奇跡~冴子~
かなり前に書いたものですが、
データが出て来たので、
手直しして投稿していきます。
「あぁ~どうしよう、何て言えばいいのかしら?」
冴子はドキドキと高鳴る胸とは裏腹に冷静を装ってブツブツと呟いていた。
目の前を通り過ぎる彼、良くんに声をかけることさえ出来ず、何度目かの告白も失敗に終わろうとしている。
もうっ、いつもいつも勇気が、最後の勇気1つが出せない。
どうしてなんだろう…。
どうしたら気持ちを伝えられるのだろう…?
人見知りが強くて、少し夢見がちで、少しロマンチストな冴子。
告白しようと思いながらも、気づかぬうちに気持ちの何処かで相手から告白されることを望んでいる。
きっと誰も同じ、気持ちを伝えるのは難しい。
学校には何でも相談できるような友達のいない冴子は、仲良しの7つ年上の従姉である茜に相談してみることにした。
「あら、冴ちゃん?久しぶりね、元気だった?突然どうしたの?何かあった?」
ドアを開けて、冴子の顔を見るなり、茜は元々大きな瞳を更に大きくして冴子を見つめた。
「…そ、相談があるんだけど、いい…?」
「何よ、改まっちゃって!とにかく上がりなさいよ。せっかく来たんだから!」
茜は冴子の背中をグイグイ押して家の中に上がらせた。
うわっ、茜ちゃん…いつもパワフル…。
冴子はリビングの柔らかいソファーに座らされた。
目の前には湯気の立ち上る紅茶と茜が作ったのかそれとも買ったのかクッキーが添えられていた。
茜は紅茶を一口飲み、
「で、相談って?」
気持ちを落ち着かせようと紅茶を口に運び始めた冴子は、ストレート過ぎる茜の一言に紅茶を吹き出すところだった。
「え…っと……」
うわぁ~~、何て言えばいいんだろう?
自分から相談にきたのに…言葉が出てこないなんて…。
冴子はこんな時にさえ、自分の言いたいことを言えない自分に嫌気がさした。
もう顔すらあげていられない状態だ…。
ダメだ…帰ろうかな…。
冴子がそんなことを思い始めた時、
「はっは~ん、冴ちゃん。もしかして好きな人でも出来た?」
茜のビンゴの一言に冴子は、思いっきり顔を上げた。
「図星みたいね」
と笑う茜。
一気に恥ずかしくなり真っ赤になった冴子。
なんでわかるのぉ~?何もいってないのに…。
そこは人生経験の差でしょう。
そんなことも冴子にはわからないことだった。
「テレちゃって可愛いんだから!そっかぁ~冴ちゃんも好きな人が出来る年頃かぁ~」
茜は通りで年とるはずよねぇ~なんて笑っている。
その間中、やっぱり何も言えない冴子である。
「で、どんな子?カッコイイ?」
どうも楽しんでいるらしい茜の問いに冴子は少しずつ言葉を紡いだ。
「うんと、あのね…同じクラスの男の子でね、1度だけ席が隣になったことがあるの」
茜は、うんうんそれで?と言葉を挟まずに先を促す。
「あたしね、人見知りするでしょ?だから友達とか全然いなくて…学校で誰ともほとんど話しすることがないのね…」
冴子の言葉に茜は心配そうに瞳を向ける。
「…誰もあたしの事なんか覚えてもいないかもしれないのに、彼だけが『おはよう』って挨拶をくれるの。もちろん彼は誰にでも挨拶してるんだけど、あたしにも"おはよう"をくれたの…あたしそれが嬉しくて、とても嬉しくて気づいたらいつも探してたの…」
「そっかぁ~、それで好きなんだ?でも挨拶以外はしないの?もっとお話しをするとか…」
冴子は首を横に振るだけだった。
「それはどうして?」
「…胸が苦しくなって、言葉が出てこないの…」
う~ん…茜は1つ唸って冴子を見つめてこう言った。
「冴ちゃんはどうしたい?」
「どおって…もう少しでクラス変わっちゃうでしょ?そしたらもう同じクラスになれないかも知れない。もう『おはよう』も、もらえなくなっちゃう。だから…だから告白出来たらって……だけど声すらかけられないんだもん…」
冴子は冴子なりに自分の気持ちを言葉に変えた。
「じゃあ、告白する気は多少なりともあるんだよね?」
茜はここで言葉を区切り、冴子の返事を待つ。
冴子は茜の目をしっかりと見つめて、小さいけれどハッキリと頷いた。
茜はオッケーと指を立てて、
「そんな冴ちゃんにピッタリのイイお話があるの。もちろんその話を信じるか信じないかは冴ちゃん次第だけれどね、聞いてみる?」
冴子の首は、冴子が考えるよりも先に縦に動いていた。
茜は冴子の素直さに少し笑った。
「これは私も先輩から聞いた話なんだけどね。まっ、伝説みたいなものよね」
茜はそう前置きをして続けた。
「え~っとね、この世には『天使』がたくさんいて、もちろん私達には見えないんだけど、その天使たちの中には、『恋天使』っていう天使がいるの。恋天使のパワーが最も強くなる日が年に1度だけあるの。わかる?」
えっ…?年に1度…?
冴子は突然の問いに戸惑ったまま答えられなかった。
「それはね、2月14日。バレンタインデーの日ね。その日のある時間にある条件の元で愛を告げるとそれは永遠に壊れることのない愛を結ぶことが出来る…という伝説なの。ちょっと素敵でしょ?」
すごい素敵!永遠に壊れない愛だなんて!
冴子は目を輝かせながら続きを茜にせがんだ。
「まぁ~、あせらない、あせらない。」
茜はそう言って、優しい笑顔で冴子を包み込んだ。
「冴ちゃんに私と圭介の事って話したことなかったよね?」
突然の現実的な話題に冴子は少し戸惑いながら、聞いた事がない事を告げた。
「そうよねぇ~、話したことなかったよね。私と圭介ってね、そりゃ~もうほとんど男友達状態だったのよ」
えっ?そうなの?
付き合ってからの仲の良い2人しか見たことのない冴子は、驚いた。
驚いて瞬きを繰り返してしまった。
「私ってね、思った事をポンポン口にするし、昼休みなんかも男子に紛れてバスケしたりって感じでね。圭介も私のこと何でも話せる友達くらいにしか思ってなかったと思うのよ。それでも私はすごく好きだった。好きだったからこそ告白なんて出来なかったのよ。断られてそれまでの関係を壊すのも嫌だったから…。それで悩んで悩んで苦しくて…そんな時仲の良かった先輩がANGEL TIMEの伝説を教えてくれたの」
「ANGEL TIMEって、さっきの話…?」
茜はそうよ、とひとつ頷いて話を続けた。
「だけどね、私、それから1年くらい悩んでたの。どうしようかって…けどその年を逃せばもう卒業だったし、大学も別々だった。それでダメ元で告白したんだよ」
茜はそこで口を閉ざしてしまったけど、後は聞かなくてもわかる。
「じゃあ、茜ちゃんはその条件を全部クリアできたんだ?だから恋天使が力を貸してくれたんだ?」
冴子はすっかりANGEL TIMEを信じ込んでしまった。
「まぁ~、1つのキッカケだよね。ANGEL TIMEの伝説を聞く事で、それを信じてみようとする事で勇気が出せるんだと思うんだ」
勇気を出せる?
「私にはあの時恋天使の姿は見えなかったけど、恋天使はいたんだって思ってる。あの伝説を聞くことがなければ、今の私と圭介の関係は成り立たなかっただろうし、たぶん告白すら出来ずに後悔だけが残ったと思う」
私だって後悔はしたくない…。
「だから冴ちゃんにも私が感じたように、勇気の素になればいいなって話したの」
冴子はこれが茜の作り話でもいいと思った。
誰かが冴子のために勇気をくれようとしたことが、冴子の勇気になった。
「茜ちゃん、ありがとう。少し勇気でた。頑張ってみる…頑張って…」
茜は一生懸命前向きになろうとしている冴子の瞳が悲しみに曇らないようにと願わずにはいられなかった。
それから冴子は茜に『条件』を教わり、家へと帰った。
考える事はたくさんある。
だって、バレンタインまであと3日しかないんだもの…。
毎日更新予定です。
よろしくお願いします。




