幻?〜冴子〜
かなり前に書いたものですが、
データが出て来たので、
手直しして投稿していきます。
運命の日…。
とうとう、来てしまった…バレンタインデー。
冴子はしきりに時計を気にしていた。
現在11時45分、ひたすら寒い日です…。
冴子は今日、誰よりも早く学校へ来て、告白の相手『良』の下駄箱に12時に屋上へ来て欲しいという内容の手紙を入れた。
なんとも古典的な…今時いるか?そんな子が…そんな声が聞こえてきそうだが、冴子は大マジメだった。
良くん、来てくれるかな…12時までに…。
きっと、来てくれる…よね?
冴子は不安と期待を交互に感じていた。
冴子はまた時計を見た。
さっきから5分も時間は進んでいない。
冴子が時間を気にするには大きなワケがあった。
茜から教えてもらったANGEL TIMEの条件の1つが12時という時間だったからだ。
12時ジャストに鳴り響く鐘の音12回の鳴り始めから鳴り終わりまでに、手渡しでチョコを渡し、想いを告げること。
これが条件の1つ目だった。
そして2つ目は、横のラインである友達にANGEL TIMEの事を話してはならないこと。
ただし、縦のラインである後輩、または年下の子にのみANGEL TIMEを伝える事。
この2つが恋天使に力を借りるための条件だった。
だから冴子は12時にこだわり、来てくれさえすれば、上手くいくと信じていた。
きっと告白できる…勇気を出せる…。
だから早く来て、もうすぐ12時になってしまう…。
冴子の胸はドキドキが止まらない。
いや、どんどん緊張は増していく。
極度の緊張に加え、寒さも手伝って、冴子の身体は感覚を失い始めていた。
こんなんで話なんて出来るのかな…。
その時、1回目の鐘が、ボーンと鳴り響いた。
あまりに大きな音に聞こえ、ビクっとした冴子に冷静なんて言葉はないと同じだった。
早く来て、早く…。
2回目の鐘が寒い空に響く。
もうダメなの?来てもくれないの…?
来てくれさえすれば、上手くいくって思ってた。きっと来てくれるってどこかで思ってた…。
鐘は3回目を数え始めていた。
現実はこんなものなの?
冷たい現実に冴子は打ちのめされていた。
もういいっ!もう誰も好きになんてならない…。
冴子は持っていたチョコレートを振り上げ、投げ飛ばした…ハズだったのに右手にはまだチョコレートが残っている…だけじゃなくギュッと掴まれている感覚が襲った。
何?
冴子は現状が把握できずに、ゆっくりと自分を掴んでいる手の持ち主を振り返った。
冴子は自分の目を疑った。
今まで見たことのないくらいのカッコイイ男の人が自分の腕を捕まえていた。
パニクった冴子は叫んだ。
「誰よ?何すんのよ、放してよ!いつからそこにいるのよっ!!」
冴子は自分で言った言葉に疑問を感じた。
この人いつからいたんだろう…?
だっておかしいじゃない。さっきまで私一人で良くんを待ってて…。
冴子はとにかく掴まれている手を解こうと、バタバタと暴れてみる。
けれど、一向に手が自由になる気配はない、それどころか更に力が入り私の動き自体を封じこめる。
「落ち着いて…」
彼の一言で冴子の心は急激に凪いだ海のように静かになった。
何で…?
冴子の心を見透かすような視線で、彼は冴子の瞳を覗き込んだ。
冴子は急に胸の中が暖かくなり、ふいに手を伸ばして抱きつきたい衝動に駆られた。
えっ?抱きつきたいだなんて…。
自分が信じられない冴子だった。
さっきまであんなに好きだと思っていた『良』すらもうどうでもよくなっていた。
なんで!?
ただ今目の前にいるこの人の視界の中にいたいと、願っていた。
捕らわれたままの腕と瞳、そして心…。
冴子は自然に持っていたチョコレートを彼に差し出していた。
「これもらってくれる?あげたい人、あなたになっちゃった…」
にっこりと自然に笑っている自分に冴子は、これは夢なのかもしれないと思った。
彼はとても困った顔をして、躊躇いながら、だけど最後には笑顔とありがとうの言葉を交換にチョコレートを受け取ってくれた。
その時、12回目の鐘が鳴り終わるところだった…。
鐘の音で我に返った冴子は、辺りを見回した。
が、今まで一緒にいたはずの彼はどこにもいなかった。
えっ?夢?…ってこの寒いのに外で居眠りするわけないじゃないっ。
ボケとツッコミを一人でこなしながら、
チョコ!だってチョコレートないもの!
アッアレ?投げ飛ばしたんだっけ?
屋上から見える範囲を覗き込み、チョコの包みを探す。
ないよ、ね…?
だって、掴まれてた感覚も残ってる。
やっぱりいたの?
じゃあどこに行ったの?
冴子は寒いことなど忘れて、考え始めた。
あの人は誰?
思い出すのよ…。
うちの学校の人じゃない、制服来てなかったもん。
カッコ良くて、背が高くて頭に何かかぶってた?
んっ?乗せてた?何…?
コートを着て、背中に何か背負ってた?白いカバン…?違う!!
冴子は自分の頭がどうかしたのかと思った。
なぜなら冴子の記憶に残っている彼の頭には『輪』と背中には『羽』があったのだから…。
じゃあ何!?彼が茜ちゃんの言ってた恋天使なの?
でも、人間には見えないって…。
あっ!だから急に現れて、急にいなくなった…?
じゃあ、もしかしたら…。
「ねぇ、もし恋天使なら聞いて、私あなたに逢いたい!恋天使じゃなくてもいい、私はあなたに逢いたいっ!!」
冴子は叫んでいた。
もし彼が恋天使なら姿を消してるだけかもしれないって、自分には見えないけど、まだここにいるんじゃないかって、冴子はそう思ったのだ。
けれど冴子の心からの叫びは通じなかったのか、冴子の周りには静寂だけが広がっていた。
冴子には彼が恋天使でも、そうじゃなくてもどうでもいいことだった。
ただ彼ならば良かった。
名前も知らない彼だけが欲しいと思ってしまった。
告白するはずだった良のこともどうでもいい些細なことになっていた。
ただ彼にもう会えないのかと思うと胸が苦しくて切なかった。
家に帰るとやっぱりというか茜ちゃんが待ち構えていた。
ニコニコ笑顔で、
「うまくいったんでしょ?」
会って最初の言葉が『おかえり』でもなく『ただいま』でもなく『こんにちは』でもなくこの言葉だった。
「ううん、来てくれなかったんだ」
冴子がそう言うと茜はかなり驚いたように、
「えっ!?そうなの?冴ちゃんすごい嬉しそうだから、てっきり上手くいったんだと思ったんだけど!?」
バツの悪そうな顔になった茜が言う通り、冴子の顔はニコニコ顔だった。
もちろん冴子にその自覚はないのだが…。
やっぱりあの人のせいなのかな…良くんが来てくれなくても何の感情も浮かばないもの…。
けど、あの人のことを思うと胸がしめつけられる…。
冴子は良が来なかった事以外、茜に何も告げなかったので茜は不思議そうな顔をしながら、しばらくして家へと帰っていった。
やっぱりあの人のことは言えない。
っていうか言いたくないの間違いかな。
そう、冴子は自分のひとりの胸の中に秘密としてしまっておきたかった。
自分の大事な大事なタカラモノだった。
さっきの一瞬の出来事は…。
毎日更新予定です。
よろしくお願いします。




