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シン・オジュマ  作者: 神原月人
スナネコ・チャレンジ
34/51

自然な羽根

 スーニャン不在のなかで、アナベルと並んで歩いた。


「地下トウキヨの名物スポットを案内する約束でしたよね。どこか行ってみたい場所はありますか」


「いえ、特には」


 ポポロには興味がないのか、アナベルは白けた雰囲気を漂わせている。


 足の遅いポポロはスーニャンを追いかけても捕まえることができない。いちいち追いかけずとも、放っておけばポポロの匂いを辿ってそのうち戻ってくる。


「あたしの知ってるトウキヨじゃないな」


 紫色の甍、金色の燭光、赤い提灯を眩しそうに見上げながらアナベルが言った。


 どことなく郷愁を感じさせる寂しげな吐露だった。


 似たような台詞を耳にしたことがある。


 あれはそう、キタキツネの獣人コンタが出所明けに漏らした感想だ。


 ひょっとしてアナベルにも他人に触れられたくない過去でもあるのだろうか。


「アナベルさんはトウキヨに住んでらしたんですか」

「小さいときに住んでました。良い思い出はまったくないですけど」


 住んでいたかどうか聞くぐらいならよかろうと思い、話を向けたのが裏目に出た。


 ポポロは慌てて話題を変えた。


「スーニャンはあそこで飛行訓練しているんです。逆さま列車(モノレール)のプラットホームから飛び降りるんです」


 ポポロは逆さま列車が走る線路を指差した。


「どこに向かって飛ぶかは決まってるんですか」


「スーニャンの気分次第です。あれは飛んでいるというより落下している、といったほうが正しいぐらいなので、怪我をしないかそれだけが心配で」


「もっと安全に飛行訓練ができたらいい、と」


「そうなんです。地下トウキヨは日に日に変貌しているので、昨日なかった壁が次の日にはできている。調子に乗って飛んで頭をぶつけたりしそうなのが怖い」


 ポポロは内心、スーニャンがいつか大怪我をするのではないかと冷や冷やしていた。


「〈建造者(ビルダーズ)〉が無秩序に町を組み立てているからですよね。まあ、スナネコが飛んでも安全なように町は設計しないか」


 アナベルが急に立ち止まり、声を低めた。


「たいへん言いづらいことなので、言おうか言うまいか悩んでいたんですけど」


「話していただけますか」


 続きを促すと、アナベルが言いにくそうに口を開いた。


「空飛び猫は生まれつき空飛び猫です。生まれつき羽根が生えていないのであれば、どれだけ飛行訓練を繰り返しても羽根は生えません」


「生まれつきの資質なので努力ではどうにもならない、と?」


 ポポロは血相を変えた。睨みつけんばかりの形相に慄き、アナベルが後ずさりした。


「そう思っていた方がいいんじゃないか、ということです」


「モシュさんは飛行訓練を繰り返せば、いずれ羽根も生えるだろうと太鼓判を押してくれました。あれは嘘だったんですか」


 ポポロはぎりりと歯噛みした。


 どんなに頑張っても後天的には羽根は生えない。生まれつき空飛び猫でないなら、一生空飛び猫にはなれない。それを分かった上で空飛び猫になれと発破をかけたのか。


 夢を笑うのは罪深いが、むやみに夢を見せるのも等しく罪深くはないのか。


「いつか自然に羽根が生えるなんて真に受けないで。羽根が生えるまで落ち続けるなんて、命がいくつあっても足りないわよ」


 忠告を切り裂き、突然の落雷のように空からスーニャンが降ってきた。


「ポポ先生ぃ、ただいまぁ!」


 まるで身構えていない所に直撃されたものだから、ポポロはもんどりうって倒れた。ポポロの腹の上で楽しげにぴょんぴょん飛び跳ねているスーニャンを見ると、怒っていたのが馬鹿らしくなる。自然と笑みがこみ上げてきた。


「先生、なに笑ってるの?」


「屁理屈だよ、屁理屈。妖術師というのはまったく意地が悪いね」


 マヌルネコが「大きな声では言えない」と口にしたのとまったく同じ構図だ。


 今回のやり取りも空飛び猫を継承するための試験の一環だったのだろう。


「自然に羽根は生えない。裏を返せば、不自然になら羽根は生える。そういうことですね」


 アナベルがくすりと笑った。


「ご明察」

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