その二
「今一度説明するぞ。儂の名は加牟波理入道。神聖なる厠の神じゃ」
「……はい。そこまでは理解出来ました」
何故僕はトイレの前で正座させられているのだろう。
しかも未だズボンを下したままで。
変態もいいところじゃないか。
「ならば、次から気楽にカンバリちゃんと呼ぶが良い」
「わかりました。便所神様」
どげし、と飛び蹴り。
小さいので特別痛くは無いが、屈辱的であるのは違いない。
コホンと小さく咳払いをした厠神様は扇子を開け閉めする。
「主よ、厠を不衛生にするでない。水神様にも失礼であろう」
「とはいっても、便所掃除などしなくても……」
「戯け者! 古来より厠は神聖なものであり、清潔を心掛ける事こそ流行病を防止する手段であったのだぞ。主の便器を見てみぃ。薄汚れ老廃物に塗れて直視する事すらままならぬわ。便器は己の心の汚れとはよく言ったものじゃ。主のその荒んだ様相は、この便器同様じゃな。ま、汚い便器を雇う会社など、どこにもありゃあせんじゃろうがのぉ」
「な……」
反論を喉奥に蓄えたが、そのまま飲みこんだ。
確かにそうだ。僕の心はこの薄汚れた便器の様なものだ。
この薄汚れた便器を雇う会社は、無いと言うのも頷ける。
汚い部屋と汚い便器。……これが僕の心の形なのだ。
「ま、厠は清潔に掃除をすれば神聖な物となる。主の心の方はどうじゃ。その薄汚れた心、この便器と一緒に掃除をしてピカピカにしてみぬか?」
汚れた心は腐っていく。
僕はそう思っていた。汚れた物はそのまま捨てられ、忘れ去られていくのだと。
――でも、違う。綺麗にすればいい。
ピカピカにすれば、汚れた心は再び光り輝いてくれる。
僕は厠神様の言葉に素直に頷いた。
「ま、その前にいい加減、粗末な物を隠したらどうじゃ?」