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2.知らないシナリオ

 エドワード様と過ごす時間は、いつも私にとって特別なもので、彼の優雅な振る舞いや、穏やかな笑顔を見るたびに、胸が温かくなる。

 けれど、最近私は気づいてしまった。

 彼が時折、遠くを見つめるような表情をすることに。


 一緒に庭園を歩いている時も、会話が途切れた瞬間に彼がふと、まるで何か別のことを考えているかのように遠くを見つめることがある。

 それが何なのか、私には分からない。

 だけど、その瞬間だけ、彼が私の目の前から遠ざかってしまうようで、不安を感じ始めていた。


「エドワード様、何かお考えですの?」


 勇気を出して尋ねてみるけれど、彼はいつも優しく微笑んで、答えは「大したことではない」とだけ。

 彼の微笑みを見て、すぐに安心しようとする私だけど、心の奥では何かが引っかかる。


 彼は何かを隠している?

 それとも、ただ忙しいだけ?

 どちらにしても、この不安は消えない。


 そして、その不安はさらに大きくなっていった。

 特に、最近エドワード様がヴィンター家の資産について頻繁に話題にするようになったからだ。

 最初は、王子として国の未来を考えるのは当然だと思っていたけれど、彼の関心があまりにも鉱山に偏っていることに、少しずつ違和感を覚えるようになった。


「リリアナ、ヴィンター家の鉱山は今後どう発展していくと思う?」


 彼の問いに、私はいつも冷静に答えていた。

 ヴィンター家の鉱山は、我が家の大きな資産であり、国にとっても重要なものだ。

 それを知っている私は、彼の質問に丁寧に応じてきたけど、ここ最近、その話が頻繁すぎる。

 まるで彼が、私自身よりもヴィンター家の富や資産にしか興味がないように感じてしまう。


「エドワード様、最近はヴィンター家のことばかりお話になりますが…何かご心配事でも?」


 彼はすぐに微笑んで否定した。

 彼の微笑みはいつもと変わらないけど、私の心には疑問が残る。

 彼が私に向けるこの優しさは、本当に私自身に向けられているものなの?

 それとも、私の家の富に対するものなの?



 今日は何か落ち着かない。

 最近の彼の遠くを見つめる視線、ヴィンター家の鉱山の話ばかりする様子がどうしても頭から離れない。

 そんなことを考えながら、私はいつものように庭園を歩いていた。


 庭園は私のお気に入りの場所。

 色とりどりの花々と澄んだ空気が広がり、心を落ち着かせてくれる。

 でも、今日はなぜかその心地よさを感じる余裕がなかった。


 ふと、視界の端に動く影が見えた。

 あれ?と思い、目を向けると…そこにいたのはエドワード。

 そして隣には、あの聖女アリスがいた。


「エドワード様とアリス…?」


 信じられなかった。

 私は息を呑んで、思わずその場に足を止めた。

 まさか、エドワードがアリスと密かに会っているなんて、想像もしていなかった。

 彼がアリスに微笑みかけている姿を見た瞬間、胸の奥がギュッと締め付けられるような感覚に襲われた。


 二人は木陰に立ち、親しげに話している。

 私が見たことのないエドワードの表情だった。

 いつも私に見せてくれる優しい笑顔よりも、どこか柔らかく、温かい雰囲気が漂っていた。


「どうして…?」


 私の胸はざわつく。

 エドワードとアリスがこんな場所で、しかも誰にも見られないようにこっそり会っているなんて、考えもしなかった。

 頭の中で何度も状況を整理しようとするけど、答えが見つからない。


 二人が何を話しているのか、少し離れているためにはっきりとは聞こえないけれど、エドワードの口元が微かに動くのを見て、私の不安はますます大きくなっていった。


「エドワード様…私には何も言ってくださらなかったのに…」


 彼が何を考えているのか分からない。

 私に何も言わずにアリスと会っている。

 これは裏切りじゃないか?

 そんな疑念が一気に胸を占めていく。

 もしかして、エドワードは私ではなく、アリスを選ぼうとしているの?

 彼は私にとって特別な存在。

 でも、彼にとっても私は特別な存在のはず…そう信じていたのに。


 アリスの清らかな笑顔と、エドワード様の穏やかな視線が私を遠ざけているように感じた。

 二人の間に私の入る隙間がないような気がして、たまらなく不安になった。


「どうして、エドワード様…?」


 私は立ち尽くし、何もできなかった。

 二人が何を話しているのかを知る勇気も、彼らに近づく勇気もなく、ただその場で見つめるしかなかった。

 私の心の中で膨れ上がっていく不安と疑念は、止めどなく広がっていく。


 ようやく動けるようになった時、足が思うように動かない。

 目の前で展開されている光景が現実なのか、夢なのか、判断がつかないほど頭が混乱していた。

 もしかして、私がアリスをほかの男性に近づけたことで、私の知らないルートに入ったの?


 その時、エドワードの言葉が風に乗って、私の耳に届いた。


「アリス、君の助言には本当に感謝している。君がいなければ、ここまでうまくいかなかっただろう」


 私は息を呑んだ。

 彼がアリスに感謝している…それって、一体どういう意味?

 私は彼の婚約者なのに、アリスが彼にとって重要な存在であるかのような言葉。

 彼が私に隠していることが確かにあると感じた瞬間だった。


 もう耐えられない。

 このまま彼に何も聞けないままでいるのは、苦しすぎる。

 けれど、今この場で問いただす勇気も出ない。私が思っていた以上に、エドワードはアリスと親しい関係にあるのかもしれない。


 私は背を向けてその場を立ち去った。

 足元はふらついて、呼吸が乱れる。

 何がどうなっているのか分からない。

 エドワードが私を裏切っている…そんな現実を受け入れたくない。

 でも、今見た光景は、私にそれを認めさせようとしている。


「エドワード様…信じたいのに…」


 心の中で何度もそうつぶやきながら、私は歩き続けた。

 彼が私を裏切るはずがない。彼がアリスに心を奪われるはずがない。

 でも、その確信が崩れていく感覚に、どうしても抗うことができなかった。



 最近、心の中には常に不安が渦巻いている。

 エドワードがアリスと密会していたあの日のことをどうしても忘れられない。

 彼に何か隠されているんじゃないかと、そんな考えが頭を離れない。

 だけど、どうしたら良いのか分からず、悩んでいた。


 そんな時、突然私に声をかける人物がいた。


「リリアナ嬢、少し話がある」


 振り返った瞬間、私は目を見張った。

 そこに立っていたのは、黒髪と鋭い青い瞳を持つ、冷ややかな雰囲気の男性。

 王位継承権第二位のルシアン王子だった。

 彼はエドワードの異母兄弟であり、王族の一員であることは知っていたけれど、彼とは一度も話したことがなかった。

 というか、彼のことなんてほとんど知らない。


 だって、ルシアンは乙女ゲームでは名前だけが出てくる存在だった。

 しかもビジュアルすら設定されていない、ただの会話の中だけのキャラクターに過ぎない。

 ゲーム内で重要な役割を担うこともなく、エドワードに比べれば、ほとんどいないような存在だったのだ。

 そんなルシアンが、目の前に現れるなんて、予想もしていなかった。


「ルシアン王子殿下…?」


 私の声は自然と驚きに染まっていた。

 彼が私に話しかけること自体が信じられなかった。

 何の用事があるのだろうか?彼と私に接点なんてほとんどない。

 話しかけられる理由もない。


 ルシアンは私の動揺を全く気にすることなく、冷静な表情で口を開いた。


「君はエドワードの狙いに気づいてるか?」


 その問いに、私は一瞬、息を詰めた。

 彼の言葉がどういう意味なのか、すぐには理解できなかった。

 エドワードの狙い…?


「...エドワード様の狙いですか?エドワード様が何か…?」


 私は困惑したまま答えた。

 ルシアンの冷たい目が私をじっと見つめている。

 彼の瞳には感情がほとんど表れていないけれど、その鋭さが私の心を掴んで離さない。


「彼は君を利用している。ヴィンター家の財産が目当てだ」


 私の頭の中は混乱していたけれど、すぐに反論した。

 だって、政略結婚ってそういうものじゃないの?

 お互いの家の利益を守るために結ばれるものだし、エドワードがヴィンター家に興味を持っているのは当然だと思ったから。


「エドワード様と私の婚約は政略的な意図も兼ねています。エドワード様がヴィンター家に興味を持っているのは当たり前ですわ。私も公爵家の令嬢として、家の利益を守らねばなりませんから」


 ルシアンは静かに頷いたけれど、その冷たい表情は変わらなかった。


「そうかもしれない。でも、エドワードは単に政略結婚だとは思っていない。君を排除して、ヴィンター家を自分のものにしようとしている」


 排除…。

 エドワードが私を…?

 そんなこと、まさか…。

 でも、最近の彼の振る舞い、アリスとの密会、そしてヴィンター家の鉱山について話すことばかり――

 全てが私の不安を増幅させていく。


 ルシアンの言葉は、私の胸に重くのしかかった。

 彼が言うには、エドワードは私を利用し、最終的には排除しようとしているというのだ。

 そんなはずない!エドワードは私を愛してくれているし、私も彼を信じている。


「そんなこと、信じられませんわ。エドワード様は私に対して誠実ですし、私たちは良好な関係を築いています」


 でも、ルシアンは冷静に続けた。


「君がどう思おうが構わないが、エドワードの行動をもう少し冷静に見た方がいい。気づいた時には、もう手遅れかもしれない」


 彼の言葉は鋭く、私の心に刺さるようだった。

 エドワードを信じたいけれど、ルシアンが言っていることが全くの嘘とは思えない。

 そのまま私たちは静かに別れた。



 エドワードを信じたい。

 彼が私を裏切るなんて考えたくもない。

 これまでの時間が全て嘘だったなんて、そんなことはあり得ない。

 だけど、ルシアンの言葉が頭から離れない。


 心の中で葛藤が渦巻く。

 エドワードを信じ続けるべきか、それともルシアンの警告に耳を傾けるべきか。

 どちらに進むべきか分からなくて、私の心は揺れ動く。

 ルシアンが言うように、エドワードが私を利用しているだけなんて、到底信じたくない。

 でも、それでも彼の冷たい眼差しは、ただ単に私を怖がらせているわけじゃないような気もする。


 それにしても、どうして今になってルシアンが私にこんなことを言ってくるの?

 ゲームの中で彼は名前だけの存在で、ストーリーにもほとんど関与してこなかった。

 まさか、彼がこんなふうに現れて、私にエドワードのことを警告してくるなんて想像もしていなかった。


 もしかして、ルシアンはエドワードとの仲を壊そうとしているんじゃないか?

 彼の目的は何なんだろう?

 私はエドワードの婚約者だし、ヴィンター家の資産も関わっている。

 彼にとって、私たちが手を組むのは不都合なのかもしれない。


 でも、ルシアンはそんなことを口に出すような人じゃないとも思える。

 何か裏があるのか、それともただ私に忠告しているだけなのか――

 どちらにしても、私には彼の本当の意図が分からなかった。


「もしかして…これは、あのゲームの悪役令嬢が破滅するルートに入ってしまったんじゃないの…?」


 私はゲームの中で何度も繰り返し見た、「悪役令嬢リリアナ」の最悪の結末を思い出した。

 エドワードに糾弾され、すべてを失い、最終的には処刑される運命――

 私はその運命を変えたい一心で、これまで善良に振る舞ってきたはずなのに…。

 それでも、ゲームと同じように、エドワードに愛想をつかされ、破滅へと向かってしまっているのではないかという恐怖が頭をよぎる。


「私、こんなはずじゃなかったのに…」


 心臓が早鐘のように打ち始めた。

 このままでは、本当にゲーム通りの運命を辿ることになるかもしれない。

 私はそれを回避したくて、エドワードに嫌われないように、悪役にならないように努力してきたのに…。

 でも、ルシアンの話が本当なら、私の努力は無駄だったということ?


 その不安が私を押しつぶしそうになる。

 だけど、だからこそ、動かなければならない。

 私はただ破滅を待っているわけにはいかない。

 何かを変えなければ、最悪の結末を迎えてしまう。



 結局、私は自分で動くしかないという結論に達した。

 エドワードのことを信じたい気持ちは変わらないけれど、ルシアンの言葉を無視するわけにはいかない。

 もし彼の警告が本当で、エドワードが私に何か隠しているのだとしたら、真実を知らないままでいるのは怖すぎる。


 数日後、私はルシアンに告げた。


「ルシアン殿下。エドワード様の行動を見守ります。そして、真実を見極めます」


 私は冷静な声でそう言ったけれど、心の中では複雑な感情が渦巻いていた。

 エドワードを疑うのは辛いし、ルシアンがどこまで本気で言っているのかもまだ分からない。

 でも、これ以上何もしないで不安に押しつぶされるわけにはいかない。

 私は自分のためにも、ヴィンター家のためにも、真実を見つけ出さなければならない。


 ルシアンは私の言葉に頷いた。

 彼の冷静な表情は変わらないままだった。

 彼の真意はまだつかめないけれど、少なくとも今は協力するしかない。

 エドワードを守りたいという気持ちと、真実を知りたいという気持ちの間で揺れる私に、選択の余地はなかった。


 その日から、私はルシアンと密かにエドワードの動向を探ることにした。

 エドワードはいつも通り優しく、穏やかに私に接してくれるけれど、その背後に何か隠されているのではないかという不安が拭えない。

 彼が何を考えているのか、私には見えない部分があるのだろうか。


 ルシアンは、必要最低限の情報しか私に教えてくれない。

 冷静に、そして計画的にエドワードの動きを見守りながら、彼の真意を探ろうとしている。

 私も、エドワードが普段どんな話をしているのか、誰と会っているのかに注意を払うようになった。


 でも、そんなことをしている自分が少し悲しい。

 私はエドワードを信じたいのに、こんな形で彼を疑うことになるなんて思ってもいなかった。

 彼が私を裏切るなんて、心のどこかでは絶対に信じたくない。

 だけど、何かがあるのなら、それを知るのも私の役目だ。


「エドワード様、今日はどちらにいかれるのですか?」


 私はできるだけ自然に問いかける。

 エドワードは私に微笑みながら、何の疑いもなく答えてくれる。

 そんな彼の笑顔を見るたびに、心が揺れる。


「少し、公務があって出かけるだけだよ。気にしないでくれ」


 その言葉を聞いて、私は少しホッとする。

 でも、その後ろには何か隠れているのかもしれないという不安が拭えない。

 私とエドワードの間に何もないことを願いたいけれど、証拠を集めるまでは気を抜けない。


 ルシアンとの協力は、あくまで真実を知るための手段。

 彼の意図が何であれ、今はエドワードの行動を監視し、彼の計画を見極めることが私にできる唯一の方法だった。

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