[ep.10]リスタート
※毎日投稿していた本作ですが、今回でいったん一区切りとなります。
来週からは【毎週土曜日更新】に切り替えてお届けしていきます!要望などあればまた戻します。
次回の更新は”7月19日(11:30)”です。
翌朝。
陽は昇っていたが、カエデの心に差し込む光はまだ遠かった。
彼女は、誰もいない訓練場に立っていた。
剣を構える手に、迷いはない。だが、その瞳はどこか曇っていた。
(私の剣技は……通じていた。あの魔人に、ちゃんと傷をつけられた。
それは間違いじゃない。きっと、努力してきた成果だった)
けれど、それでも守れなかった。
(魔法は使える。回復も、攻撃も、少しは。
でも、あの時……最後に魔人が放った魔法、あれは……)
思い出すたびに、胸が締めつけられる。
あの一撃を、受けてしまったのはミリアだった。
(あの時、私は動けなかった。防げなかった。……力が足りなかった)
剣技だけでは届かない。
魔法だけでも足りない。
(私は、両方を極めないといけないんだ)
小さく息を吐いて、カエデは剣を振った。
魔力を込める。斬撃に意志を宿らせる。
剣を振るたび、魔力の流れが身体の中でざわめいた。
それは、ほんの微かな、だが確かな“気配”。
(……そうだ。私には、まだ知らないことがたくさんある)
あの日、図書館で見た古代の本。
文字は読めなかった。けれど、何かが胸に引っかかっていた。
(魔人が言ってた……“勇者は、神に創られた存在”って)
なら、私はなれない。
でも、ならば——私は私なりの“戦い方”を見つければいい。
「……もう、後悔はしたくない」
カエデはまっすぐに前を見た。
その小さな背中に、決意の気配が宿る。
誰かに言われたわけじゃない。
誰かのために、ただ自分で選んだ道。
「もっと強くなる。剣でも、魔法でも。
誰かを守るために……私にしかできない方法で」
そして彼女は、再び剣を構えた。
夜が明けきる前の静かな空気の中で、ただ一人、鍛錬を始めた。
訓練場の片隅、木剣を振るたびに汗が飛び散る。
ただ黙々と、型を繰り返す。
兄に教わった動きを、ひとつひとつ思い出すように。
けれど——集中できない。
カエデの意識は、昨日図書館で目にした古代書に引き寄せられていた。
それは、今の自分にとって“何かの鍵”になるような気がしてならなかった。
(あの文字……読めなかったけど、妙に惹かれる)
本能が、何かがあると告げていた。
(……やっぱり、あれを調べたい)
そう思った時、自然と剣を納めていた。
剣術は、今の自分にとって“ある程度は通用する”と証明された。
でも、魔法は——あの魔人の大魔法には、まるで届いていなかった。
(私の剣は通じた。でも、魔法ではあの魔人に届かなかった)
今の自分に足りないもの。それは「知識」だ。
そして、「魔法」だ。
「……決めた。しばらく、剣の練習は必要最低限にしよう」
その分、古代文字の勉強に時間を費やすことにした。
カエデは稽古場を後にし、再び図書館へと足を向けた。
ここまで毎日読んでくださった皆さま、本当にありがとうございました!
これからは週1のペースで、1エピソードあたりのボリュームも増やしつつ、より丁寧に描いていく予定です。
引き続き楽しんでいただけたら嬉しいです!