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3.偽りの愛と陰謀の果てに

 エドワードは最近、頻繁にお父様に会ってはヴィンター家の鉱山について話すようになった。

 その話題が出始めた頃、私は「ただ国の利益を考えているのだろう」と思っていたけれど、今はそうじゃないことに気づいてしまった。


 彼はお父様に対して「国の未来のため」として鉱山の管理権を王家に渡すよう、強く提案していた。

 表向きは国益を考えた正当な理由を掲げていたけれど、その裏にはヴィンター家を手中に収めようとする狡猾な計画が隠されている。

 エドワードは、お父様に対して「ヴィンター家の資産をより効率的に運用できる」と説得しつつ、お父様の周りにいる商人や鉱山管理者に裏から手を回していた。


「リリアナ、ヴィンター家の鉱山は国にとって重要だ。もっと効率的に管理されるべきだとは思わないか?」


 エドワードはいつも優雅に微笑みながらそう言っていた。

 私はその時も、彼が本当に国の未来のために考えていると信じたかった。

 でも、お父様が困った表情をしているのを見た時、私の胸に嫌な予感が走った。


 お父様は徐々に孤立させられていった。

 エドワードは貴族社会の中で巧妙に動き、お父様を支持する貴族たちの意見を変えようとしていた。

 そして、商取引の一部も操作され、鉱山の生産量に関する偽の報告書が父に届くように仕組まれていたのだ。



 エドワードの動向を探るために、ルシアンと協力するようになってから、私はルシアンの言葉に耳を傾けながら、慎重に行動を始めている。

 しかし、ここ最近、私の周りで何かがおかしいと感じ始めていた。

 貴族たちの態度が冷たくなり、私に対する視線が厳しくなってきているのだ。


「最近、みんな私を避けているような気がする。何が起こっているのかしら…」


 そんな疑念が頭をよぎるようになったのは、ある舞踏会での出来事がきっかけだった。

 普段親しげに話してくれるはずの友人たちが、私を見ると口元を覆い、まるで私が何か悪いことをしたかのような噂をしているのを感じたのだ。


「リリアナ様、どうしてあんなことを?信じていましたのに...」


 ある貴族の女性が私に問いかけた。

 彼女は明らかに疑念の目を向けていたが、私は何のことか全く分からなかった。


「え?...何のことかしら?」


 彼女は少しだけため息をつき、私に背を向けて去っていった。

 その瞬間、胸がざわついた。

 この日以降、私はどこへ行っても冷たい視線を感じるようになり、貴族社会での居心地が急速に悪くなっていった。


 何が起こっているのか分からないまま、私はますます孤立していく。

 私に対する噂はエドワードとの婚約を利用して、自分勝手に利益を得ているというものだった。


「まさか、そんなこと…。私がエドワード様を利用して?」


 どうしてこんな噂が広まっているのか、まるで見当がつかなかった。

 メイドたちも最近、私に対して冷淡になっている気がするし、護衛ですら私と目を合わせようとしない。

 まるで私のことを信用していないようだった。

 これはまるで「悪役令嬢リリアナ・フォン・ヴィンター」に対する扱いだ。


 その日は特にひどい日だった。

 舞踏会の席で、私は突然呼び出され、偽の手紙を渡された。

 内容は何もなかったけど、その場に戻った時には、すでに重要な話し合いが終わっており、私は何も知らされないまま取り残されていた。

 まるで誰かが私を陥れようとしているような感覚に襲われた。


「いったい誰が、こんなことを…?」


 私は自分の手の中に握りしめた手紙を見つめながら、頭を抱えてしまった。

 どこかで誰かが、私を追い詰めている。

 でもその正体が誰なのか、まるで見当がつかなかった。


 そんな状況の中、ルシアンが私に声をかけてきたのは、私がもう限界に達しかけていた頃だった。

 彼は私の動揺を見抜いたのか、冷静な声で問いかけてきた。


「リリアナ、少し落ち着いて聞いてくれ。君が最近孤立しているのは、エドワードが仕組んだことだ」


 その言葉を聞いた瞬間、私の心は凍りついた。

 エドワードが…私を陥れている?

 そんなはずない、彼は私の婚約者で、私を守る存在のはずなのに。


「エドワード様が?嘘よ、そんなの信じられないわ!」


 でも、ルシアンは静かに首を振った。


「エドワードは、君が気づかないうちに君を孤立させ、信用を失わせようとする工作をしていたんだ。君に関する虚偽の情報を流し、周囲の貴族や君の身近な者を買収して、君を監視させている。最近の出来事はすべて彼が仕組んだものだ」


 頭が真っ白になった。

 彼の言葉を信じたくなかったけれど、思い当たる節が次々に浮かんでくる。

 貴族たちの冷たい視線、偽の手紙、メイドや護衛の態度の変化――

 すべてが一つの線で繋がり、エドワードの陰謀だという事実が私の心に重くのしかかった。


「信じられない…。エドワード様が私を裏切っていたなんて」


 声が震え、膝が崩れそうになった。

 エドワードは、私を孤立させ、信用を失わせるために、ずっと私の周りで陰謀を巡らせていた。

 彼が私を排除するためにここまで冷酷な手段を取っているなんて、信じたくなかった。


 エドワードが背後で私を孤立させていることをルシアンから聞いた時、私はショックでしばらく立ち直れなかった。

 そんな信じたくない現実を突きつけられたけれど、泣き崩れている暇なんてない。

 私は何としてでも自分を守り、そしてヴィンター家を守るために動かなくちゃいけない。


 まず、私は自分の信用を取り戻すことに集中した。

 エドワードの広めた虚偽の噂に対して、私は堂々と振る舞い、できるだけ誠実に接するよう心がけた。

 周囲の貴族たちと積極的にコミュニケーションを取って、噂が真実ではないことを徐々に証明していく。

 もちろん、すぐに信用が回復するわけではないけれど、少しずつ、貴族たちの態度が軟化していくのを感じた。


「やはりリリアナ様は、そのようなお人ではなかったのですね」


 こんな声が聞こえるようになると、私は自分が正しい道を歩んでいるという自信が少しずつ戻ってきた。


 私は誰にでも笑顔を絶やさず接し、自分の行動で正しさを証明しようと努めた。

 エドワードが広めた噂に負けてはいけない。

 ヴィンター家の名誉と私自身の誇りを守るために、強く立ち向かわなければならない。


 それでも、心の奥ではまだ恐怖が渦巻く。

 エドワードの次の一手がどこにあるのか、どれほどの深みまで私を追い詰めようとしているのか、全く読めないからだ。


 そんな時、ルシアンから驚愕の事実を聞かされた。


「リリアナ、君の信用回復も大事だが、それ以上に危険な計画が進行している。エドワードは君を完全に排除しようとしている」

「排除…?」


 言葉の意味がすぐに理解できなかった。

 彼は一体どうやって私を排除するつもりなのか?

 それをルシアンはためらいもなく言った。


「君を暗殺する計画が進められている。彼は、君を病死に見せかけて殺そうとしているんだ。毒を使って、ゆっくりと君の体を蝕む計画だ」


 その言葉を聞いた瞬間、全身が凍りついたように感じた。

 エドワードが…私を暗殺する?

 まさかそんなことが…。

 でも、ルシアンの目は真剣だった。


「侍女の一部が買収されている。彼らが君の食事に毒を混ぜている可能性がある」


 信じたくない現実だったけれど、私は震える手でルシアンに尋ねた。


「どうしてそんなことを…?」

「エドワードは君を暗殺して、君が亡くなった後に『最愛の婚約者を失った悲劇の王子』として振る舞うつもりなんだ。そうすれば、貴族たちの同情を引き、アリスを味方にし、さらにヴィンター家の全てを自分のものにできると考えている」


 すぐに理解できた。

 彼が私の死を利用して、さらなる力を手に入れようとしているということ。

 悲劇の婚約者として同情を集め、アリスと仲良くなるつもりなのだ。


 エドワードはやはりアリスに魅了されていた。

 主人公であるアリスは周りの男を無自覚に魅了していく。

 ゲームをしていた時はあんなにも聖女アリスに感情移入していた。

 なのに今の私からしてみれば、彼女は聖女なんかではなく、無邪気な破壊者としか思えない。



 ルシアンの言葉を受け、私は急いでエドワードの計画の証拠を掴むために動き始めた。

 彼の侍女や護衛の一部が買収されているという情報を基に、私たちは密かに彼らの行動を監視し、毒がどのように私の食事に混入される計画だったのかを調べたのだ。


 ある日、私の部屋に持ち込まれたワインに、ほんのわずかではあるが異様な香りを感じた時、すべてが確信に変わった。

 ルシアンと協力し、密かにワインの成分を調べさせたところ、その中には即効性のない毒が含まれていたのだ。

 それは、ゆっくりと体を蝕み、病死に見せかけるためのものであった。


「エドワード様…こんなことをしていたなんて」


 悲しみと怒りが胸を締め付ける。

 彼は私を殺し、全てを手に入れるつもりだった。

 私の命さえ、彼にとっては道具に過ぎなかったのだ。


 さらに、もし毒が失敗した場合の「事故に見せかけた暗殺計画」も存在することがわかった。

 彼は、舞踏会後に私の馬車を事故に見せかけて殺害するか、部屋に仕掛けをして、シャンデリアが落下するように細工するなどの計画まで進めていたのだ。


 エドワードが私との結婚を発表しようとしている舞踏会が近づいていた。

 その知らせを聞いた時、私は胸が締め付けられる思いだった。

 結婚を発表するということは、彼が私を完全に自分のものにし、ヴィンター家をも支配しようとする最終的な手段に出るということだった。


「このままでは、彼に全てを奪われるわ」


 ルシアンにそう告げた私は、舞踏会でエドワードの陰謀を暴露する計画を立て始めた。

 彼がヴィンター家の財産を狙っている証拠を公の場で示し、彼を追い詰めるためだ。

 彼の背後にいる貴族たちにも圧力をかけ、これ以上彼の計画が進まないようにしなければならない。


「結婚発表の場で、エドワード様の陰謀を暴露するしかない」


 ルシアンも同意し、私たちは証拠を固めるための準備を急いだ。



 舞踏会の日が近づくにつれて、エドワードの表情にはますます自信が溢れているようだった。彼は私との結婚を正式に発表できることを、本当に喜んでいるみたいだった。


「リリアナ、もうすぐだね。ようやく、君と正式に結婚できる。ずっとこの日を待ち望んでいたんだ」


 エドワードの目が、いつもの優しさで輝いている。私は彼のその言葉を聞きながらも、心の中では複雑な思いが渦巻いていた。今まで信じていた彼のその笑顔が、もう信じられない。


「ええ、私も…とても光栄ですわ、エドワード様」


 口ではそう言いながらも、心の奥底では恐ろしい真実が私を苦しめる。

 彼が本当に私を愛しているのなら、どうしてこんなことができるのか。

 彼の愛情が偽りであることを知ってしまったから、私の胸は痛んで仕方なかった。


 舞踏会の夜、会場は華やかな装飾と貴族たちの笑い声で溢れていた。

 エドワードは、私の隣で誇らしげに立っていた。

 そして、いよいよ結婚を発表する瞬間が近づいてきた。


「さあ、リリアナ。皆に僕たちの結婚を伝えよう」


 彼の言葉には喜びが満ちていた。

 エドワードは、自分の計画が完璧に進んでいると思っているに違いない。

 でも私は、もう黙っているわけにはいかなかった。

 この瞬間を逃せば、彼の陰謀は成功してしまう。


 私は深呼吸をして、会場にいる全員の視線がこちらに向けられているのを感じながら、一歩前に出た。


「皆様、少しお時間をいただけますか?」


 エドワードが驚いた顔で私を見つめるのが分かった。

 でも私は、その視線を感じながらも動じずに続けた。


「エドワード様は、私との結婚を発表しようとしていますが、実はその裏で恐ろしい陰謀が進行していたのです」


 その瞬間、会場中が静まり返った。

 エドワードの笑顔は作ったように動かない。

 私は彼の瞳を真っ直ぐに見据えながら、彼が私を裏切り、暗殺しようとしていた証拠を次々に明らかにした。


「エドワード様は、私を配偶者として迎え入れるふりをして、ヴィンター家の財産を狙い、私の命を奪おうとしていたのです」


 私の声は震えなかった。

 貴族たちはざわつき始め、エドワード様はその場で何も言えなくなっていた。


 その瞬間、会場中が静まり返った。

 私は続けて彼がお父様を孤立させ、商取引を操作し、私を排除しようとしていた証拠を次々に示した。


 私の告発に、エドワードの顔はついに青ざめた。

 彼は私に計画がバレていたとしても何もできいないと思っていたに違いない。

 でも、私は彼が準備していた毒や、商人たちへの指示が記された手紙を全て公開した。


「エドワード様、あなたは私を利用し、最終的には私を排除するつもりだったのですね」


 私は冷静に、そして毅然と彼を糾弾した。

 そしてその場で婚約の破棄を宣言した。


「エドワード様、これまであなたを信じ、愛してきた私が愚かでした。ですが、もうその仮面に騙されることはありません。それに気づいた今、私は断固としてこの婚約を破棄いたします。これ以上あなたの操り人形でいるつもりはございません!」


 私が婚約破棄の言葉を口にした瞬間、エドワード様は一瞬動揺したように見えた。

 でも彼はすぐに表情を整え、いつもの冷静さを取り戻していた。

 その余裕を感じさせる微笑みが、逆に私には不気味に映った。


「リリアナ、君が何を言っているのか理解できない。きっと誰かが君に誤った情報を吹き込んだのだろう」


 彼の声は穏やかで、まるで私が勘違いをしているかのように話しかけてきた。

 でも、その瞳の奥には焦りが隠されているのを感じた。

 彼は私を丸め込もうとしている、そう確信した。


「エドワード様。それでしたら、この証拠についてご説明いただけますか?」


 私は冷静に言い返し、彼の目を見据えた。

 エドワードはちらりと私が差し出した証拠の書類に目をやると、すぐに顔を硬くして否定し始めた。


「それは…偽造されたものだ。誰かが君を騙しているんだ、リリアナ。私はそんなことをするわけがない。君を愛しているのだから」


 エドワードは冷静を装っていたけれど、その言葉は明らかに動揺を隠しきれていなかった。


 その時、ルシアンが静かに前に進み出た。


「その証拠が本物であることは、私が保証しよう。これはエドワードが進めていた計画の一部に過ぎない。リリアナ嬢を排除し、ヴィンター家を手中に収めるための策略だ」


 ルシアンの言葉が会場に響いた瞬間、エドワードの顔色が変わった。

 彼は一瞬、焦りが表情に出たが、すぐに逆襲を始めた。


「ルシアン貴様か!これはルシアンの陰謀だ!」


 エドワードの声は鋭くなった。

 彼は私の方を向かず、周囲にいる貴族たちや王に向けて声を上げ始めた。


「これは、ルシアンが私を陥れるために仕組んだ罠だ!彼は王位を狙って、私を排除しようとしているんだ!」


 彼の言葉に会場は一気にざわつき始めた。

 ルシアンは冷静なまま、その場を見渡していたけれど、エドワードの声は次第に荒々しくなっていった。


「奴がリリアナを操っているんだ!全ては私を失脚させるための計画だ!」


 エドワードの叫びが会場中に響き渡り、混乱はさらに広がった。

 貴族たちはその場で顔を見合わせ、どうすればいいのか分からず動揺していた。


 その場には国王陛下もお父様もいたため、状況はますます重大なものとなっていた。

 陛下は冷静に状況を見守っていたが、お父様は困惑した表情を浮かべている。

 エドワードの主張に耳を傾けながら、しかし娘である私が持ち出した証拠にも目を向けていた。


 国王陛下が静かに手を挙げ、場を落ち着けようとしたものの、混乱はしばらく収まらなかった。


 そして最終的に、王の命によってその場はお開きとなった。

 エドワードと私の結婚発表は、私の告発によって完全に台無しになり、会場には冷たい空気だけが残った。



 その後の調べで分かったことは、私を暗殺した後、やはり悲劇の主人公としてアリスに近づくことだった。

 けれど、驚いたのは、アリスがエドワードの陰謀にまったく関与していなかったことだ。

 彼女はエドワードに、ただ無邪気に接していただけだった。

 エドワードが私の命を狙っていたことなんて、彼女は何も知らなかった。

 彼の冷酷な計画の中で、アリスだけは大切にされた存在だったのだ。


「アリスは、何も知らなかったのね…」


 何もしていない彼女に罪はない。

 けれど、その無自覚な無邪気さが、私を苦しめたのだ。

 舞踏会の混乱が収まった後、アリスがエドワードの計画について知ったとき、彼女はすぐにエドワードとの関係を断ち切った。

 彼女の心にあった清らかな愛情が、一瞬で裏切られたことを知り、彼女は涙を流しながらも毅然と彼に背を向けた。


「エドワード様、もうあなたに近づくことはありませんわ」


 その時、私は彼女に対して同情の念を抱かざるを得なかった。

 彼女もまた、エドワードに騙されていた一人だったのだ。

 アリスがエドワードから離れると、彼の周囲にいた人々も次々と彼から距離を取り始めた。

 エドワードの計画は完全に崩れ去り、彼が築き上げた地位も次第に崩れていった。



 アリスがエドワードから距離を取ってから、まるで彼が「聖女の加護」を失ったかのように、エドワードの運命は急速に下り坂へと向かっていった。

 アリスは貴族社会でも「清らかな聖女」として高い評価を受けていた存在だった。

 彼女の純粋な光が、エドワードの闇を一時的に隠していたのかもしれない。


 でも、その光がなくなると同時に、彼の裏の顔が一気に晒され、誰も彼を信じなくなった。

 まるでアリスがエドワードを守っていたかのように、彼女が去った途端に全ての支えが崩れていった。

 貴族たちの信頼は次々に失われ、彼の地位はどんどん崩れていく。


 かつてあれほど尊敬され、未来を期待されていた王子が、こんなにも急速に失墜していく様子は見ていて辛かったけれど、同時に自業自得だとも思った。

 彼は私やアリスを利用しようとし、結局その代償を払っている。


 その後のエドワードの運命は、まさに転落という言葉がふさわしかった。

 彼の陰謀がすべて明るみに出たことで、王は失敗した彼に失望し、ついにエドワードは王位継承権を剥奪されることになった。

 王家にとって、彼の存在はもはや危険でしかなかったのだ。


 貴族たちも彼に背を向け、誰一人として彼を擁護する者はいなかった。

 かつては未来の王として多くの人々に期待されていたエドワードが、今や完全に孤立していた。

 私自身も彼の姿を見ると複雑な気持ちになった。

 もし私が「悪役令嬢リリアナ・フォン・ヴィンター」ならば、こんな結末にはならなかったかもしれない。



 エドワードの陰謀を暴露してからというもの、私の人生は一変した。

 彼の計画は完全に崩れ去り、彼が王位継承権を剥奪される様子を見届けた私は、これでようやくすべてが終わったのだと感じた。


「全て終わったのね...」


 その一言が、自分の口から漏れた瞬間、気付けば涙が頬を伝っていた。

 どうしてだろう?

 苦しかった時は涙一つ見せなかったのに、今さら安堵した途端にこんなに溢れてくるなんて。


 涙は静かに、止めどなく流れ続けた。

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