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負けたんだ

「ここにきておにごっこか……まだ、間に合うとか思っているのか? 仮に間に合ったとして戻ってこれるだけの時間が残っているとでも……ッ勘違いしているのか!!」

 飛翔とのための風の魔力の生成、収束し魔術式に当てはめた瞬きのような所作とほぼ同時に肉薄にした距離を取るため、自分の眼前に魔力による毒ガスを発生させるとそのまま火花にしかならない電撃で着火して自爆する。

「がぁ、ぐは」こんな火傷、さっき塞いだ刺し傷と比べればまだ、痛いとは言えないなぁ。

「くっせぇ! くそ、待て!」

 なんとか、飛翔に成功するとクラーラに袈裟懸けに振り降ろした一太刀に掠めたように肩口と腕から出血する。

「間に合うさ。なぁ、クラーラ!」

「そうだ!」

「クラーラまで、……とち狂った夢を」

 傷だらけで僕を追おうとしたところ、踏み込みにめがけて僕は落下する。

「く、浅い!」

 やつの言う通り、浅い。傷を負った腕で受け止められて弾き飛ばされた。本当なら着地と同時に散布する結晶化した毒を撒くつもりだったが、あれじゃ粉を撒いてるみたいなもんだ。あの毒は刺さっちゃいない。

「死んでも文句言うなよ! バカどもが!!」

 預言者が消えた。いや、少しはなれた上空で……この魔力の量は……!? 使用している魔術かた見える魔力の配列式はひねりも何もなく、ひと目見て分かるシンプルな大気圧を圧縮して発射する技、『エアバズーカ』だっていうのに、その熱は

「なんじゃこりゃ!? 空が真っ赤に」

「耐えろ! いや、伏せろ! やっぱ逃げるぞ! こんなものどうしようも」

 クラーラが僕に近寄って触れるより先に、地面に叩きつけられるような熱で呼吸を焼かれる。

「あ、がぁ、ああぁ」

 立てない。本当に大気の圧力だけで上でなにが起こっているか見ることができないほど押さえつけられているんだ。

 おさまって、耳鳴りのような痛みで視覚が明滅していくような吐き気を抑えていると、クラーラが僕の肩を持ち上げる。

「止まった……いまのうちに?」

「違う! これは」

 西を見ると空がまだ赤く、…………。

 マシンをまとめて焼き払ったのだ! その余波に僕らがこんなに、立っているだけで……

「言っただろう? マシンが尽きればあの裂け目は閉じると。もう無意味だ。無駄な努力は」

 まずい、二人は無事か……!? アレクシウスの魔法で減圧が間に合ったとして、これはいったい。

「これ以上抵抗するなら、……二人まとめて」

 どうする? 切り札はある。だが、足りない。足りるかもしれないが、僕たちがやろうとしていることを考えたら、足りないという前提で考えるべきだ。

「まだだ! ジーク!」

「あぁ! やむを得ない」

「……は?」

 使うより無いか、……切り札を

「なにをする気かわからないが」

「離レ、水ノ月!」

「……厄介な!」

 一瞬だけ、『前』の概念を失調させるが、さすが預言者、シグフレドのやつはすぐに半身になって、片手で魔術を構え直す。

「いまだ、頼む! ジークフリート! 無駄撃ちするぞ!」

「……! あぁ」


 ◆


 上手くいったか? だめだ、その合否を判定できるのは僕じゃなくてクラーラだ。

 クラーラは

 まず視界に入ったのは澄ました顔でただ突っ立っている預言者シグフレドだった。

「ワープか……そうか、二人がかりとはいえ。転送先に手がかりもなしにできるとは見事なものだ」

 毒を含んだ氷柱を発射するとそれが風に煽られ、預言者へ向けて軌道を変えてそのまま預言者の首をねじ切らんばかりの流れに操作されて預言者の脚と方と腕、腹部に数カ所突き刺さる。

 預言者は身じろぎも防御もせずにその氷柱を受け止めて、攻撃をくらった。

 その一歩も動かない姿にびびって氷柱を爆破して酸を散布しながら風の魔術で自分を防御しながら後ろに下がるが……預言者は微動だにしない。

「ワープは私には遠く及ばないとは言え、君たち自身が私に遠く及ばないわけではないのだろう?」

 気がつくとすぐとなりにクラーラがいて少し前で魔術的な防御態勢を取るので、僕の後方から攻撃できる魔術の用意を済ませる。

「ワープできるのに追いつけないとかなんとか言ってたんですか……?」

「無論、追いつけないとは言ったさ。待ち伏せすることができるから追いつく必要が無いなんて事実を教えるわけが無いだろう?」

 まだ青い東の空の方向を予想して見やるが、

「二人は……見えた、まだ到着してない! どうする!?」

 預言者は嘆息をついて、冷たい目で僕らを見る。

「今のお前たちなら俺一人を超えることも不可能ではないはずだ。なぜだ。なぜ本気を出さない?」

 剥げた土地のさっきまでマシンとして動いていたであろう金属の泥を踏みしめ、預言者は焦げ臭い足音をぬちゃぬちゃと汚れを払うように地面にするつける。

「……クラーラ、貴様は何度か俺に手傷を負わせるチャンスを棒に振ったな。しかも、二度は俺を殺せるタイミングがあったがそちらは敢えて手傷を負わせるだけで終わらせた。覚悟ができてないのかと思ったが、どうも違うようだな? なにを狙っている?」

 預言者はまるで戦っているような雰囲気ではないく、半分リラックスしているようだが、鉄火場のノリじゃないだけで十分その目には怒りの色が見える。

「ジークフリード、君の魔術の腕なら殺さずとも私を酷く消耗させる毒を作るような真似はできなくはないはずだが、少し、刺さらなければ効かない毒とは……殺しかねないと、手加減をしているように見える」

 呆れ返った声。怒りよりも困惑が勝ったような雑な声の色。

「満身創痍になるくらいなら、本気で殺しに来たらどうだ? いや、来るべきじゃないか? 君たちは私に手加減できるほど私よりも強いじゃないか」

「それは……そんなこと無いと思いますけど」

 それはそうだ。無理して手加減してんのがわからないのか、預言者は。

「断る! お前は殺さない!」

「えぇ、殺せません」

 言い直すか、まぁ、そうだな。作戦を考えたら殺せないでも合っている。

「いいのか? そんな手加減をして死んでも? たしかに私を殺したら面倒も多く降りかかるだろうが、私は既に私の――ッ」

 水晶で作られた槍が預言者の腕に掴まれて止まり、いつのまにか5本も集まったその槍は真っ黒く変色して握力だけで砕かれる。

「素晴らしいな。やはり、出力だけなら私を超えているが、制度は微妙だな。これは技術の、研究した分野の差というべきなんだよな?」

「先回りとかなんでもありかぁ!」

 シャノンの圧力をもった拳が叩きつけられて余波でクラーラと僕はお互いにしがみついて転がっていく。

「見事!」

 気を負って複数の魔術を混成させた針を発射する。それをクラーラが魔術で加速させて威力を加算させる。刺さんねぇ、

「これも無傷か」

「いやいや、すばらしいぞ?」

 シャノンも地面から水晶を隆起させて大きく動かして揺さぶるが後ろにはね飛んで着地せずに魔力で前方に飛んで蹴りを入れようとするが、それをシャノンは見切って大きく避けてまた地面から水晶を発生させると同時に上から下方向へ空気が歪んでるのが見えるほど強力な圧力を放つ。

「クラーラに合わせた凍らせた毒の針とそれを差発させる針の爆弾とはかつての私だった者もよくやるよ。だが君」

 シャノンの動きに合わせて動かした預言者の虎視眈々と狙い、背面を取ったアレクシウスを腕一本でその攻撃を熱波で消し去り、そのまま首を掴む。

「ぐぇ、ぐ……ぁぁ」

「気象操作の内、魔法で『低気圧』しか操作できないんじゃあ、できることは雨乞いと低温蒸発、冷却とついでに氷の操作……いや、おまえの場合冷気の操作に低気圧の操作がくっついてわけらからソレ以外の機能がなくなってるだけか? いや、いい。苦しむくらいならここで死んでおけ。君だけ、この場にふさわしくない戦力外だ。お前じゃあの女の相手にはならねぇ」

 なんとかアレクシウスを掴んだ預言者から離すはめに魔術で座標を、……アレクシウスが上に、シグフレドの背中が地面に向いて、僕がシグフレドの頭上に死角になるように側面へ移動して……魔術が切れた。魔力はあるがこれいじょうはむりだった。その状態で落下してシグフレドの腕に凍らせた毒をかかとに含んだ尖った蹴りを入れようとするが腕を離されてそれぞれ異なる防御行動で三人転がって、温度差とえぐれた地面の粉塵で煙幕がしかれる。

「いや、なんで? お前が! クラーラなら、ワープ魔術を……っ」

 預言者が見せた最大の狼狽。視界が悪いとは英僕の首を両腕で締めてしまう。

「なんで、貴様の方が空間転移を使っているんだ!!」

 そこへ、ゴム質の帯が地面から生えて動きとを止める。そこへ、僕は緑の魔術で作ったロープで僕と預言者をくくりつける。

「おい! クラーラ、まて、邪魔をするな。お前らをたしなめることもない。それよりも今は異世界の虫どもを!」

 縛られるのを嫌って締め付けが緩んだ首から叫んでおく。

「いけ! ふたりとも」

「ありがとう! いくよ!」

「じゃあな! あんたら。行くぞ、シャノン!」


「邪魔をするな! なにをしようと!!」

 笑っておく。顔面を殴られる。

「……そうか、預言者様は僕が時空間操作の類ができないと思っていたのか?」

「そりゃ、知らなかったさ」

 殴られる。めちゃくちゃ痛いが、もっと痛いのを知っている。

 僕が鍛え続けた空間操作魔術で周辺の空間ごと僕らを閉じ込める。

「は……ここは……何も無い、空間? いや、破るだけなら……いや、どこか弱点を探さなくては……」

 もう、僕を無視して縛りを引き裂こうとするとそれらは木綿のようにたやすくそれらはボロボロと引き裂かれる。

「えぇ、この草原は僕の中ですよ。僕が死なない限り、草木は背を伸ばさない。僕が子供の頃に感じた丘の広さを表現した魔術です」

「この規模を、いきなり!?」

「いきなりじゃあないよ!」

 もう一度殴りかかる預言者の座標を無理にずらして、移動するが纏っていた風の魔力で僕の体は吹き飛ぶ。

「ならどうやってッ!」

「僕は常日頃、寝ても覚めてもこの魔術を維持して自分の中に生まれる空間を拡大し続けて魔力に負荷を加えることで、魔術の精度を高めてきた」

「うっわぁ! 脳筋」

「その脳筋で錬気を極めた女に殺されかけた男が言うと、なんだかダサく聞こえるよッ!」

 座標を移動して背面を取ってすぐにでたらめな座標に空間転移すると僕を殺すために使った魔術が残ってその座標をずらして預言者へ爆熱を当てる。

「ぐ、なるほど、精度は確かに見事だ。だが、それで姉のコルネイユ爵に追いつけないなら、お前に向いてない訓練法なのではないか?」

 もう一度周辺へ現れると無反応名乗っで正面で数歩の距離ととって居残る。

「耳の痛い話だなぁ!!」

 シグフレドは周辺を見て、僕の顔をみて反応をみているような態度で分析を述べる。

「溜め込んでいるからか、確かにそれなりの量があるがそれでも致命的に量が足りていない。いや、密度と言い直すべきだな、何者にも縛られていない状態の奇跡の子とは言え、虚弱体質の改善に時間を掛けすぎたツケが今回ってきているのさ。繊細さ、密度、量の組み上げられた魔力因子の質を総合的に見たらこれでも、お前よりもカルラの方がよっぽどのものだ」

「あぁ、そうだろうな。なにせ」

 ……? なにをされた。いつのまに、接近されて押さえつけられて……! 嘘だろ!? 僕以外に幻術を使うやつなんて初めて見た!!

「っ、ぅあが、決める!」

「痛いだろう? 無駄な抵抗はやめろ。お前と私で一対一など無謀な駆け引きで足止めなんてする必要のない努力だ」

「いや、僕のかちだ……」

 掴まれた後頭部が痛い。握力だけで殺されそうだ。

「なに!?」

 その一撃は、すでに預言者にあたった。

「アンタは見くびりすぎている」

「クラーラの放出した魔力の量を操作していたカルラにさせていたとは言え……」

 あたっただけで、もう移動は始まった。

「僕の魔力因子の操作技術はクラーラよりも荒いんだ。だが、そんな僕の魔力の操作能力は、武人としては一線級を超えている自負が有る。その意味が、分かるか?」

 驚いた預言者は僕を放りだして彼女を振り払ったが、

「…………知るかよ! 時間の無駄だって」

「アンタは

「な、どこから」

クラーラに負けたんだ」



 座標の遡行。

 言ってしまえば『過去に遡って行ったことのある場所を未来に指定して今、到着する』魔術。クラーラがタニス王国に出向いてまで仕入れた必殺技。

 その発動には力と闇の魔力因子を時空間操作に使用できる状態にして大量に精製する必要があるから、使えなかった最終奥義。

 現在僕が溜め込んでいる空間魔術の残存魔力因子の量と、消耗する魔力の量が分析できなかったために本当はこんな形で使うつもりではなかったのに、使わざるを得なかった。この切り札。さぁ、どうなる。


 ◆

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