[ep.3.5]戦いの前に
実地課題の開始を数日後に控えたある放課後、ミリアが声を上げた。
「ねぇねぇ、カエデちゃんたち! 課題の前にさ、みんなで一回、どっか行かない?」
「どっかってどこにいくんだ?」
リオンが問い返す。
「カフェとかどう? 作戦会議もかねて、みんなで親睦を深めるの! 実戦ではコミュニケーションも大事になるはずだし!」
「……合理的だな。」
アイリスがさらりと頷く。
「オレもいいと思う。」
セイルも短くうなずいた。
「カエデちゃんはどうかな?」
戦闘をする際は仲間とのコミュニケーションが大切だ。いきなり合わせても連携がうまくいかず大惨事になりかねないからね。もちろん断る理由はないので私はOKを出した。
「うん。行こう。」
そして休日の午後、学院の近くにある小さなカフェで、五人はテーブルを囲んでいた。
木製の椅子と柔らかな照明が心地よい雰囲気を作り出している。
「じゃあ、あらためて自己紹介しよっか!」
ミリアが声を弾ませる。
「リオン・グレイア。剣術が得意。実戦経験は浅いけど、基礎はしっかりしてるつもりだ。……って、ちょっと固いかな?」
「真面目でいいと思うよ!」
カエデが返すと、リオンは照れくさそうに笑った。
「ミリア・アステル! 支援系魔術が専門! みんなをサポートするのが役目だよっ!」
「声、大きいな……」
セイルが呟く。
「うるさいって意味? ひどーい!」
「いや、元気でいいと思う。」
セイルは少し目をそらしながら答えた。
「アイリス・フィンレイ。魔術も剣術も、それなりに。無茶はしないけれど、引く気もないわ。」
「なんか……かっこいいね。」
カエデのつぶやきに、アイリスはわずかに口元を緩めた。
「セイル・クローネ。剣士。指示されるより、自分で動く方が得意かな。協調性は、努力中。」
「そこ自覚あるんだ……」
ミリアがくすっと笑う。
「カエデ・メテオール。剣が得意。魔術も、少しなら。」
「少しってレベルじゃないよね〜!」
ミリアが笑い、周囲もつられて笑った。
テーブルに地図を広げ、リオンが切り出す。
「森の中に入ったら、最初に全体を確認する必要がある。地形が分かれば、奇襲や待ち伏せにも対応できる。」
「前衛は誰が務めるの?」
アイリスが尋ねる。
「それは……オレとカエデかな。」
リオンが言うと、セイルが腕を組んでうなずいた。
「俺も前に出れる。ただ、カエデは年齢的に体力が……」
「問題ない。」
カエデが即答する。
「……あ、はい。」
セイルがちょっと驚いた顔をする。
「じゃあ、私は後方支援。バフと回復は任せて!」
ミリアが元気よく手を挙げる。
「私は中距離から攻撃魔法で援護するわ。必要なら剣でも前に出られるけど。」
アイリスの声は冷静だが頼もしさを感じさせた。
「撤退の合図も決めておこうか。」
リオンが提案する。
「“陽が傾いたら一度集まる”でどう? あの森、午後になると視界が悪くなるらしいし。」
ミリアがアイディアを出す。
「それ、いいと思う。」
「異論ない。」
「了解。」
「それと……もし誰かが動けなくなったら?」
カエデが問いかけると、全員が一瞬だけ黙った。
「……そのときは、絶対に誰かひとりに任せない。全員で引く判断をする。」
リオンがまっすぐな目で言った。
「それが、チームってことだろ?」
セイルが静かに補足する。
「ふふっ。言うようになったわね。」
アイリスが珍しく、少しだけ笑った。
「カエデちゃんも、無理はダメだからね? 本当に危ないときは、ちゃんと言って?」
ミリアが真剣な表情で言う。
「うん。ありがとう。」
カエデは少しだけ微笑んだ。
──そうして、作戦会議は真剣に、けれど穏やかな空気で進んでいった。
夕暮れ時、カフェの外に出たときには、
もう誰もが、自然に並んで歩いていた。
彼らの間には、目に見えない「絆」のようなものが、確かに育ち始めていた。