でも、こいつ
まずは、気安いが形式張った態度だった。
「新プロギュス公国軍を代表して宣言しよう。貴様らが旧プロギュス帝国開放戦線を匿う限り、我々は敵対せざるを得ない。今の一撃は警告である。警告なんだということもことさら強調させて宣言させていただきましょう。もう一度宣言します。コンクエスターの皆さまがこの世界にいることも、旧帝国解放戦線と手を組むことのいずれも抹殺に値する行為であると、宣言させていただきましょう」
ただ突っ立って、腰で剣を持つような剣先を固定する構えでゼフテロは形式張った言い方で、事務作業を進めるような日常的でつまらないけどありふれたことを済ませるような気安い態度で、説明を進める。それが終わると剣を中腰に固定する構えのまま崩した態度でアレクシウスに歩みよる。
次に、感情的で粗雑な態度に変わった。
「エッカルブレヒト含む旧帝国解放戦線の首脳陣十数名も匿っている時点で、俺たちからしてみたらお前らは敵対的行為をしていると見なしているんだ。皆殺しにされても文句を言える立場じゃないことは分かってもらいたいなぁ。そのうえで、これから一切の発言してくれよ? 無駄な殺しはしたくないんだ。頼む、いいか? 言い訳の聞く言葉だけで喋ってくれ。お願いだから、問答無用で殺さなければならないような言葉は言うな。じゃなきゃ、俺はお前ら全員殺さなければならない」
魔力を散布して防御態勢を準備していると、異世界からきたコンクエスターのアレクシウスに迫る幼馴染によもやと
「ゼフテロ……! お前」
「邪魔させるなッ!」
トリタがやる気のない構えで短剣を突きつけられた。まるで本気は感じないのにその気になれば僕の喉を裂けるだけの意志を感じる、ブレないのに軽い手付きの剣先だ。最初から背後にいたがまるで敵意を感じられなかった。よく考えてみたら、彼女がエイリアンをコンクエスターの元へ送り返そうとしている僕たちに敵意が無いわけがないのに、迂闊にも僕は無視してしまっていたんだ。
「そうだな、お前らはシャノンさんを送り返したいだけなんだよな。……だがな、やつらのマシンの中にエッカルブレヒトがいる以上、その受け渡しを後回しにして話し合いをしようというなら、お前らとも敵対も辞さない」
「勝てるとでも? お前が私に」
「無理ですよ。だけど場合によっては、そういう無駄死にをしなければならなくなるから、やめてくれよ? クラーラさん」
「アレクシウス、正式な判断は後回しでいいから、今だけは彼の言うことを聞いて……」
「いや、そう言われても……」
シャノンの頬にまで冷や汗が伝っているのが目に入る。
この場面で半ば自爆のような手段でトリタから距離をとってアレクシウスを保護する手段もなくは無いが、そういうことをしてコンクエスターが味方になってくれる可能性があるかは分からない。なら、ここはトリタがなにかしない限り一度、静観するしかあるまい。
「――――――――――――!!」「――――――――――――!?」「――――――――――――ッッ!!!」アレクシウスの耳元のマシンからざらついた人の声が何度もこだまする。途中から数人分の叫びが重なってザラザラとうるさくなって、断末魔が混ざる。
爆発音? 断末魔? 悲鳴? なにを話している?
「は? 核発射施設ってなんの話をっ!?」
「アレクシウス! 早く判断して!」
「あー…………、エッカルブレヒトは退避を始めたようだが……」
「あぁ、見えてる。あいつがいないなら、お前らと俺が戦う理由はない」
一歩引いて、ゼフテロは剣を鞘に納める。でも、こいつ魔術の方が強いから隙が減ったわけじゃないんだよな。
「あんまり、変なこと考えるなよ? お前、その二人のどっちにも勝てないぞ」
「なに? 俺に言っているのか?」
「あぁ、そうだよ。異世界人の男」
「ごめん、ゼフテロ。クラーラはともかく、既に僕は彼に一敗を喫しているからそれはないよ」
足になにかしらの魔術を発動する準備をしてトリタに目を向けると、トリタは闇の魔術で作られた空間の隙間にナイフをモヤとともに消し去り、僕らすこし離れて彼女も同じような魔術の準備をする。
「あん? そんなもん、不意打ちかなんかしたんだろ? 悪意ある発言だろ、お前それ。こうやって、慣れててもまるで感じ取れないような濃度の高い闇の魔力因子を周辺にばらまいているお前が言うことじゃないし、ここから負けるなんてのはありえないことだろう?」
「いや、その、……昔ほど、強くない。今の僕は」
「さっき、モウマドの調印式であった時はそうだったかもな」
「え?」
それがどういう意味が聞こうかと思ったが時間はないらしい。
「追うぞ、トリタ」
「はい、ついてゆきます」
僕の憧れた兄貴分は見失ってしまう速さで走りだした。いや、跳んでいった。




