初・捲き込まれと依頼受注
依頼に出発~。
では、どぞ!
「…………ん。……朝か。」
もうすっかり習慣となった時間に起きた。
それに寝ながらも周りの気配には敏感になってしまったから、深く眠ることが少なくなってしまった。
俺が起きたことでレオンたちも目を覚ましてしまった。
「……んん…」
「おはよう。まだ寝ててもいいぞ。」
「…いや、大丈夫。おはよう。」
アイリス・リリィの方も、おはよう。と返してくれたが、まだ眠そうだ。
「二人とも、まだ早いから寝ててもいいぞ?」
「……じゃあ、もう少しだけ寝るわ。」
アイリスの言葉にリリィもコクンッと頷き、また寝始めた。
―――――――――――――――――――――――
「「「「御馳走さまでした!」」」」
朝食を食べ終え、今日は冒険者デビューの日だ。
「よし。今日はとうとう俺たちの冒険者として初めて依頼をする日だ。まだFランクだからそこまで難しい依頼はないと思うけど、気合い入れていこう。」
「おう!絶対完遂してやる!」
「これまでの訓練の成果をやっと実践できるわ。」
「……楽しみ。」
俺も含めて皆、気合い十分だ。
「それじゃあ、行こうか。」
宿を出てギルドの方に向かう。
武器も持っていく。泊まってる宿はちゃんとセキュリティがしっかりしてるので置いていても大丈夫だが、極力離したくない。
観光ついでに、ギルドの周辺や街の構造を大体覚えたので、迷うことは無いだろう。
そして気付いたことは、この帝都は至る場所に騎士の詰所がある。現代風に言うと交番のように。
道も騎士が2人1組で見廻りをしてる。そのお蔭で治安がいいと言われるのだと思う。
それでもやっぱり犯罪がゼロになるわけでは無い。
……現在のように。
「オラァ!!それ以上近付いたらコイツらぶっ殺すぞ!!
オイ!てめぇまだ金用意出来ねーのか!?」
4人の顔を隠した男たちが、とある店を襲って一般人を人質にしていた。
騎士も到着しているが、人質がいるため手を出すのが難しい。現代なら銃などが有るだろうが、この世界は剣と魔法の世界だ。
騎士が剣で襲うよりも人質が傷付くのが早いだろうし、魔法を使うのも出来ない。よほどの腕がないと魔法で犯人だけを攻撃するのは無理だ。人質も巻き込んでしまう。
……客観的に見てるが、その人質の一部が俺たちだ。捕まらずに返り討ちにも出来たが、この4人が犯人全員とは限らず、しかも俺たちを襲う前にはもう女性1人が人質となってしまっていて、犯人たちを下手に刺激することも出来ない。
隙が出来れば何とかなるのだが……。武器は有るが、此方が抜くよりも既に抜き身の得物の方が攻撃は早いに決まってる。まして首筋には刃が突き付けられてる。
因みに光魔法の応用で武器は見えないようにしてるが下手に動けないのでどうしようもない。
『ねぇノルン、反撃する?』
アイリスから念話が来たが、ハンドサインで"NO"と答えといた。
鍛えれば俺からの思念もアイリスに届くようになるだろうが、そこまで能力を使いこなすことはまだ出来ていないらしい。
『待機?』
YESと答える。アイリスがレオンとリリィにも念話してくれたのだろう。軽く殺気が出てるが我慢してくれてる。
……それに、もうすぐ事態が終息するだろうし。
騎士の増援の他に、目線や仕草などで連絡を取ってる人達がチラホラいる。
「よし、金はいいな。
オイ!!さっさと退け!俺らの視界から消えろ!出ないとこの女とガキを殺すぞ!!!
・・・それと店主、ご苦労だったな。ゆっくり休めや」
そう言って店の店主の人を剣で斬り付けた。女性は悲鳴を上げ、レオンたちからは殺気が漏れ始めた。
その間にも騎士たちが隙を窺ってる間に強盗たちが金の確保を終わらせた。
リーダー格の犯人の言葉によって少しずつ騎士たちが下がっていくしかない。
……ここら辺かな。これ以上の犠牲は出せない。
隙さえあれば騎士たちが制圧してくれるだろう。
サインでレオンたちに合図を送る。
『全員大丈夫よ。』
アイリスからの念話を受け、俺は人質に刃物を突き付けている犯人たちに闇魔法を掛ける。
同時にリリィが斬られた店主に治癒の魔法を掛けて道の端にどかした。
「「「ギィャァァァ!!!!?」」」
「な!?おい、どうした!??」
「腕がぁぁぁ!!!!!」
「お、俺の足ぃぃ!いやだぁぁ!!」
「目が、目がぁぁぁ!!」
いきなり絶叫を上げた犯人共に、リーダー格の奴が視線を仲間に向けてしまう。
……今、魔法を掛けられた者達は身体の一部が無くなったように錯覚してるはずだ。思い込みで人は痛みすら感じてしまう。病気だと思ってると本当に体調が悪く感じるように。
実際は犯人共の身体には何も変化が起きてはいない。ただ彼らの精神がそう感じさせているだけなので、周りからは狂ってるようにしか映らない。
ちなみに幻術だと後々解くのとか追及とかが、面倒なので闇魔法を掛けといた。
禁忌スレスレ(アウト)だけど緊急事態だから大丈夫だろう。……多分、きっと。
・・・あれ?やっちゃった後だけど心配になってきた……。大丈夫だよな?
違う意味で俺が恐怖してる間にも、リーダー格の奴は騎士たちが取り押さえ、のたうち回ってた奴らもレオンたちが一撃を入れてから騎士に引き渡してた。
周りの人や人質となっていた女性などからは歓声や安堵の声が聞こえ、レオンたちも誉められていた。
……俺は周りから見ればただ立っていただけなので何も無かったが。
店主の人も命に別状は無いようなのでよかった。
そんなところに騎士の後ろで機を窺っていた人たちの内の男性が一人歩いてきた。
「いや~ありがとうありがとう。お蔭で楽に捕まえられたよ!」
……素直に応じてもいいが、一応すっとぼけてみる。
「え、なんのことでしょうか?こっちこそ助けられたので。ありがとうございます。」
「ん~、そんなに警戒しないでよ。僕は一応帝国の役人の一人だから。怪しい者じゃないよ?あはは。
それに…………君の使った魔法の事を騎士に告げてもいいのかな?」
目を細めて俺を見る男性。少し威圧も入れてきてるし、何よりこの人強い。取り敢えず今の俺では勝てないだろうから、素直に従っておく。
「……いえ、少し手伝おうかと思いまして。それに緊急事態でしたので大丈夫かと…。出来れば黙っていて頂けると有難いのですが?」
俺の態度に男性はニッコリ笑い威圧を解いた。
「うんうん。子供は素直が一番だよぉ!あの魔法を何処で知ったのかは訊かないであげるけど、禁忌の魔法を簡単には使ってはいけないよ。使用者にも害がある魔法もあるしね。
ここで気付いたのは僕だけだからいいけど、下手すると君が捕まる側になっちゃうから。」
「…はい。すいません。以後気を付けます。」
「うん。じゃあ詰所に行こうか!」
「はい、……え?」
告げられたことを理解出来なくてポカンとしてしまう。
「ん?だから詰所に行くよ。一応どうしてこんな事態になったか知りたいからね。まぁ僕の仕事じゃないから騎士に任せるけど。
ささ、行こうか。」
有無を言わさずに手を引いて行く男性に連れられて、俺たちと人質だった女性、何人か事件を見てた一般人が騎士たちと一緒に詰所に行かされた。
--------------------------------
「はぁぁ……やっと終わった…。」
騎士たちに説明して、解放されたのは昼過ぎの事だった。
折角、朝早くから起きて依頼をしに行きたかったのに、時間が潰れてしまった。
それでもまだ午後が残ってるので、一応ギルドの方に行ってみる。
今度は無事にギルドに到着する。
因みにレオンたちも出鼻を挫かれて少し拗ねてたりしてる。
「…すいませーん。ジーナさん、何か依頼有りますか?」
本当なら依頼掲示板から依頼書を持って来るのだが、チラッと見たが数枚しか残って無かったので、ジーナさんに直接訊いてみることにした。
「あらあら、うふふ。朝は災難だったわね。聞いたわよ~人質にされたって。」
「あー、もう知ってるんですか?」
情報集めるの早いな。
「まぁね。ギルドは情報を集めるのは得意だし。
それより、依頼ねぇ……ちょっと待ってね。」
ジーナさんは受付の裏の部屋に行って、少しして帰ってきた。
「貴方達が受けられる依頼だと此の位かしらね。
貴方達なら討伐依頼も大丈夫だろうけど、ランクが足りないからまだ受けられないわ。」
「いえ、ありがとうございます。」
ジーナさんが持ってきてくれたのは、掲示板に貼られてるものから、これから貼られるものまであった。
その中でも良さそうなのを見つけた。
「"薬の材料集め"と"屋敷の本の整理"どっちがいい?
どっちも報酬は他の依頼より良いし、両方とも何回か依頼期間の延長がされてるから、達成されずに残ってるんだと思う。」
「なぁ、これから材料集めるのってキツくないか?集めてたら直ぐに夜になると思うけど。」
「確かにそれはあるかもだけど、Fランクでも受けられるんだから、そこまで難しい材料でも無いんじゃない?」
「……私は、本がいい。」
「んー、それじゃあ今回は本の整理の依頼でいいか?薬の材料はまた今度やろうか。
それじゃあジーナさん、この本の依頼受けたいので良いですか?」
「え、えぇ。いいけど大丈夫?この依頼主の事知ってる?」
少し困惑気味に訊いてくるジーナさん
それに首を横に振るとジーナさんが教えてくれた。
「あのね、この依頼主ってこの帝国で"賢者"って呼ばれてる魔導士なのよ。
元々一般人で、その優秀さから帝国から"賢者"として貴族位を貰ったんだけど、人を使うことに慣れてないらしくて、広い屋敷に一人で住んでるものだから今回みたいな依頼がよく来るのよ。
でもその量がオカシイ位あって冒険者の方が依頼を達成するまで耐えられなくて最近は受ける人が少ないの。
で、そんな状態が続いた時に受けるって意味、ね?わかるでしょ?」
つまり、現状ヤバイ状態ということは分かった。
「……どうする?」
俺が後ろを振り返り皆に訊くと、当たり前のように
「「「もちろん受ける」」」と答えられた。
「本の整理くらい出来なくって、これから冒険者ができるかよ!」
「そうね。それに”賢者”って人にあってみたいわ。」
「……なにか、魔法、教えて貰えるかな……」
「…そうか。ならジーナさん、この依頼を受けます。」
俺を少し可哀想な子を見るような目でジーナさんは了承をしてくれた。
・・・同情は要らん。
「コレ、賢者様の屋敷への地図よ。来たばかりだから知らないでしょ?」
「はい。ありがとうございます。」
「えぇ…。頑張ってね。ホントに凄い量あるらしいから。でも、人はイイ人だから!」
ジーナさんは軽くフォローを入れ、俺たちを受付から見送ってくれた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
地図に記された場所へと到着し、恐らく玄関と思われる処にあった呼び鈴を鳴らす。
「はぁーい。どちら様ー?」
ん?なんか聞き覚えある。
「あ。」
「「「「あ。」」」」
出てきたのは午前中に俺らを詰所に引っ張っていった男性だった。
「あれ?どうして君たちが?は!もしかして午前中の仕返しで何かしに来たのかい!?」
「いえ、依頼を……」
何だろう…絡みが面倒な感じがする…。
俺が依頼のことを言うと、"賢者"はキョトンとした後に笑顔で迎えてくれた。
「君たち冒険者だったんだね!通りでそれなりの実力を持ってるわけだ。
入りなよ。あと数日して来ないなら依頼を取り消そうと思ってたから助かるよ!」
俺たちは賢者に招かれ屋敷に入ったが、もう入口から本の山だった。……下手すれば図書館より多いんじゃないか?
「あはは。さすがに驚いたかな?この量は。」
「賢者の兄ちゃん!どんだけ本集めたんだよ!?」
「……本、いっぱい。……天国。」
「「……え?」」
天国?
一部賢者と同じ部類が混ざった気がするが、努めて無視する。
・・・・・・リリィがこうなるのは止めなくては。
「いやぁ、興味が出たものは片っ端から集めたからねぇ。僕でもワカラナイや。
さて、依頼のこと何だけど、ひたすら屋敷にある本を整理してほしいんだ。僕も手伝うよ。
大体は分類別で本棚があるから其処に入れてほしい。
分からなかったら僕に訊いてね。仕事の出来によっては報酬を追加するよ。それ以外に君たちとならお喋りとかもしたいね。
まぁ、まずは本を整理しないと。
……今度皇帝と近衛騎士とか来るから急いで綺麗にしないと…。なんで来るんだよ…チクショウ…。」
「……」
最後の方の小声で呟かれた言葉は聞かなかった事にしよう。皇帝にチクショウって…なんか俺らみたいに普通な感じで親近感が湧いた。
そうして俺たちは、この本で埋もれた巨大な屋敷の整理を始めた。
そのうち、レオンたちの視点とか話も書きたいですね。
それではまた次回!ノシ




