今は
慣性を残してドロドロに融けて推進の速さに対してゆっくりと落ちてくるその塊から、何個かの塊が発射されるように湧き出る。人だ。融けた船体を突き破って地面に降りてきたのだ。
前半分だけ粉砕して落下してきた船の後ろ半分からも数名。
十五人、いや、もう少しいるか。20人?
「フェリア、いくぞ!」
「全員、気を抜くな。私達が全力を出す。巻き込まれないように踏ん張れ!」
私の本気で跳躍するだけで、その一体が消滅する。懐かしい、二年半も前になる。レイに王位を取り戻させるために貴族のためのほぼ全ての騎士団を皆殺しにしたのと同じやり方だ。
動いた余波で生じる衝撃波を耐えた者に、私は色気も技術も飾りげも誇りも無い手刀を振る。
何人か殺し損ねたところで、私は叫ぶ!
「空間の亀裂がまたきた! さっきより多い! 残りの掃除はフェリアに任せた!」
「任された!」
そう言って私の前に出た彼女をすり抜けて私へ近づいた魔法使いが、かつて私達が戦った時から残留し続けた剣の軌跡に発生した力に切り刻まれれ、魔剣から木の葉のように生産され続ける私の亀裂へ向けた投げナイフの妨害を阻止する。
◆ ◆
運河を中心にエイデルハルトの軍勢の出陣を確認し、我々は異世界人の対応より先に公国の首都と、旧帝国の首都を背に護るための決戦を挑まねばならなくなった。
本来はもっと早いタイミングで交戦に入りたかったが、結局このタイミングまで帝国解放戦線との決着を付けられなかったのは、俺の落ち度だ。しかも、我々の本陣には新プロギュス王国の王位の正当性を主張するマノンがいるため、敗北条件がいくつも重なってしまう。
マノンの死、敵主力部隊の首都侵入、ライン川運河越しの防衛ラインの崩壊、この3つが敗北条件で我々の勝利条件は、帝国解放軍を瓦解させる一手だ。
条件は厳しい。北側山沿いの部隊は民兵と義勇兵を織り交ぜた玉石混交部隊はマノンが所属する本陣の精鋭が地形を活かして一度に対応する戦力の数を調節して少しずつ後退しながら、被害を抑えている。
南側の傭兵を中心にした義勇兵部隊が敵陣へ少しずつ戦線を押し上げる形になるが、敵からしてみたらここで決着をつける必然性はないのだから、押し勝ったところで逃げられるに決まっている。
我々にとって1番辛いタイミングで攻撃してきたんだろう。それとも、向こうにも事情が?
「マノン、俺たちは行ってくるよ」
トリタを隣に並べさせて、セシリア先生にも言っているような気持ちも混ざっているのに、、なんでマノンだけに呼びかけるような
「いってらっしゃい」
「あぁ……」
「あ、えっと待って!」
一応、今のリーダーのマノンに引き止められて立ち止まらないわけにもならないのだから、
「お前、生きて帰ってくるつもりなんだよな?」
「それはまぁ、死地に赴くつもりならトリタは連れてかないし」
「……、そうだな」
「それに、俺が作戦成功させるより先にうまくやる奴が出るだろうし、お前も死ぬなよ。と、そういう義務的な言葉を言わないといけないんでな、マナリエラ陛下」
セシリア先生の目を見てマノンに警戒をうながすようなこと言ってみると少し悲しそうに、目をふせられてしまう。
「約束は護るよ」
「破ってもいいのよ?」
「俺が勝手にしている約束だ。誰に強制されたつもりはないし、お前とした約束でもない」
俺はトリタと共に本陣から出て山沿いの防衛ラインを大きく迂回する森林地帯へ向かった。
◆
さびれて人通りの少ない街道を錬気で鍛えたその両足で駆け、風を超える速さで走りながら、クラーラのこれからのプランを聞いて疑問を投げかけざるを得なかった。
「本当に予定通り交戦予測されているシュレ―ジュムに向かうべきなのか? それよりも腐乱群島にまっすぐ向かうべきじゃ……」
「腐乱群島に行くにはどっちみち数日かかるわ。シャノンを向こうの世界に送り返す手段はともかく、向こうの世界を滅ぼす気なら腐乱群島か、コンクエスターの侵入を予測される地点の両方でシグフレド様の行動がないか確認する必要があるわ。なら、半日で到着する交戦予想地点でシグフレドさまの動向を確認してから腐乱群島に向かうのでも、時間的な消費に対する損失は少ないわ」
「……うまく行けば、そのままシャノンを託してもいいか?」
「できればそうするべきね。私はその後、シグフレド様を止めに行くけど、貴方はどうするの?」
「同じだ。向こうの世界もこっちの世界も関係ない。関係のない被害者を出してまで滅ぼさせてたまるか」
シャノンがやや速度を上げ前に出て首を横に振って見せて否定する。
「ううん、私も最後まで戦うわ。その結果、死んでしまったとしても、ユーリを止めるのも、私達の世界を護るのも私達の……あっちの世界から着た誰かが自分たちでやらないと行けないことでもあると思うから……」
「気持ちは同じか……」
大げさに声を入れたため息のような意思表示をはいて、クラーラは「呆れた」と
「あなた達は自分たちの世界の責任を個人で果たそうとでもしているっていうの?」
「……納得できないだけだよ。無関係な人を巻き込むのが」
「それはねぇ!」
立ち止まって向き合うクラーラに僕たちも足を止める。怒りだ。その怒りの理由が、僕には分からない。なんでなんだその目は、
「そういうのは、傲慢って言うのよ? あなた達が背負うべきではない責任を背負うのは」
「…………」
「そうかもしれないけど……、本当は私にも義務があった。私にはその力があるから、あったんだ。昔から、だけど、私は今までその責任から逃げ続けていたから、どうすることもできなくなって、薬で意識を奪われて贄として消費されるところだった。私だけなら、それでも良かったと思う…………だけど、この世界に召喚されて、初めて幸せを感じて……昔、滅んでしまえって思った向こうの世界も、私がやるべきことをしなきゃいけないって、今は思える」
「っ、だったら逃げ続けてもいいんじゃないかしら? 一人二人が頑張らないだけで、どうにもならない世界なら、そのまま滅んでしまったほうが健全よ。私達がここで諦めても大局は変わらないわ。だけど、私は『そうしたいからそうしている』だけで、『そうしなければならないからそうしている』わけじゃないのよ? アナタ達は! 本当に戦いたいのか? シグフレド様と、ユーリ・サトーと殺し合ってでもッ!!」
その怒りに満ちた声に、同情的で悲しい目で顔が染まるから、やっと怒りの意味を知った。
「それで殺されたなら、私に不満はないわ」
「ジークフリードは!?」
「わからない。だけど、…………そうだな、僕が殺されるのと無関係な人が無差別に殺されるのは、どっちを防ぐべきかなんて難しい話じゃない」
「へぇ、お前は顔も知らない誰のために殺されてでも止めたいって言えるのか? 無駄死になってでも、覚悟もできずに? すげぇな、まるで救世主だ」
「あぁ、言える」
彼女は僕の顔をみてうろたえている。なぜ、そんな事を思うのか理解できないって香っだ。
「わかった。二人共、本気で止める気があるなら、到着前にシグフレド様の魔術と、私たちのできることの情報共有を行いべきよ」
「あと、あまり詳しいことはわかっていないけど、ユーリの魔法の分析も……」
「えぇ、そうね」




