[ep.7]戦火に散る光
魔人との遭遇により、事態は想定を超えた異常事態へと突入した。
カエデは魔人との交戦を続けていた。剣を振るうたびに響く衝撃音、魔力と魔力が衝突するたびに周囲の空間がきしむような重圧を生んでいた。
(「くっ……っ!」
カエデは間一髪で魔人の鋭い一撃を避ける。黒い腕が空を裂き、後方の木が爆ぜるように砕け飛ぶ。
(速い……でも、読める。慣れてはきたけど、少しでも食らえば瀕死になってしまうねこれは。)
カエデは荒い息を吐きながら足元を見据える。滑らかな地面に足を踏み込むと、瞬時に低姿勢から斬り上げた。
「はあああっ!」
その一撃は鋭く、魔人の頬を浅く裂いた。
「ほう……やるじゃないか」
魔人の表情にわずかな興が浮かぶ。
この魔人は明らかに手を抜いている。私はこいつの動きをひたすらに観察し対策をしている。なので、一度見た動きはある程度受け流すことに成功している。つまり観察し続けていればいずれは隙ができ付け入る隙があると思っていたが…..
「あなたわかりやすく手を抜いてるね」
これには確信があった。なぜなら、普通なら隙が出来るはずが全く生まれない。これは実力差が無いと成し得ない芸当だ。
「すぐに戦いが終わってしまうのはつまらないじゃないか。君もそう思うだろう?君の限界を引き出してからあの世にでも連れて行ってあげようかな?」
(観察していてもこのまま押し込まれそう…
こっちも攻撃しなくては)
カエデは攻撃の手を緩めず、連撃を繰り出す。踏み込み、重心移動、上段からのフェイント、そして反転しての後ろ蹴り。動きはまるで舞うようでありながら、一撃ごとに殺気が込められていた。
魔人は笑いながら受け流し、反撃の拳を放つ。
「っ!」
カエデは咄嗟に地を転がり、そのまま魔法陣を描くように右手を振り上げる。
「【雷鎖】!」
青白い雷の鎖が魔人の腕に巻き付く。しかし、次の瞬間には力づくで引き千切られていた。
「小手先だけでは俺には通じん!」
強烈な蹴りがカエデの腹を打ち抜き、彼女は数メートル吹き飛ばされる。
「うっ……」
地面に倒れこみながらも、すぐに立ち上がる。口元から血がにじむ。
(クソ、まだ……まだ立てる)
魔人は呟くように言った。
「さすがだな。だがそろそろ……終わらせるか」
その手に、黒紫の魔力が渦を巻きはじめる。空気が震え、地面が唸りを上げる。
「楽しかったよ。だけどもう時間だ
これで終わりだ。消えろ──」
(ウソ……….)
時空が歪むほどの闇が私の元へ向かってくる。
「──カエデちゃんっ!!」
しかし、突然横から飛び込んできた影が、カエデの前に立ちはだかった。
それはミリアだった。
「ミリア──!? ダメ、それは──!!」
魔人の放った大魔法が、ミリアを直撃する。
轟音。
光と風が弾け、地面が裂けた。
「ミリアァアアアアアアアアアア!!!」
カエデの叫びが森に響く。
煙が晴れると、ミリアの身体が地面に倒れていた。
「ミリア……ミリアッ!!」
カエデが駆け寄る。ミリアの身体はボロボロだった。
しかし、その胸は微かに上下している。
「生きてる……! 生きてる……!!」
(どうして、どうして庇ったの……!)
ミリアの体には、自ら展開した最大のバリアの痕跡が残っていた。
命を繋いだのは、そのただ一層の防壁だった。
魔人は静かにその様子を見ていた。
「……庇ったか。人間というのは、変わらないな」
その声音に、最初のような好戦的な気配はなかった。
──そして次の瞬間。
魔人の姿がゆがんだ空気の中に溶けるように、消えた。
遅れて、数人の教師たちが森に到着する。
だが、すでに敵の姿はどこにもなかった。
「この魔力痕跡……信じられん。魔人か……?」
倒れたミリアを抱きかかえるカエデの頬には、一筋の涙が伝っていた。
(守ってくれた……私を……)
その日。
カエデたちは、生き残った。
だが、残された傷痕は、あまりにも大きかった──。