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シン・オジュマ  作者: 神原月人
スナネコ・チャレンジ
29/51

飛行訓練

 拡張し続ける地下トウキヨで、スーニャンは飛行訓練を繰り返した。


 スナネコの獣人であるスーニャンは、日中は砂穴に隠れているが、夜になると俄然元気になる。ことに町が寝静まる夜更けを好んだ。


「ポポ先生ぃ、行くよぉー」


 タヌキの獣人ポポロは、毎度ハラハラしながらスーニャンの訓練を見守った。


 あれは「飛ぶ」というより、ほとんど「落っこちて」いる。


 出発地点は逆さま列車のプラットホームからと決まっているが、どこに向かって飛ぶかはその日の気分任せ、風任せ。


 抜群の敏捷性のおかげで着地をしくじることはないが、いつか大怪我をするのではないかと思うと気が気でない。


 よくよく見れば、あちこち擦り剥いていて、生傷が絶えない。


 幼さのなせる(わざ)なのか、スーニャンにはおよそ恐怖心というものがない。


 酔客だらけの居酒屋に頭から突っ込んでもへっちゃらだし、石畳の硬い地面に叩きつけられてもけろりとしている。ちょうど繁殖活動中であったヘラジカの獣人の住処に不時着し、巨大な枝角で追い払われたこともあった。


 その上、飛行訓練は一日に一回というわけでもない。体力の続く限り、しつこく飛び続ける。


 夜な夜なスーニャンが弾丸のように降り注ぐので、巷では〈スナネコ注意報〉なる観測情報が出回るようになった。おかげでスーニャンはちょっとした有名猫だ。


 猫の王の啓示を受けたスーニャンは、いつか自分にも羽根が生えるのだと信じ切っている。公然と「空飛び猫になる!」と言い放つようになり、自信満々で飛翔した。


 夢を口にできず、「……笑わない?」と予防線を張って、オドオドしていた気弱さはすっかり消えた。妖術師訓練校の教え子が素直に自信を持てるようになったのは喜ばしいことではある。


 反面、地下トウキヨの住人たちの反応は好意的とは言い難いものだった。


「夜を台無しにしやがって!」と怒り出す人外も多く、迷惑がられた。


 スーニャンの飛行訓練を黙って見守っているポポロの胸ぐらを掴み、「さっさと止めさせろ!」と凄んでくる者もいた。


「くだらない夢など見るな!」と言い、唾を吐きかけてくる者もいた。


 国家からの独立を宣言した空飛び猫への敬愛を得んがため、スーニャンを新たな綺羅星(スター)にしようとの目論見だが、これでは逆効果ではないか、とポポロは思った。


 ひょっとして、マヌルネコの獣人マヌに幻惑されただけ、という可能性もある。


 空飛び猫なんてものはこの世に存在しないけれど、スーニャンがあまりにも真剣に空飛び猫に憧れを抱いているから、マヌが一肌脱いだ。


 架空の空飛び猫に憑依されたふりをして、スーニャンの夢を肯定した。


 ……と、そう考えられなくもない。


 なにが真実かはスーニャンの背中に羽根が生えれば明らかになるだろう。


 とはいえ、今の所、「飛行訓練」というよりも「墜落訓練」といったほうが正しく、羽根が生えそうな気配は微塵もない。


 もしや無駄な努力を重ねているのではないか、という疑念が付きまとう。


 スーニャンが頑張っているのはよく分かる。


 でも、努力の方向性はこれで合っているのだろうか。


 がむしゃらに、そしてひたむきに墜落を繰り返すスーニャンを見守りつつ、ポポロは腕組みした。


「なにかいい訓練方法はないかな」

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