[ep.2.5]入学式
朝の光が、学院の荘厳なホールに差し込んでいた。
広々とした大理石の床に、高い天井。壁に浮かぶ魔石の灯りが、静かにゆらめいている。
エストレーラ学院。選ばれた者しか入ることの叶わない、名門中の名門。
カエデは、長い椅子に静かに座っていた。両隣には見覚えのある顔。
ミリアとリオンも同じ列に座っている。
「……本当に、ここに来たんだな」
自分の手のひらを見つめながら、カエデはぽつりと呟いた。
ミリアが少し身を寄せて、にっこり笑う。
「ねえ、カエデちゃん。試験のときより、ちょっと背伸びた?」
「そうかな?」
「うん。あと雰囲気も違う。すごく……キリッとしてる」
「それは……たぶん緊張してるだけだよ」
「ふふ、そうかもね。あ、リオンくんもいるよね?」
「……ああ。二人とも、合格して当然って感じだったしな」
リオンはそっけないようでいて、どこか照れたように視線を逸らす。
そのとき、壇上に一人の人物が歩み出た。
ローブをまとった長身の老魔術師。白い髭に、重厚な雰囲気。
「静粛に──」
声は大きくなかったのに、ホール中の空気がぴたりと止まる。
「エストレーラ学院へ、ようこそ。ここは、才ある者が集い、己を磨く場。
しかし、才とは誇るものではなく、磨くための“原石”にすぎん。
真の力とは、己を律し、他者を思い、歩み続けることで手に入る。
そのことを……三年後、己の成長で示してみせよ」
淡々とした口調だったが、なぜか言葉が胸に響いた。
(……努力し続ける。あの日から、ずっとそうしてきた。
ここでも、それを続けるだけ)
カエデはぎゅっと拳を握る。
「これより、新入生の諸君に学院の生活を……」
説明が続く中、ミリアがそっと囁く。
「ねえ、カエデちゃん」
「ん?」
「これから、よろしくね。私、同じクラスだったら嬉しいな」
「うん。きっと、なるよ。なんとなくだけど、そんな気がする」
二人の笑顔が重なる。
その瞬間、小さな未来の始まりが、確かに動き出した気がした。