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シン・オジュマ  作者: 神原月人
シン・オジュマ
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真の大樹魔

 マザラは昔話を語り終えると、ついでのように言った。


「ミリク、お前がアガリコの木を切り落とす仕事を好んでいないのは知っている。ミリクばかりに任せて不公平だと思っているだろうが、俺にはアガリコの森を傷付ける資格がない。森に下半身を捧げたお前にだけ許された特別な仕事だ」


「そんなの……」


 ミリクは言葉に詰まった。


 アガリコの森を焼き払うために呼び出されたマザラは一転して森の守護者に変身した。森の守護者がおいそれとアガリコの木々を切り落とすわけにはいかない。ミリクにお鉢が回ってくるのは、考えてみれば当然だった。


「アナベルさん、マザラはこれでも侵入者なの?」 


 ミリクが縋るような目でアナベルを見つめた。


「うっ……」


「マザラはずっとアガリコの森を守っていた。それでも侵入者になるの?」


 ミリクに真っ直ぐに迫られ、アナベルはたじたじと後ずさりした。


「ひとつだけ教えてちょうだい。これに答えられたら〈侵入者〉じゃないと認めてあげる。ミミリクちゃんの名前の由来は?」


 マザラは特に悩むことなく、さらりと答えた。


「ミリクは夜泣きの酷い子供だった。だが牛乳(ミルク)を与えるとぴたりと泣き止んだ。舌足らずで、ミリュク、ミリュクとねだった。はいはい、ミリュクね、と話しかけてやると牛乳を与えなくても嬉しがった。そのうち、ミリュクが名前になった。ミリュクではさすがに子供じみているから最終的にミリクになった」


「えっ、そんな理由……」


 ミリクは気恥ずかしそうに俯いた。


「へえ、ミリュクちゃん。すんごく可愛いわ」アナベルがにまにましている。


 法螺貝がふわふわ漂い、アナベルに近寄った。ひそひそと内緒話を始める。


「ぐげげげげげ。アナベル様、お呼びでございますか」


「どっちかと言うと私のほうが〈侵入者(インベーダー)〉じゃない。アガリコの地下を勝手に占拠してるんだもの」


「ぐげげげげげ。もうやーこみゃあ、アナベル様」


「そうね。もうやーこね。もうやーこということにしときましょう」


 アナベルはぱちんと指を弾き、マザラの拘束を解いた。こほんとわざとらしく咳払いする。


「えーと、あの、マザラさん。失礼をお詫びします。あなたは〈侵入者〉ではありません」


「そうですか。もう連れて帰っても?」


 マザラは素っ気なく言った。


「え、あ、そのお近付きの印に、ういろうでも召し上がっていきませんか」


 アナベルがそれとなく忘却のういろうを勧めた。


 くるんと丸まって寝そべっていたモシュが小馬鹿にしたように言った。


「アナウサギの妖術師よ。貴様も大概阿呆だな。過去に犯した罪を忘れぬことからしか新たな関係は紡げぬ。忘れるは罪を犯した者ばかり。モシュがそう申したのをよもや忘れたか」


「はああああぁぁあああ? 私はただういろうを勧めただけですぅーー」


 アナベルはモシュの挑発を受け流せず、売られた喧嘩を即座に買った。口汚い非難の応酬をしているが、ミリクとマザラは不毛な口喧嘩には加わらなかった。


「僕、知らないことばっかりだ。マザラが話してくれたことも覚えておいていい?」

「好きにするといい」

「ありがとう。一生覚えておくから」


 ミリクは静かに瞑目し、マザラの昔話を心に刻んだ。


「あ、そうだ。モシュはほんとうに森の精なんだよ。〈真の大樹魔(シン・オジュマ)〉って言うんだ」


「なんだ、それは」


「オジュマコジュマの大親分みたいなものかな。樹霊の王様を気取っているんだ」


「ははは、そりゃあいい。傑作だ」


 強面のマザラが腹を抱えて大笑いした。


「俺が助けた猫はほんとうに森の精だったのか。そうか、そうか。だとしたらミリク、お前は何者なんだろうな」


「僕? さあ、なんなんだろうね。よく分かんないや」

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