だ。その人たちも俺たちを見て少し目を見開いていた。
それも気にせずに今度は2対2で分かれて打ち合いを始める。
「疾ッ!」
「うぉっ!あぶね!」
俺が刀でレオンに斬りかかるが、盾で防ぐかランスて流される。
レオンも負けじと容赦なく突きや薙ぎ払いをしてくる。お互いを信頼してるからこそ、結構本気で出来る。
でも、俺たちは久しぶりに(制限してるが)思いっきりやっていたため熱中していて、結構長い間打ち合って、流石に一休みしようと打ち合いを止めた時に周囲を見て驚いた。
結構な数の冒険者たちがそこら中で打ち合いをしていた。中にはアレクさんやライさんたち、夜勤をしていたギルド職員もいた。
職員の人たちは案山子相手ではあったが、冒険者よりも鬼気迫るものがあった。……ストレスが溜まってるんだな。
「……訓練場って人気なんだな。俺たちだけで使いすぎたか?」
俺の独り言に返す言葉が飛んできた。
「そんなことないわよぉ~」
声の方を振り返ると、ジーナさんがいた。おはよう。と挨拶されたので挨拶を返す。
すると、さっきの否定の続きを話し始めた。
「いつもならこんなに人は居ないわよ。多くてこれの半分から3分の1程度ね。」
何故今日は人が多いのか問おうとする前にジーナさんが口を開く。
「何故かって?それは貴方たちよ。」
「???」
「ぷっ、意味が分からないって感じね。
貴方たちがあんなに熱心に訓練をしてるものだから、アレクとかが負けるもんか!!って始めちゃったら、なんかその雰囲気が周りに伝播してね。
冒険者って結構負けず嫌いが多いからこうなったのよ。
夜勤明けの職員も、仕事やり尽くした後で暇だった所を貴方たちが来たから数時間ぶりに暇が潰せて喜んでたわ。」
「そうなんですか…。」
まぁ喜んでたならいいの、かな?
でもどうしような…流石にこんなに居るのにまた激しく訓練やり始めたらやっぱ迷惑になりそうだし……。
悩んでると、またしてもジーナさんが
「いつもあんまり使われないんだから、思いっきりやっていいわよ。ギルドは冒険者の訓練を制限する規定なんてものも無いのだから。
ただ、貴方たちはもう少し殺気を抑えてやってね。訓練してるときに実戦みたいに殺気出してるから、何事かと思ったわよぉ。」
ウフフッと笑いながら告げるジーナさんに、アイリスが小声で
「あのくらいやらなきゃ、此方が殺られるからなぁ…」と。
リリィにしても「……あれが、普通じゃ、ないの?」とレオンに訊いていて、レオンも「え?違うのか?」と逆に聞き返していた。
取り敢えず俺はノーコメントでいると、アイリスたちの話が聞こえたらのか、ジーナさんの笑顔が若干固い感じがする。
だがすぐに表情を自然なモノに変えて「ま、今日は依頼しないのでしょ?存分にやりなさいな。」
と手を振って帰っていった。
結局ジーナさんの言う通りに、今日は存分にやることにした。
しかもレオンが「こんだけ居るんだから、俺たちだけじゃなくて他の人ともやりてーな!!」
とのことで、様々な冒険者に頼んで一緒に訓練することにした。
勿論、中には断る人も居たが、意外と多くの人が付き合ってくれた。
やっぱり相手が人間な分、考えて戦わなくてはいけないので新鮮な感じだ。
戦い方も全く違うので、やっていて楽しい。
パワーでどんどん攻める人、速さで撹乱しながら隙をつく人など、一人一人特色が違う。
それに、此方には少ない"経験"によって、カバーされることも多々あって、冒険者としての差を感じることもある。
今付き合ってくれてた人が「そろそろいいかな?これから依頼があるんでね。」と言ったので、お礼を言って別れた。
そこへ
「おーい、白髪の!アタイともやらないかい?」
との声が聞こえ見ると、槍を持った女性が居た。
特に断る理由もないので頷いて返す。この時俺は周りの冒険者たちの話し声が聞こえていなかった。
『うわっ、あいつ”姫”相手にすげーな…』『かわいそーに・・・あいつ今日は動けなくなるな』
『てかその前に、いくら期待の新人でも”姫”の攻撃受けられるか?』『下手すりゃ死ぬぞ・・・』
などなど、結構なことを言われていたらしい。俺の耳に入る前に”姫”が睨んで黙らせていたが。
「さて、それじゃあ始めようかね!あ、アタイはアニータってんだ。これでも腕には自信あるんだ。ヨロシクな白髪の。」
この女性はアニータさんと言うらしい。元気が一番!みたいな感じの明るい女性というのが第一印象だ。
これも後で知ったのだが、この人現役Sランクの1人だったみたい。そして”雷紅姫”というチームのリーダーらしい。
「よろしくお願いします、アニータさん。俺はノルンって言います。」
「あいよ!さぁ、それじゃあやろう!すぐやろう!戦いたくてウズウズしてんだ!」
そう言うと笑顔で槍を構えた。俺も慌てて構えるが全然攻撃する素振りがない。どうやら先手を譲ってくれるようだ。
アニータさんは笑顔だが、目が完璧に獲物を狩る目つきをしている…なんか殺されそうで怖い・・・
今までの人たちよりも強そうな気配に緊張するが、胸を借りるつもりで攻撃を仕掛ける。
「・・・ハァッ!!」
まずは様子見の軽い一撃を繰り出す。反撃されそうになってもすぐに躱せるように。
それまで全く動く気配を見せなかったアニータさんが、攻撃が当たる瞬間に身体がブレるように動いた。
「なんだい。様子見とか余計なこと考えなくていいからさ、最初からガンガン本気で攻めてきな。・・・でないとケガするよ?」
俺の一撃を槍で払いそのまま俺の首筋に刃を添えてそう言った。
強い…軽そうな感じとは裏腹に、身のこなしから槍を扱う技術まで、今日手合せしてもらった冒険者のなかでも一番だ。これは本気で行くしかなさそうだ・・・。
「・・・すいません。次から本気でいきます。」
「いいねぇ、その目。綺麗だよ。
それに言ったろ?腕には自信があるって。もしアタイがケガしてもお前の責任とかにはしないからどんどん来な。」
「・・・いきます。」
「さっさと来な!」
獰猛な笑みを浮かべるアニータさんに、俺は今の俺が出せる剣技の全力をアニータさんへとぶつけるために、襲い掛かった。
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「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・」
結果は惨敗だった。訓練なのだが、アニータさんは余裕綽々といった感じで俺の攻撃を処理していった。
時々『おっと!今のはいいねぇ!!』や『ほれっ足元がお留守だよ!』など言われた。
しかも、良い攻撃だと言ってはくれても、それすらも簡単に返されるものだから精神的にクる。
「いやぁ、やっぱり戦うのは楽しいねぇ。しかもまだ子供のくせに中々いい線いってるよ、白髪の。」
「・・・ノ、ルン、です」
「アタイ、人の名前覚えるの苦手でねぇ・・・。ま、気が向いたら覚えとくよ。」
さてと、といいながらアニータさんはそのまま周りで見ていた冒険者さんたち相手に訓練を申し込んでた。しかも1対複数で。
申し込まれた冒険者の人たちは最初断ったものの、アニータさんからの挑発により、まんまと訓練をさせられるはめになっていた。
結果、ジーナさんが止めるまでに俺たち4人を含む、訓練場に居たほぼ全ての冒険者がアニータさんによって沈められた。
「なんだい、なんだい。だらしがないねぇ。アタイ一人相手に。しかも1対1をやったのは白髪のだけじゃないかい。」
全く、とため息を吐きながら呟くアニータさんだが、俺のときは明らかに手加減をしていて、長く打ち合うことを目的としていた気がする。
『今度はハルトかエクスさんとやってみようかねぇ。』と呟きながらアニータさんは訓練場から出ていった。
そしてそれから数十分後、休憩をして様々な人達と談笑していた時に血相を変えたギルド職員が訓練場に入って来て衝撃的なことを口走った。
「みなさん大変です!!く、クーペ王国が魔物により亡びました!!!!
これからギルドからの緊急報告があるため、冒険者の皆さんは至急ギルドのホールに集まっていただきたいっ!!」
アニータがノルンの目を綺麗だと言ったのは、闘志の輝く目が綺麗だということです。ちょっとした戦闘狂です。
そして亡んだ国の名はクーペ王国です。国家としては小国ですが、周りからつぶされないだけの実力はありました。




