まるで別人
遠くから衝撃音が聞こえる。
「急ぐぞ。シグフレド様が来ているかもしれない」
「わかりました」
「わかった」
戦闘が始まったらしい。宵闇が夕空を徐々に暗がりに変えていく空の下で、僕らはいきなり現れて落ちてくるそれに目を奪われた。
「いきなり、え!? どこから」
「航空戦艦!? だが、遅い。このままの速度じゃ落ちるぞ!」
「落ちる? ……後ろの熱をもった噴出構造、あぁ、遅いのか」
なんでクラーラは冷静なのか、
「落ちるってどうすんだよ!?」
「追うぞ!」
「えぇ」
「はぁ!? マジで」
「無論、マジだよ。正面側が雑に融けてる。既に交戦したようだ。私達が抑えないとあの中からエイリアンが周囲の集落へ向かって略奪を行う可能性もある。シグフレド様の介入を探るためにもエイリアンを抑えるべきだ。それに……」
「それに、なんだ?」
「シャノンを向こうの世界に送り返すなら、世界間転移能力をもっている奴らの設備に頼る必要がある。お前にとっても良いことだろう?」
「それは……」
「シャノンも、それでいいな?」
「えぇ、そう。あるべきね」
街道を外れて僕ら3人は少し森深い山あいに向かうことにした。
そのまま走っていると、少し遠くに外道に対して横切るような角度で、僕たちと走っている交差する進路をすすむ二人組の影を察した。気に留めることでもないのだから、何も言わないでいると。その二人がこっちに向いて速度を上げた。
「くるよ、止まれ! 相当な速さで二人組がっ! 下がってくれ!」
腰の二振りのショーテルを構えて二人に停止を促して前に出ると、すぐ前の森の木々越しに二人組が止まった。
「止めれお前ら! お前は!? なんで、ジークフリート・ラコライトリーゼ! なぜ貴様がこんなところにいる!」
その一本曲がることのできない芯の通った女の子の怒鳴り声には覚えがあった。
「トリタ!? いまそれどころじゃない! あの落ちていっているマシンを追いたいんだ! 見逃してくれ!」
「どうする?」
魔術で大剣を何もない場所から抜き出し、構えたトリタと向き合い、どうやって逃げるか、そもそも逃げるべきか、向こうは僕らの事情を知っているかを一息の間に考えて、追いついた彼に二人で目を向ける。
「フリッツ! なんでこんなところにいるんだ!? なぜ旧帝都の方へ戻ってないんだよ!」
「なんでって……!」
知らない? どこまでだ。少なくとも保護区画が壊滅したことは知らなそうだ。そうじゃなきゃ『なぜ戻っていないのか?』などという形式の質問は出てこないはずだからだ。ならば、
「エイリアンを送り帰すために必要なんだよ。急いできたからこのメンバーなんだ、事後承諾で事情の説明は後で済ませることになるが……困ったな」
本当に困ったように首をかしげてアピールするが、……どうだ。
「あ? そういえば、ユーリがいないのは……あー、そうか、そういうことか、そんな緊急。……わかった、俺たちも同行する」
「え!?」
トリタが僕よりも先に驚嘆の声を上げて、視線だけじゃなくて上体もゼフテロに向き直す。
「俺たちのターゲットが移動しているなら、あのマシンは無視しない。いくぞトリタ」
「そ、そう。いや、わかった。ゼフテロがそう判断するなら……そうか」
「なんか気になるか?」
「足、引っ張りません?」
「俺より強いぞ、こいつら」
「本当ですか?」
「まぁ……」
自分より強いと言うゼフテロに一度殺されかけてるのでバツの悪そうなクラーラ、
「うーん?」
得意分野によってはそんな気がしないでもないけどそうは思えない僕、
「そうね。わかるの?」
なぜか、納得しているシャノン……いや、彼女の魔法の水晶の性能ならそうなんだろうけど。
「一対一なら確実だ、ルール無用の不意打ちでもなんでもありの暗殺じゃないと俺じゃ、どうあがいたって勝てないさ」
クラーラも僕と同じことを考えているような簡単の声を漏らすし、渋い表情をみせるが、その発言に関しては僕は嘘だとしか思わないから、僕もそういう顔色をしていたのだろう。
◆
前半分がドロドロになって落下したそれに真っ先に接触したその組織は、通じる手段を持っていた。その是非はともかくして、言葉が通じて、話し合いができたのだった。それは、この世界に基盤を持たないそれらが彼らの敵対者と戦うには十分な理由となった。
「あッぶんっ!」
魔力に近い力の根幹を帯びていたから飛んできたことに気づけた。それに闇の魔術が隙間を塗りつぶつように付与されておる氷の格子とつららで、前方を横一辺に仕切るように爆散するような速さで壁を編む。
「なにか、っ危ねぇ! 飛んでっきやがった! 魔術で凍らせてるが、これ、酸だって!」
「酸?」
「魔力でできた酸だ。おっと、取り巻きは任せる! 僕は、酸の射線だけは切っとく」
「は? 取り巻きって……そうか、こいつらか、4人もこられると面倒だな」
周囲に気配が消えているのになぜか魔力に似たなにかしらの力が漏れ出してバレバレの人間が四人、側面と背後に回り込むように飛び回る。
「4人じゃないぞ」
「?」
トリタが眉をひそめるから口に出して説明しながら、闇の魔術で包み込める間合いを測りながらあと何度か発射された酸を氷と闇の魔力因子で編み込まれた魔力の柵で受け止める。
「酸の魔法を飛ばしてきているやつの周囲に十数人の戦闘員が構えている。それに……、いや、交戦は避けられないか? シャノン、ためせるか……」
「……わかった。聞くだけは、聞いてみる」
「いいの? ゼフテロ」
「俺たちの今の目標は異世界人じゃない。優先順位があるだろう」
そのなかの一人の男へシャノンは向かい声をかける。
「こちら、能力監視機構エピタフの能力者P5‐2‐1シャノン・リヴリエールだ。現地人との協力により、航空戦艦までの接触を試みた。どうか応対を望む」
「――――――――――、――――――――――――――――――!!」
「そんな取り付く島もない態度を取って良いの? 私が本当にP5じゃないとなぜ断言するのかしら、その判断の根拠を示さないとまずいわよ?」
「――――――――――――――――――――――――」
「それはだめでしょ?」
周辺に立っていた4人、まとめて地面へ向けて叩きつけられるように転んで、いや、本当になにか見えない力で地面に叩きつけられて全身を骨折しながら地面に突っ伏したのだ!
「だめだよ。それを認めたら、反逆行為になってしまう」
「え? 何をしたんだ? シャノンの言葉は召喚されたときに……ウーナレクディアが施した魔術のおかげでわかるけど、アイツらが何を言ったのかわからないんだ。なんの会話でそうなったんだ?」
苦笑いをすると、酸の発射が止まる。魔術で血液の流れる肉体の位置を確認するが動く影はない。
「彼らが越権行為をして私達の接触を止めようとしらから……」
「……なんとか話し合いには」
「それよりも、他に接触したこちらの世界の何者かはいたかを確認したい」
転がる兵士がなにか機械を操作してなにか喋るが、そこへシャノンは声をかける。
「連絡を繋いで」
「――――――、――――――――――――――――――――」
「面倒だな。シャノンさんだけ置いて、俺たちは周囲を探索するだけですませる手もあるが、それも帝国解放戦線との接触がないことを確認して、接触があったら引き離してからじゃないといろいろまずい」
「そうなの? ……エイデルハルトのことで僕も恨まれてそうな御使いカルトだっけ?」
「そうだ」
「私はっ! シャノン・リヴリエールっだぁ!!! 現地の者を頼りにここまできた!! 対応頼むぅう!!!」
身体能力任せの声量で衝撃波のような叫び声を送ったシャノンに、森の向こうに見える鉄の塊のそばに集まっっている数十名が慌ただしく移動を繰り返して、数名がこっちへ低空飛行して近寄ってきた。
「シャノン!? 良かった……! 生きていてくれてたのか」
その人物の声は我々に翻訳される、そうだ、たしか前に僕を殺そうとした
「アレクシウス……、お前は!」
「誰だよっ!? いや、そんなことより、シャノンを連れてきれくれたのか……、立場もそうだが個人的にも感謝する。ありがとう」
「……そうね。あなたは」
シャノンを抱きしめて笑顔になる彼は、前に保護区画に紛れ込んで僕を殺そうとした上でユーリに返りうちにあって、追いかける連邦の偽名の聖騎士から逃げ切ったバケモンなんだよな? 表情がまるで別人だ。
「再会感動しているところ申し訳得ないが、こっちの世界の人間と接触していないか確認させてもらいたいのだが」
「……解放軍だっけ? その人達となにか」
「引き渡せ」
「え?」
「……そいつらを引き渡してくれ、しなければ、お前たちはこの世界の政治に介入したとして殺さなければならない。頼む……!」
ゼフテロのやや悲痛な要求に彼は腹を立てたようだ。ユーリから離れた彼はゼフテロに向かって薄ら笑いを浮かべ歩み寄る。
「殺す? お前が? 俺を? できるのか?」
「頼む、考える振りでもいいから、そいつらを引き渡してそのまま自分たちの世界に帰ってくれ、じゃなきゃ……!」
「……俺たちはこの世界にきていきなり攻撃されて、戦艦を落とされたんだぞ? そんな態度で『はいどうぞ』なんて対応するわけが」「すまない」「え?」
大きな爆発音、森の向こうに有るはずの鉄の塊が、いや、鉄の塊に向かって落ちてきたそれが、白い柱に加熱されて空気が爆発的に膨張して残った金属片が融けたのだ。この魔術は!? いや、規模が大きすぎて一瞬見えなかったが、そこに含まれる魔力因子の配置は僕も知っている魔術の……、帝国式暗闘術の奥義の一つだ!
「これだけで、14人か」
「は?」
「お前もだ」
ゼフテロがいつ抜いたのかわからない刀の腹をアレクシウスの首に添える。
「投降してくれ、じゃなきゃ、……次は全員だ」
ドクドクと焦げ臭い血があふれる。ゼフテロの刀は貴様らの耐久をたやすく抜けると、暗に示しているというのだろうが、流れ出る血が多い。殺す気も確かだ。
「今のは、全員じゃないと?」
「俺たちのターゲットの周辺にいなければ、熱と圧力で怪我はしても生きているようだ」
黙り合う。彼の身体の半分が首から漏れ続ける血でベトベトになってもお互いにまだ数十秒も動けずにいた。
その数十秒にもわたる静寂の内に一度だけ横目で覗いたシャノンの口元が笑っているように見えたのは、見間違いじゃなかったはずだ。




