[ep.3]学院生活と仲間たち
エストレーラ学院の一日は、朝の剣術訓練から始まる。
「よーい、始め!」
掛け声と同時に、生徒たちが模擬剣を構え、一斉に動き出す。
カエデの動きは小柄ながらも鋭く、構えに無駄がない。
見よう見まねではなく、すでに体に馴染ませてきた動きだった。
「……ちゃんと基礎ができてる」
リオンが隣で、ぽつりと感心したように呟く。
その後の魔術の授業では、基本属性魔法の制御が行われた。
カエデは講師の説明を聞いたあと、すぐに魔力を集め、【風刃】を静かに発動させる。
──余計な動きも、無駄な力みもない。
彼女の魔力操作は、年齢を疑いたくなるほど安定していた。
「カエデちゃん、魔法も剣もすごすぎない?」
「……兄上がすごい人だから。教え方が上手いのかもしれない」
その答えに、リオンが「へえ」と小さく感心したように頷く。
「その兄上って……あのカナデ・メテオール?」
「うん」
「そっか……じゃあ、納得かも」
驚きや羨望ではなく、心からの納得と尊敬のこもった声だった。
カエデは特に何も言わず、目の前のスープに静かに口をつけるだけだった。
午後の授業が終わり、外で体を動かした後教室に戻り静かなざわめきが広がる中、担任のエルミナ先生が教壇に立った。
クールな印象の女性で、普段はあまり多くを語らない。
けれどその分、ひとつひとつの言葉には、しっかりと芯が通っていた。
「来週、初めての実地課題を行います」
教室が一瞬静まり返る。
「内容は、低ランク魔物の討伐。個人ではなく、パーティーで行動してもらいます。
5人1組でチームを組み、森に入って魔物を3体倒して帰還することが課題です」
「先生〜!魔物って、どれくらいの強さなんですか〜?」
「ビースト系の初級個体ばかりよ。実戦の感覚を掴むのが目的。とはいえ、油断すれば危険もあるわ。
必ず協力して、無理はしないように」
エルミナ先生はそう言って教室を見回す。
「チームは自由に組んで構いません。ただし、期日までに申請がなければこちらで割り振ります」
「何かわからないことがある人は私のところまで来るように。今日のところはもう終わりですのでゆっくり休んでまた明日から頑張るように。」
「(全員)お疲れさまでした!!!」
放課後、廊下を歩いていたカエデの前に、ひとりの少女が立ちふさがった。
「あなた。メテオール家のカエデさんよね?」
ふわりとした金髪に、整った顔立ち。言葉づかいは丁寧だけど、芯の強さを感じる声。
「……はい、そうですが」
「試験のとき、あなたの魔術を見たわ。剣の所作も、なかなかだった。あなたと一緒に行動したいと思っていたの」
突然の申し出に、カエデは少しだけ目を見開いた。
「私、アイリス・フィンレイ。フィンレイ公爵家の者よ。一応、それなりに戦えるつもり」
名乗ると同時に、アイリスはすっと頭を下げる。
「一緒に課題に臨む仲間が必要なの。お願いしても、いいかしら?」
「……こちらこそ、よろしくお願いします」
にこりともせずに返すカエデに、アイリスはふっと微笑んだ。
「礼儀正しいのね。嫌いじゃないわ、そういうの」
そこに、別方向から歩いてきたもう一人の生徒が声をかけてきた。
「よぉ。メテオールさん、だっけ?」
銀髪に切れ長の目をした少年。声のトーンは低めだが、どこか落ち着いた雰囲気がある。
「……えっと」
「オレはセイル・クローネ。あんたと同じクラス。俺も試験の時に、ちょっと気になってたんだ」
「……何が、ですか?」
「剣術の構えが、無駄なくて正確だった。それだけでわかる。鍛えてきたやつの動きだって」
一瞬言葉に詰まったカエデに、セイルは軽く肩をすくめる。
「別に深い意味はない。実地課題で組む仲間を探してたんだけど、よかったら一緒にどうかと思って」
すると、タイミングを見計らったようにリオンとミリアがやってきた。
「お、ちょうどいいところに!」
「カエデちゃん、実地の課題、私たち一緒にやろうって言おうと思ってたんだよ!」
「私とリオンは決まりだから、あとは2人! カエデちゃん、よろしくね!」
「……そしたら、もう3人も集まってた感じ?」
「ふふ、にぎやかになりそうだね」
そう言ってミリアが笑い、リオンも照れくさそうに頷いた。
「うん。カエデが真剣に取り組んでるの、授業で見てたし……信頼できると思ってた」
「それに、アイリスさんもセイルくんも実力あるし、いいチームになると思うよ」
「……うん。よろしくお願いします」
カエデが静かにそう言ったとき──5人のパーティーが、確かにそこに生まれた。