第2話
1年前。
12月に入り街が、クリスマスに向けて準備をし始めていた。
恋人達が浮かれ始める時期。
土曜日の夜、友達と居酒屋に飲みに行っていた。
「クリスマスディナーどこで食べる?」
「プレゼント何にする?」
そんな会話が、あちらこちらで聞こえてきた。
彼女がいなかった俺は、同じく彼女がいなかった友達と話していた。
「俺達、クリスチャンじゃないしクリスマスなんて関係ないよな。」
「そうそう。彼女もいらないよな〜。金が掛かるだけだしな。」
友達と、周りから聞けば負け惜しみにしか聞こえない会話をしながら、酒を飲んでいた。
本心では、「彼女が欲しい!!」って叫びながら。
それは、友達も一緒だと思う。
言い訳じゃないけど、たまたま2人共この時期に彼女がいなかっただけ。
決して、モテナイ訳じゃない。
ダメだ。また負け惜しみに聞こえる。
友達と彼女がいないと楽だとか、自由だとか、1人身の良さを語り合った。
随分と酒も入り、良い感じに酔っ払って店を出た。
友達と別れ、家に向かって歩いていく。
12時近くになり、人の姿も見かけない。
周りは静まり返っていた。
急に、世界中から置いてきぼりにされた気になって、寂しくなった。
「やっぱり、彼女欲しいよな〜。」
何となく空を見上げると、冬の澄みきった夜空に星が輝いていた。
もっと、近くで星が見たくなった。
近くで見るには高い所だよな。
必死に考えて思いついたのが、近くの公園にあるジャングルジムだった。
酔っ払った頭では、これぐらいが限界だったのかもしれない。
急いで、公園に向かって歩いていった。
公園に着きジャングルジムに向かって、一直線に歩いていく。
まるで、そこに挑むべき山があるように思えた。
酔っ払った体で、登っていく。
足を踏み外しそうになる。
「負けるものか。」
ちょっとした登山家気分だった。
一歩一歩上っていく。
ジャングルジムの頂上に到着した。
「やったぞ〜!!」
思いっきり叫んだ。
なんともいえない達成感と共に、空を見上げた。
星が近くに感じた。
ギーコー。
音が聞こえた。
何の音だろうと思い、耳を澄ます。
ギーコー。ギーコー。
どうやら、ブランコが揺れている音のようだ。
誰か居るのかな?
ブランコの方に目をやると、女の子がブランコに乗っているようだった。
「こんな時間に?」
もしかして幽霊。嫌、でも俺は霊感ないはずだしな。
思い切って声を掛けてみた。
「何、やってるんですか?」
女の子が、こっちを見上げる。
「あんたこそ何やってるん?」
思いもよらない関西弁での返事が返ってきた。
どうやら、幽霊ではなさそうだ。
安心したと同時に、恥ずかしくなった。
ジャングルジムに登ってる様子や、
叫び声を聞かれたに違いない。
「見てた?」
「見てたし、聞いたで。やったぞ〜!!ってな。」
笑いながら女の子が答えた。
やっぱり。
一気に酔いが覚めていく感じがした。
女の子が話を続けた。
「何か見えるん?」
「えっ?星がきれいなんだけど。」
「そうなん?うちもそこに行っても良い?」
「いいよ。」
女の子が、ジャングルジムに向かって歩いてくる。
思いもよらない展開だった。
もしかして、夢でも見てる?
そんな事を考えていると、女の子が隣に座った。
「おじゃまします。」
「いらっしゃい。」
お互い笑ってしまった。
顔を見てみる。
女の子って年でもないようだ。
俺と同じぐらいの、20代前半って感じだった。
それに、かわいい。
笑顔が、たまらなくかわいらしい。
一目惚れ。
俺は、恋に落ちた。
何かの映画の台詞であったっけ。
「恋はするもんじゃない。落ちるもんなんだ。」
確かにそのとうりだなと思った。
一気に、彼女に向かって落ちていく感じがした。
見つめていると、彼女と目が合ってしまった。
慌てて、目をそらした。
「星きれいだろ。」
「ほんまやな。」
そう言った物の、星を見る所ではなかった。
ドキドキ。
胸の鼓動が早くなる。
彼女に聞かれてないか、心配になる。
まるで、中学生に戻ったかのようなウブな感じ。
静かな時間が流れる。
何か話さないと焦っていると、彼女がポツリと言った。
「ありがとな。」
何で、急にお礼を言われたのかが分からなかった。
「何が?」と聞き返した。
「うち、さっきな。彼氏と別れてんな。」
「そうなんだ。」
「他に好きな子が出来たから、別れてくれやて。ほんまにへこんだわ。」
可愛そうと思うと同時に、嬉しくもなった。
彼氏がいない。チャンスかも。
彼女の話を黙って聞いた。
「家に帰る途中、公園見つけてな、なんか黄昏てブランコに乗ってたら、
どっかの酔っ払いが、ジャングルジムに登り出してん。」
彼女が俺を見て笑った。
かわいい。
「しかも、大声でやったぞ〜!!やて。へこんでたのも忘れて、思わず笑ってもうた。
だからな、ありがとな。」
なんだか分からないが、どうやら彼女のへこんだ気持ちを、
忘れさせてあげたみたいだった。
ジャングルジムに登って叫んでみるもんだと、良い気分になった。
「笑ってくれて、ありがとう。」
そう言って2人で笑った。
そういえば、彼女の名前何て言うんだろう?
聞いてみる。
「俺、健志って名前だけど、名前何ていうの?」
「うちか?」
耳を澄ます。
「うち、遥って言うねん。」
これが、2人の出会いだった。