閑話:”師匠”
はーい、閑話です。師匠と弟子です。
「師匠~。いますかー?」
僕は今、師匠の鍛冶場に来ていた。
「あぁ?誰だ次々と。…あーギルか。いま客が来てるが、適当に待ってろ。」
いかにも面倒だと書いてある表情に苦笑しつつも中に入る
中には先客の2人が居た。一人は酒を飲んでるスレンダーな女性と、目を閉じてじっと座っている大柄な男性がいた。
「おや?あんたもおやっさんに用かい?」
女性の方が質問してきたので無難に返す
「ええ。少し所用が…」
「へー。でもここに出入りできるなら相当な実力者なんだろぅ?」
「いえ、ただの村の鍛冶師ですよ。」
「謙遜すんなって!アタイも一応それなりの冒険者だから、あんたが相当強いのは大体わかるさ。…あ、そういや自己紹介してなかったな!
アタイはアニータ。冒険者でSランク下位。んで、隣の大男がハルト。アタイと同じくSランク下位。あんたは?」
紹介されたハルトと呼ばれる男が軽く一礼してきたので返し、僕も自己紹介をする
「…僕はギルバート。しがない鍛冶師だよ。」
村の事は基本秘匿事項だから言わないようにして、簡単に告げる。
「ん~、あんた強そうだねぇ。どうだい、アタイと少し手合せしないかい?」
顔は笑っているが、目に本気の色を出しながら少し威圧してくる。
そこにタイミングよく師匠が帰ってくる。
「おら。装備を点検し終わったぞ。テメェらもう少し丁寧に扱えよ。そうすれば態々俺の処に来なくても、他の奴等でも整備できるんだから」
軽い悪態をつきながら師匠が二人の装備をテーブルに置く
「それと、テメェらが纏めて襲い掛かってもギルには勝てねーぞ。」
「おやっさん有難う。でも、やってみなくちゃ分からねーだろ?アタイらも下位とはいえSランクなんだから」
「別に止めやしねーが。・・・・・・もう終わってるぞ?」
「は?…っ!!!!」
「へー。よく僕の予想より早く幻術を解いたね。」
手合せしたいって言ってたから、軽い挨拶程度に幻術掛けたのに。
意外に早く解いたな…なまったか?
「…あんた、何を」
「わかったろ。てめーじゃ相手にならんぞ。幻術解くまでの間に首を切り落とされて終わりだ。」
悔しそうに唇を噛んでいるアニータに一応フォローしとくか。
「いやいや、あの短時間で僕の幻術を解いたんだから誇っていいよ。
それに、本気出せば幻術使わなくても首は落とせますよ、師匠。」
あれ?なんか尚更悔しそうな表情をし始めたアニータ。
・・・なにか余計な事言ったか、僕?
「はぁ。ギル、それは慰めにはなってないからな?どっちかと言えばトドメを刺してる。
おめぇも実力差が分かったろ?おら、さっさと帰れ。」
少し眉をしかめながらも、すぐに切り替えてアニータとハルトが装備を確かめる。
「はぁ、アタイもまだまだだね。ま、おやっさん装備有難うね。また来るよ!」
アニータが手を振りながら、ハルトが一礼しながら出ていく
「・・・そんで?ギルは何の用だ?」
「近々息子たちが村を旅立つので何か送れないかと。それで防具でも作ってあげようと思ったんですよ!」
「…それなら自分の鍛冶場で出来るだろ。」
「あと、師匠と喋りたかったんですよ。不思議な話も聞きましたし。」
不思議な話と言っても、ノルンの記憶の事だ。
ノルンにも、信頼出来て言いふらさない人なら喋っても構わない。と言われてるから大丈夫だろう。
「…お前の息子と旅立つ奴は同い年の奴か?確かまだ成人はしてねーよな。
なら、急所を守るだけの防具でサイズも調整できるモンにしとけ。これから成長してくだろうし。」
「はい。そのつもりです!」
笑いながら告げると、師匠が眉間に皺寄せながら僕を見る。
「なら、テメェは俺と話しをしにきたのかよ…。暇人か?テメェは。
俺は今、今までの中でも最高のモンを作ってる最中で忙しいんだよ」
「そんなに時間は取りませんよ。ただ師匠って、二ホンって国出身なんですか?」
だりー。と声が聞こえてきそうな程の表情が、二ホンの名を出した瞬間に真面目な顔つきになった。
「テメェ、誰に聞いたんだ?知ってんのは俺と同じ勇者の奴らしか居ねーぞ?勝手に記録してた文献もすべて燃やし尽くしたんだからな」
「いえ、息子が教えてくれまして」
「?テメェの息子だよな?俺たちみたく召喚されたとかじゃなくて」
僕はノルンから聞いた話を師匠に話した。
師匠の瞳には、少しの郷愁と諦めを織り交ぜた感情を乗せていた
「ほぅ、随分珍しいこともあるもんだな。いつかテメェの息子と昔話でもしてみてーなぁ」
僕は師匠の言葉に内心、滅茶苦茶ビックリしていた。人嫌いなこの人が、自分から人に会いたいとほざくなんて僕は見たことがなかった。
「…珍しいですね、自分から人に会いたいなんて。
明日から世界中にSランク級の魔物が溢れかえるかもしれませんね」
そんな事が起きそうな位珍しいことなのだ
そう言った僕を軽く睨む師匠。・・・殺気出てる。
「俺だって故郷の話できる奴なら、酒を飲み交わしながらでも話したいって思うくらいある。
それにSランクの魔物ならテメェらの村の奴らなら簡単に討伐できるから問題ねーだろ。他は知らんが。」
「まだ人間味があったんですね。
まぁ、その程度なら問題ないですが。それでも村の中でも、一人で対処できるのは限られますよ。」
師匠は呆れながら
「まず、ただの”村”にSランクの魔物を対処できる奴が一人居るだけでも異常だからな?表舞台でも裏の世界でも十分生きていけるしな。」
「あの”村”は普通ではないので。それに世間だと無駄に注目されたり、巻き込まれたりするんで、皆あの村に来るんですよ。
そんなことよりも、今度は何を作ってるんですか?あと、アニータがSランク”下位”とか言ってましたけど、新しく基準でもできたんですか?」
「ん?あぁ、ギルが冒険者の時には無かったな。
ここ最近また新基準できたみたいだな。AとSランクのみ、ランクとは別に下位と上位の区別をするらしい。
さっきの若造二人は下位だ。お前を基準にあてたら間違いなく上位だな。」
「へー。まだ色々変わってそうですね。僕も最近は村を出ても、師匠の処に来るだけだったし」
もう何年出かけてないだろ?
ノルンたちが旅立ったらエリンと旅行でもしに行こうかな?そしたら何処行こうかな?帝国もいいし、僕の祖国もいいし。エリンと今度決めよ。
「そうかもな。
それと、今俺は”戦艦”を作ってる!鍛冶場ごと移動できれば、買い出しとかも楽になるし、遠くに移動も楽だからな」
そういえば、ここのすぐ近くは海だったな。
「どのくらいまで出来てるんです?」
「もう結構出来てるぞ。因みにこの一隻で普通の国を落とせる。」
「…戦争でもやる気ですか?鍛冶師に戦艦なんていらないでしょう?」
「男のロマンだ。」
そのロマンは分かりかねる…。
「見てくか?試しに船の中の鍛冶場で防具作ってもいいぞ。船っていっても揺れはほぼ無いし、素材も道具もそろってる」
「! それなら見せてもらいたいですね。防具も作れるなら丁度いいですし」
「ならさっさと行くか。」
二人で世間話しながら師匠の”作品”に向かう。
この人の作品はどれも超一級品だ。僕の愛用の剣も師匠の作品だ。
数十分歩いて僕が見た戦艦は、僕の知ってる戦艦と呼ばれるモノとは
かけ離れている大きさとデザインだった。
ぼけーっとしてる僕を満足そうに見て師匠は色々設備の説明を、イキイキを話始める。
え?透明になる?船にいりますか? れーだー?? ぎょらい???
わけの分からない用語をいっぱい言われてチンプンカンプンの僕。
満足げな師匠。
一通りの説明が終わって、約束通りに船の鍛冶場でノルンたちの防具を作り始めた。
「そういやあの刀、お前の息子は使いこなせてるか?」
「ええ。本人も気に入ってるみたいで、暇なときに手入れとかもずっとやってますね。作った側としても嬉しい限りです。」
思い出して、少し笑みがこぼれる
「そうか。防具と一緒に新しい刀でも作ってやんな。あの刀は時間があれば、まだいいモノができる。」
「…そうですね。時間があれば作ってみます。」
「お前の息子がいい冒険者になったら、記念に俺が刀でも作ってやるよ。」
「! ノルンも喜ぶと思いますよ。」
そんな話をしつつ手を止めずに作っていく。
他にも他愛のない話をする。
僕は、そんな久しぶりの師匠との時間を楽しみながら過ごしていく。
師匠の船はどデカくて、自分の欲しい機能を詰め込んであります。




