2 アイラ
ああ、私は一体どのくらい眠っていたのかしら。
あの方を見送ってからほんの一瞬のような気もするし、果てもなく長い時間眠っていた気もするわ。恐らく後者ね。地脈に溶け込んでいる感覚に懐かしさを覚える。
目覚めて間も無く、無意識のうちに向かっている先は懐かしいあの方の気配の元。向かう、というより引き寄せられると言った方が当てはまる。魂が震えるほどのこの気持ちをどう表現しようかしら。
待っていた…待っていたの、この時を。
ようやくそこへ辿り着いた。はやる気持ちをそのままに、私は主の前へ姿を現した。
高鳴る心臓の音を感じながら私は目の前の主を見る。
これが、今の主の姿ね。以前よりも幼い印象。顔立ちも髪や瞳の色も以前とは全く異なる。当然のことだけれども、少し寂しいわね。
だって、ほら。やはり私のことはちっとも覚えていないみたい。恐怖に満ちた主の顔がそれを知らせている。
ところで、何故そこまで驚くのかしら。…あ、いけない。人の姿をとることを忘れていたわ。静かに目を閉じ、私は人の姿に転じた。
これでよし。
2、3言葉を発してもやはり驚愕に満ちた表情を浮かべるだけの主を前に、私はゆっくり片膝をつく。
「シース様、お久しゅうございますわ。アイラ再び貴方の元へ帰ってきました。」
「う、うわぁぁぎゃぁぁ!!」
頬を引きつらせる事数秒後、まるで金縛りが解けたかの如く、くるりと踵を返すと腹の底から搾り取るような悲鳴と共に脱兎の勢いで主は駆けていった。
「まぁ、お早いこと。けれども逃がしませんわよ。」
今度こそ、貴方をお護り致しますわ。




