パーティがSランクになったので恋敵を追放したら案の定、想い人も一緒に抜けてしまいました
「ルッツ、お前をパーティから追放する!」
俺は高々とそう宣言した。
俺の名はケインズ。Sランクパーティ紅蓮の剣のリーダーだ。このパーティは同郷の幼馴染である女剣士シャルマと一緒に立ち上げたパーティだ。
俺とシャルマが住んでいた村は田舎なうえ平凡だった。若い俺たちは輝かしい未来を夢見て冒険者となった。
俺は名を挙げて勇者となって爵位を得て貴族令嬢と結婚するため。シャルマも同じく名をあげて王都で活躍する勇者に見初められることを夢見て。
「シャルマみてーな男女、嫁の貰い手なんかいねーよ」
「はぁ? アンタ自分の顔見たことあんの? 人の心配するくらいなら自分の心配したらどう?」
「勇者は顔でなるもんじゃねーから。強さだから。強くて功績をあげたら貴族令嬢が俺の事放っておかねえし」
「まあ、私も名を売らないと勇者様のパーティに入れてもらえないから、強くならないといけないけど、あんた、足引っ張らないでよね」
「けっ! 俺が勇者になったら見てろよ。側室にしてくれって言ってきてもしてやんねーからな!」
「だれが。あんたなんかお断りよ!」
とまあこんな感じで村を飛び出した俺たち。
村では一番と二番の腕前だったけど、都会に出てみたら井の中の蛙。
周りには強い奴がわんさかいて、俺たちは鳴かず飛ばずの時代を長く過ごした。
「傷、大丈夫? はい。傷口見せて。薬ぬったあげるから」
「お、おう」
クエストは失敗続き、生傷は耐えなくて薬代で赤字になる生活。
それでも、俺とシャルマは必死にクエストをこなして強くなろうとしていた。
ひたむきに努力する俺たち。
夢に向かって必死に努力するシャルマに、いつの間にか俺は惹かれてしまっていた。
「ぜってえ勇者になってやる!」
「ケインズなら絶対なれるよ。だって、こんなに頑張ってるんだから」
「珍しいな。お前がそんな風に褒めるなんてよ。明日は雪でも降るんじゃねーの?」
「失礼な口はこいつか!」
「いてえ! グーで殴るな! グーで、この筋肉ダルマ!」
お前がいてくれたから俺は折れずにやっていけてるんだ、などとは口が裂けても言えない。
俺たちはそういう関係なのだ。
さすがにこれ以上は二人じゃ無理だという事になって、パーティに新しい仲間を入れることにした。とはいえ、俺たちの万年Dランクパーティに入ってくれるベテラン冒険者なんかいるはずもなく、ギルドで立ち尽くして途方に暮れていた二人を入れることにした。それが、男錬金術師のルッツと、女僧侶のミナだった。
パーティの人数を増やしたおかげで俺たちは活躍の場を広げて、とんとん拍子にクエストをこなして、いつの間にかSランクパーティとなっていた。
俺の名声も王宮まで届き、勇者への推薦も待ったなしのところまで来ていたのだが、俺の心の中は穏やかではなかった。
「おいルッツ、お前、今日の戦闘補助遅すぎだぞ。やる気あんのか?」
「ちょっとケインズ言いがかりよ。ルッツはよくやってるわ。冒険の準備だってクエストの受注だって、他のパーティとの折衝だって全部やってくれてる。それだけ忙しいんだから疲れだって溜って行動が遅れることだってあるわよ。ねえルッツ」
「ありがとうシャルマ。でもケインズのいう事は正しいよ。僕の行動が遅かったのも事実だし」
「いいのよ、あなたが大変な時は私がサポートしてあげる。じゃあ行きましょ」
「行くってどこに?」
「あなたの部屋よ。明日の準備を手伝ってあげるわ。さあ」
「あ、ちょっと、引っ張らないでよシャルマ」
「お、おい、お前ら!」
とまあこんな感じでシャルマがグズなルッツの肩を持つのだ。それにルッツのほうもまんざらじゃないって顔しやがってよ。
クエストで森で野営しているときだって、いつの間にか二人で消えている時がある。怪しんで後をつけたことがあるが、シャルマがルッツに迫っていたのを見たときには心臓が跳ね上がった。ルッツはヘタレだからそれには応じなかったが、いつかは流されてしまうだろう。
このままでは俺のシャルマが取られてしまう!
そう考えた俺はパーティからルッツを追放することにした。
理由が戦力不足だけでは足りないから、パーティ資金の横領をでっちあげた。
そして冒頭に戻る。
「はぁ? ルッツがそんな事するわけないでしょ!」
「証拠はある。さあルッツ。パーティを出ていけ。お前とはもう一緒にやれない。素直に出ていくなら横領の件は水に流してやる」
「分かった……。これまで置いてくれてありがとう」
「ルッツ! 本気?」
「仕方ないんだ。僕はSランクパーティではお荷物。ずっとそれは気にかかってた。だからさようなら」
「だけど! ねえ、ケインズ、私がルッツの分も働けばいいでしょ」
「だめだ。そんなお荷物を抱えていてカオスドラゴン討伐なんかできるわけがない」
「この人でなし! いいわ。ルッツが抜けるなら私も抜ける。今までどーもありがとうございました!」
こうなる可能性も考えなかったわけじゃなかった。
でも、シャルマは俺を選んでくれると思っていた。幼馴染で付き合いの長い俺を。
だが、立ち止まっている暇はない。勇者となって名声を積めば俺のほうがいい男だとシャルマも分かってくれるはずだ。そう言い聞かせて俺は無理にでも進むことを選択した。
俺は新たなメンバーを追加して新生紅蓮の剣として再出発した。
だが。
「がっかりしましたよ。あの紅蓮の剣がこんなに弱いパーティだったなんて」
「そうですね。私たちパーティを抜けさせてもらいますね」
カオスドラゴン討伐はおろか、Cランクのクエストにも失敗する始末。
失恋のせいなのか、俺の力はやたらと衰えてしまって、一刀両断できていたオーガにすら敗北を喫してしまい。
シャルマとルッツが抜けてからというものの、坂を転がり落ちるように名声は地に落ちた。
「ちっ! 何が抜けさせてもらいますね、だあの尻軽女! こっちだって願い下げだよ、うぃぃ~っく」
「あ、あの、ケインズさん。の、飲みすぎです」
「ああん? なんか文句あんのか? 誰のおかげでSランクパーティにいれると思ってんだぁ?」
「そ、その、元、Sランクですぅ」
「あんだってぇ? お前まで馬鹿にするのか? お前は黙って俺の後をついてきてりゃいいんだよ。このブス」
「は、はい。でも、その、お部屋に帰りましょう。さあ、立ってください」
「なんらぁ、俺はまだのめるぞ~」
という風に俺は酒におぼれる日々が続いていた。
酒におぼれて、シャルマがいなくなった悲しみを少しでも忘れたかった。
「ケインズさん、これ、お金です」
「おお、わりいな。これで今日も酒が飲めるぜ。さんきゅー」
クエストにもいかなくなった俺は、同じパーティ仲間のミナが都合してくれる金で一日中酒を飲んでいた。飲んではつぶれてミナに安宿の部屋に連れて帰ってもらう生活。
俺は徐々に心を蝕まれていき、そして……。
「ケインズさん、その……昨日は激しかったです……」
記憶がないが、どうやらミナと朝チュンしてしまったようだ。
まあやってしまったものは仕方がない。この根暗メカクレ女だって、この俺に抱かれたのなら本望だろう。陰気臭いが体つきはいいからな。だけどシャルマには到底及ばない。あいつの体は美しくてしなやかで、そしてきらめいていた。
そんな俺の耳に、シャルマとルッツの立ち上げたパーティがカオスドラゴンを討伐してSランクになったと入ってきた。
正直頭がどうにかなりそうだった。
それを聞いた日の夜は何があったのか覚えてはいない。
ただ、体にあざをいくつも付けたミナが一緒のベッドで寝ていたことだけは確かだった。
それからというもの、俺は毎日のようにミナと夜を共にした。
心の隙間を埋めるように、何度も何度もミナを抱いた。
「いいんですよ、ケインズさん。つらいときは吐き出してください。私がいます。何があっても私はおそばを離れませんから。さあ、きてください」
そして俺はミナに溺れていった。
もうそれでいいと思った。
ある日の事。
久しぶりにシャルマの事を思い出して、いてもたってもいられず俺は宿の外に出た。
宿の外に出たのはいつぶりだろうか。そんなことも分からなくなっていた。
そういえば、ミナはどうやって金を稼いでいるのか。
そんな事がふと気になったのは神の啓示だったのか、いつも俺が寝ている間にどこかに出かけているミナの姿を見つけた。
俺はこっそりと後をつけた。ミナは怪しい家に入っていった。違法薬物でも売買してそうな感じだ。だが家の壁は薄いようで、俺は中で何が行われているのか聞き耳を立てた。
「久しぶりだねミナ。どうだい愛する旦那の様子は」
「はい。計画通りですよ。今も宿で寝ています」
「そりゃよかった。まさか奥手のミナがねぇ。誰に聞いても信じられないっていうよ。まさか、恋敵と邪魔者に薬を盛って恋仲にさせちまうなんてね。よくばれなかったねぇ」
「ええ。1年間もかけましたから。念入りに念入りに、ゆっくりとゆっくりと」
「そんなまどろっこしいことするんだったら、薬で旦那の心を奪っちまえばよかったんじゃないのかい?」
「それじゃぁダメなんです。薬の力で得た心なんて偽物ですよ。私が欲しいのは、ぐずぐずになってべちょべちょになって、もうどうしようもなくなって、そうやって私しか見えなくなったあの人の心なんですから」
俺は耳を疑った。
信じられなかった。パーティに入った時から空気のようで、人畜無害な人数合わせの女だと思っていたミナにそんなことをされていたなんて。
「誰っ!?」
しまった、音を立ててしまった! 急いで逃げなくては。
だが俺の足はとうの昔に全力疾走の仕方を忘れており、心に体が付いてこず情けなくその場ですっころんだ。
「あらぁ、ケインズさんじゃないですかぁ。今の話、聞いてしまいましたか?」
俺はプルプルと首を振った。
目の前にいたのはミナだったが、俺の知っているミナとは違って俺の心を折ってしまうほどの圧を放っていたからだ。
恐怖で腰が抜けた俺は、迫るミナに命乞いをしていた。
「さあ帰りましょう。何も心配いりませんからねぇ。ずっと、ずーっと一緒ですよ。死んだって、魂は逃がしませんから」
その後、俺がどうなったのかはどの記録にも残っていない。
どこをどう間違ったのか……。
お読みいただきありがとうございます!
いつもながらに勢いのまま書き上げました! 小説書くのって楽しい!
私はもちろん、面白い! と思っていますので、皆様も少しでも面白かったと思っていただけたのなら、評価を入れていただけると作者がよろこびます。
それではまた、次回、とんでもない短編でお会いしましょう。
次回まで待てない! という方がいましたら、今連載中の「キッテのアトリエ」をぜひ読んでみてください。
キッテのアトリエとご先祖様の不思議な本 ~小さな竜に転生したので病弱な少女が立派な錬金術師になるのを見守ります~
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それでは!(二回目