[ep.8] 戦いの代償
ミリアの状態の確認。
彼女は学院の医療棟で深い眠りについたままだった。
淡く光る魔力の膜が、彼女の身体を包んでいる。
「……まだ意識は戻らないのか」
誰ともなく漏れたその声に、場が静まり返る。
その日、仲間たちは揃ってミリアの見舞いに来ていた。
ベッドの周りに立つ五人の影。
カエデ、リオン、セイル、アイリス、そして教師の姿もあった。
リオンが苦々しい顔で口を開く。
「ミリアじゃなく、俺が前に出てたら……」
静かに俯く彼に、教師が声をかけた。
「お前たちが責任を感じることはない。と言っても、無理な話だとは思うけれどな。
だが今回に限って言えば……私たち教師の監督不足だ。考えが甘かった。……すまなかった」
一瞬、誰もが息を呑んだ。
その空気を破ったのは、アイリスだった。
「私たちも正直、カエデさんがいなかったら、
ミリアさんだけじゃなく、全滅していたでしょうね。全員死ぬよりかはましな結果だっ……」
静かながらも、はっきりとした声。
しかしその言葉に、セイルが苛立ち混じりに割り込んだ。
「それ以上、思ってもないことを口にするな。
お前だけじゃない。
カエデとミリア以外、俺らはただ見てるだけで……何もできなかったんだ。
自分だけ悪者になろうとするなよ」
「……あら、見透かされていました?」
アイリスが肩をすくめる。
「悔しいのは、お前だけじゃないからな。分かったらそういうことはやめろ」
そんなやり取りが続く中、空気は少しずつ和らいでいった。
──ただ一人を除いては。
リオンがふと、カエデのほうを見た。
「カエデも、そんなに責任を感じるなよ。
お前がいなかったら……俺たち、全員死んでたんだからな。ありがとうな」
だが。
カエデからの返事はなく、
その瞳は、どこか遠くを見つめていた。
声が届いているのかすら分からない。
呼吸は落ち着いているのに、心だけがそこにない。
教師が、ゆっくりと彼女に歩み寄った。
「ここ数日間、お前達には面談を受けてもらう。こんな状況で申し訳ないが上からの命令なんだ。よろしく頼むなお前たち。
それと、カエデも年齢は幼いながらもよく戦ってくれた。皆んなを守り言い方は悪いが、被害を最小限にしてくれてありがとう。」
そう言って、教師はミリアの頬にそっと手を当てた後、無言で病室を後にした。
そして、皆も自然と立ち上がり、各自の寮へと戻っていった。
その日。
学院の空は静かに曇っていた。