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4. クレア・ルフェーブルという悪役令嬢①




突然だけど、私には前世の記憶がある。



前世は日本という島国に生きる女子高生。交通事故に遭い17歳という短い人生を終えて転生した先は、なんと前世でプレイしていた乙女ゲームの世界だった。


膨大な魔力を持っていることが発覚した平民生まれのヒロインが王立魔法学院に入学し、3人の王子と恋愛をするというストーリーで、 大変人気を集めていた乙女ゲームである。



私が前世の記憶を思い出したのは学院の入学式の日だった。

今世の私はゲームに一切登場しないモブ伯爵令嬢だったため思い出すきっかけがそれまでなかったのだけど、入学生代表として壇上に上がった制服姿のクレア・ルフェーブル様を見て、私はすべてを思い出したのだった。



―――――クレア・ルフェーブル。ゲームの中での彼女は、どの王子のルートへ進んでもヒロインにあの手この手で嫌がらせを行い、ふたりの恋の邪魔をする悪役令嬢だった。


私の前世の推しは、第一王子ベルナート殿下でも第二王子ジルザート殿下でも第三王子ギルバート殿下でもなく、隠しキャラでもなく、ヒロインでもなく、悪役令嬢のクレア様だった。なぜなら!見た目が!どタイプだったから!



類い稀な美貌に、高貴な血筋、学業優秀、国で一番の魔力量、誰もが羨望する魔術の才。きっとゲームの知識などなくとも推していた。完全無比な彼女に憧れるなという方が無理な話だ。月の精霊のような美貌でどんな魔術も扱えるところがかっこいい。


学院の授業中、クレア様が涼しい顔で高難度の魔術を扱うところを実際に目にしたときの感動は忘れられない。生徒でありながら講師として授業を行うクレア様の姿を見れる機会もあり、最高の学院生活である。



開発者側にもクレア様ファンがいたのは間違いない。それくらいクレア様の出るスチルは並々ならぬ情熱を感じさせるほど気合が入っていたし、登場シーンが攻略対象者の王子と並ぶほど多かった。


どの王子のルートへ行っても悪役令嬢として立ち塞がるクレア様は、最終的に王子に婚約を破棄されヒロインへの数々の嫌がらせを断罪された結果国外追放となってしまうのだが、その後、闇堕ちして魔王と通じ世界を滅ぼすラスボスとして再登場する。光魔法を扱えることで聖女と認められたヒロインは、結ばれた王子と協力してクレア様と魔王を倒しハッピーエンドを迎えなければならない。

しかし、なにせクレア様の魔術の才はチートもチート。強すぎるのだ。私もそのバトルでゲームオーバーして何度もバッドエンドを迎えてしまった。



もはや悪役令嬢クレア・ルフェーブルのために作られた乙女ゲーム。クレア様は揺るぎない最強のラスボスだった。





けれどゲームの中のクレア様と現実のクレア様は、すこしだけ違うところがあった。


現実のクレア様は、婚約者候補の王子たちに対して嫉妬に狂ってヒロインに嫌がらせをするほどの情熱を微塵も持ち合わせていなかった。

たしかに魔術の才はゲームと同じく現実でもチートだったけれど、あそこまでの魔術への傾倒ぶりはゲームのなかでは見られなかったものだ。それに光魔法の適性があるのはヒロインだけだったはず。ゲームの中のクレア様が扱えるのは光魔法以外のすべてで、それでも十分すごいけど、現実のクレア様は光魔法さえ扱えた。




なにより、あの美しい従者は、ゲームの中のクレア様のそばにはいなかった。







ゲームと現実の相違に、もしかしてクレア様も転生者なのではないかと思った時期もあった。

だからクレア様を観察してみた。そして気づいたのだ、クレア様は王子との婚約をわざと破棄に仕向けている、と。



ベルナート殿下のときもジルザート殿下のときも、婚約破棄の原因となった男爵令嬢の家はお世辞にも裕福とは言えなかった。それなのに急に領地の経営が立て直ったかと思えば、そのタイミングで男爵令嬢は王子たちに近づいて誘惑するようになった。なんらかの企みが絡んでいることは明白だろう。


クレア様は、王子と男爵令嬢が白昼堂々と仲を縮めていようとも、無関心も無関心。嫌がらせなど当然しないし、自分の婚約者候補が真実の愛などに現を抜かしている間に、魔力枯渇症に関する治療魔法の論文や軍事魔術の魔力効率の論文などで褒賞を受けていた。素晴らしい。さすが推し。


2度もまるっきり同じ流れで婚約を破棄されたクレア様が婚約破棄をあっさりと受け入れ従者とともにさっさとご帰宅される後ろ姿を見ながら、なぜ王子との婚約をわざわざ破棄へと仕向けているのだろうと私は疑問だった。もしも転生者なのであれば、ゲームのシナリオを知っているのならば、婚約破棄を避けるのが普通なのではないか。

それに、クレア様が無実潔白であるとわかっていても、婚約破棄からの断罪という流れはゲームの中での闇落ちのきっかけであったため、例の婚約破棄騒動は私にとってはかなりヒヤヒヤするものだった。




「クレア・ルフェーブルは、他人を慮ることもなく他人に興味を示すこともなく、天才ゆえに凡才の気持ちが理解できず、不遜で傲慢で冷酷な女である」―――――才能への嫉妬か、その瞳に映れない負け惜しみか、王子たちを筆頭にそういう類の悪評が囁かれている彼女。


実際にクレア様は、他人を寄せ付けない孤高の方だった。この国ではめずらしい黒髪を持つ美しい従者以外を側に置かず、私たち凡人なんて視界に微塵も入っていないというように、その瞳はただひたすら魔術のみに真摯だった。



けれど。



「アル。あなたまたA定食にしたの?よく飽きないわね」

「これ好きなんですよね」

「ふうん。うちでも作ってもらったら」

「お嬢様が料理長に頼んでみてくださいよ」

「いいけど……そういえばあなたを甘やかしすぎって最近言われたところだったわ」

「えー?いまさらでしょ」



従者となんてことない和やかな会話をしているところを見かけるたび、私は彼女が世界を滅ぼすような悪役令嬢だとは思えないのである。



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