[ep.5]魔物討伐
1体目の魔物を討伐してから、およそ30分。
カエデたちは慎重に森を進み、次の標的を探していた。
「このあたり、さっきよりも少し空気が重くない?」
ミリアが不安げに辺りを見回す。
「うん、気配も濃い……」
カエデも魔力の流れを感じ取り、眉をひそめた。
そのときだった。
茂みがざわめき、2つの影が飛び出してくる。
ビーストウルフが2体、低い唸り声をあげながらカエデたちを囲むようにじわじわと距離を詰めてきた。
「2体同時……ちょっと厄介かもね」
アイリスが魔力を集めながら冷静に呟く。
「リオン、前衛を分けよう。1体ずつ引きつけて、各個撃破」
カエデがすかさず指示を飛ばす。
「了解。セイル、右の個体を頼む」
「任された」
仲間たちは無言で頷き、それぞれの持ち場へと散開する。
──瞬間、右のビーストウルフが飛びかかった。
「来るよっ! バリア展開!」
ミリアの支援魔法がリオンとセイルに張られると同時に、カエデは左の個体に向けて跳び込んだ。
「はっ!」
一閃。踏み込み、重心を低く保ちながら腰を捻り、刃を横へ振る。狙ったのは脚部の腱──俊敏性を奪うための一撃。
だが魔物はそれを察知して飛び退いた。
(速い……でも、読めてる)
カエデはそのまま一歩引いて体勢を整える。視界の端に、リオンが相手の攻撃を受け止めているのが映る。
「ぐっ……!」
リオンが後退した隙を突き、右のビーストウルフが牙を剥いて迫る。
「危ない!」
リオン側のビーストウルフまで15m程ある。
カエデの身体的にも剣でカバーするには難しい距離だと判断し瞬時に魔力を練り上げ、右手を振り上げた。
「【風刃】!」
鋭利な魔力の刃が放たれ、魔物の軌道をわずかに逸らす。それだけで十分だった。セイルがその隙を見逃さず、鋭く斬り込む。
「助かった!」
リオンが息を整えながら立ち直る。
「カエデ、ナイスフォロー!」
ミリアの声が飛ぶ。
左の個体が再び動く。今度は側面から素早く回り込んできた。
(まだ余裕を持ってる……なら!)
カエデは剣を握り直すと、わざと一歩下がり、相手を誘い込む。
飛びかかってきた魔物の懐へ、ぴたりと入り込み──
「ハ――アッ!」
鋭く振り上げた刃が、首筋を掠めるように切り裂いた。
「仕留めた……!」
アイリスの魔力感知がそれを証明するように静かに頷いた。
「もう一体!」
その声に振り向いた時、セイルの剣が相手の肩に深く食い込んでいた。
「終わりだ!」
リオンの斬撃がトドメとなり、2体目の魔物も崩れ落ちる。
──静寂。
「……討伐、完了」
仲間たちが息を整える。周囲に気配はない。
「ふぅ……二体同時は、やっぱり疲れるね」
ミリアがぺたんとその場に座り込む。
「でも、全員無事。上出来よ」
アイリスが冷静に言う。
魔物を三体倒したことで、じんわりとした達成感を味わっていた。
だがそのとき、カエデの肌にじわりと広がる違和感が走る。
(……この感じ、魔力の流れが乱れてる?)
カエデはわずかに目を細め、森の奥へと視線を向けた。
風ではない、魔物でもない──何か得体の知れない気配が、森の深部から流れてきていた。
仲間たちはまだ気づいていないようだった。
だがカエデは確信していた。
(これは?何かが起きてる)
そして──この“異変”に気付いた者は、カエデを含め、この学年でもほんの数人しかいなかった。
その数、片手で数えられるほどである。