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3-1 熱量

 ユーリの手を握り、手の魔力の感覚的な部分を四肢のように能動的かつ本能的に動かす。

「こうやって手を合わせるだろ? こうすると」

「なにこれ!」

 彼女は僕の手を払って胸元に抱え込む。

「なんか、すごい引っ張られるっていうか、ゾワゾワきたんだけど!」

 隣で飲料を呑んでいたゼフテロと目を合わせ、「まさか」という感想を表情だけで共有する。

「それは、奥底に眠ってる魔力を感じたからで、あぁ、その感覚に慣れて自力で引き出せるようになれば基本的な魔力の生成はできるようになったってことになる」

「そ、そうなの、先に説明してよ」

「いや、まさかと思ってね」

「『まさか』って?」

 飲みかけのコップを机に置くゼフテロは困惑したように唸り、

「そりゃあ、な、一発で感じるってことは無いから、え、本当に初めて? いや、初めてだよな。感覚に驚いてるわけだし、あぁ、冗談だったつもりだったが本当に天才だったってわけか」

 言い終えるとカラカラと笑い出す。

「どこで見つけたんだ? こんな逸材」

「…………」

「あー、っとその」

 黙るべきか、そう思案していたらユーリがなにか適当なことを言おうとするそぶりが見えるので、適当で曖昧な回答をかぶせ気味に述べる。

「人売りかなんかに誘拐されてたっぽい。断定はできないけど」

「……あぁ、辛いことを聞いたなすまない」

「いえ、大丈夫ですから、いいんです。頭を上げてください」

 謝罪したあとに、険しい顔になりゼフテロは疑問を口に出さざるをえない。

「お前、そういうの嫌いだもんな。……なにかにまた首を突っ込んだのか?」

「わからないけど、近くの工業街から兵士が派遣されて調べてる。本格的な調査が始まる前に村を出た形になるから詳しいことはわからないけど、帝国での用事を済ませたらこの街に帰る途中で彼女のために足跡を濁そうと思う」

「あ? また狙われるとかか」

「条件次第だろう。何もわからないし、人さらいの目的が儀式魔術に使う贄の可能性が高い。だから、兵士になにか仕掛けられる前に逃げてきた」

「兵士に裏切り者がいるって?」

「不都合な疑義が起きてからでは対処できないだろうね。それに……」

 「不都合な疑義って?」投げかけられたゼフテロの疑問をさておき反応に困るようなセンシティブな話題に話を逸らす。

「村に居たくなくなった……色々あって僕も旅に出たくなった」

「…………そうか、親父さんも、これで反省してくれるといいんだがな」

「……そう」

 何も言うまい。


 ◆ ◆


「じゃあ、続きだが、いまの感覚を反復的にやって自分で引き出せるようになれば今日の目標達成でいいだろう」

 そうやって手に取り何度か同じ作業を繰り返す。その間レストランに居座るものだから、適当な王国風魚料理を頼む。

「やっぱあれだな、王国って基本は味が薄いんだね」

「料理のことか? つっても、帝国の料理って最後に入れる調味料と材料が全部だからなぁ」

「そう? そこまで薄いとは思わないけど」

「薄い味全般が好みじゃないだけで、美味しいとは思うんだけどね。ここの店、普通に美味しいし」

 二、三時間訓練して、ノルマも達成したので店を出て物見遊山する前に適当な料理を頼んで文句を言いつつ食べていると、見知らぬ少女がカウンター席から僕らの隣、ゼフテロの対面に位置する席に座り「終わった?」とだけ質問。

「えっと?」

 意図を測れずにいるとゼフテロが親しげに答える。

「あぁ、街を見て回るって」

 ゼフテロの知り合いか、

「はじめまして、トリタ・フォルトゥーナと申します」

 眠いのかと思うほど無表情な……体つき的に十代前半序盤くらいのか? 傭兵のたまり場に居ることは不自然だが、親御さんが傭兵づとめの子供と考えると不自然でないくらいの年齢。

「はい、どうも、ジークフリート・ラコライトリーゼ、長いので基本的にフリッツって呼ばれてます」

「はじめまして、ユウリ・サトウです」

 目が動き、言葉を探しているようだが、彼女がなにかいうより先に僕が言ってしまう。

「その……」

「ゼフテロの親族かなにかなの?」

「え」

「だってファミリーネーム同じだし」

「いや、別に血縁とかじゃない」

 説明はそれ以上なにもなく、ゼフテロは何も言おうとしない。

「家族……みたいなもの」

 トリタがそう言ったから、なにも聞くべきでないのかもな。

「え……結婚!?」

「違うだろうが」

 ユウリの間の抜けた回答に思わず正してしまう。

「え、血縁じゃないって、なら」

「そうなれば、ね」

「そういうのじゃないから、俺が預かっている」

 顔を赤らめて年相応にませた反応でくねくねと身を捩る。トリタに無難な返事を返すゼフテロ。なにか訳ありなのは察したが、まぁ、気にするべきでないな。

 そう思ったが、ユーリは空気を読まずにトリタを煽る。

「えぇ、ってことはゆくゆくは、ゆくゆくままにってこと!? そうなの、ねぇ!」

「……えーっと……、……あぁ、そうだな!」

 ゼフテロが何を答えるか本気で困惑して結果ひねり出したのが肯定だった。一瞬で汗拭きだしてる……。

 そんな様子と反比例するようにユーリはキャーキャーと興奮して、赤くなる頬を抑えて身悶えするトリタに「どんなところが好きなのか」ただそれ一つで質問攻めを開始する。

「粗暴なの雰囲気なのに事あるごとに気配り始める繊細で力強いとことか」「ギャップって大事よね。どんなときとか?」「えーっと、なんか話してて……いや多すぎるわ」「いやーべた惚れね」「……うん!」「どんな……――――」

 会話内容自体にあんまり意味はなさそうだ。

「なぁ、トリトラじゃないんだな」

 二人に聞こえないようにボソリと吐いた意地の悪い質問に、友は息を呑む。

「いや、理解した。彼女の名前、君と同じような由来なんだねって」

「ん、あぁ」

「運命の相手かもね」そういうかしましいノリに火種を吹いて談笑に混ざる。


 他人の色恋沙汰への興味など、男も女もない、若ければ姦しく興味をそそられるものだ。――――この頃からユーリも自然体というかなんというか、緊張が溶けてよく笑ってくれるようになった気がする。後から思い返してみるとね。

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