73話 覚悟しました
お腹の中に赤ちゃんがいた。
めでたくパパだ。
28年まともに人と関わってきていなかった自分が父親になる。
とりあえずミレイを抱きしめた。抱きついた。
嬉しいのは分かるのだが、頭の中が真っ白だ。ただただ嬉しい。
「ありがとう。」
抱きしめながらミレイに告げる。
「ありがとう。これからもよろしくね。」
ミレイが告げる。
ああ、もちろんだとも。これからずっと一緒だ。生涯守るさ。何があっても。
口には出さず、代わりに口付けで答える。
何があっても?
そういえばあるかもしれないんだったな・・・
その答えを確かめるために帰省しようと思ったんだ。
どうするかな。先に行って確かめてみるか?
それともまだ自由な時間があるのだから、それまでは息を潜めるか?
もう自分だけの事ではなく、ミレイと生まれてくる赤ちゃんの事でもある。
もし逃げ出さなければいけない事態になった時、お腹にいる状態と生まれてきた状態と、どちらが逃げやすい?
先に片付けるか。
生まれるまでミレイには心配など掛けないほうがいいのだが、生まれてから心配掛けるのも似たようなものだ。
先になんとしてでも片付ける。
どんな話が待っているのかは分からないが、どんなことをしてでも落ち着かせる。
ミレイと子供を認めさせる。
「ミレイ、やっぱり一度一人で行くよ。向こうにはお婆ちゃんが居るんだ。生まれてくる前に先に挨拶してくる。それまでミリヤさんの所にいっててもらえるかな?」
「そうね。お母さんの所で大人しくしてるね。どれくらいかかるの?」
「今すぐ行くわけじゃ無いよ。明日ミレイを送っていって、それから出て・・・どうだろ?5日くらいで戻れると思うよ。」
「あれ、意外と近いのね?もっと遠いって思ってた。 でも、2・3日って言って帰って来なかった事あったしね。今度は大丈夫?」
「大丈夫だって、ちゃんと戻ってくるよ。赤ちゃんが生まれて来る時にちゃんと側に居たいしね。」
生まれてくるのはまだずっと先だけどね。