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嫌がらせに難問を作って

 「シャノン、なにか変だったか?」

「え」

「……なんで謝られたのかなって、いや、ユーリにだけ謝ったのかな? いや、あまりそういう話をすることをしないように言っていた僕が悪いんだから」

「あぁ、うん、ごめん、気にしすぎたかも」

 書物を終わらせて後はこれをシシィか本人と相談して、進度に合わせた結論を決めるとして、机の端っこに固定されたペン立てにペンを戻して、インクが乾かないように瓶の蓋を閉めると、話を戻したくなった。

「シャノンもいるが別に二人きりじゃないと言えないってわけじゃないし、まぁ、いいか、ユーリこれだけは分かって欲しい」

「なに?」

 乾きそうになる唇を舌先でまだ乾いてないことを確認して言い切る。

「好きだよ。ユーリ……心から、愛してる」

 一拍、窓の向こうの森の木々が風に吹かれて揺られる音が騒がしいほどの静かさが流れると、シャノンが慌てて、いや、驚く。

「え、エッ! 二人ってそういう関係だったの!?」

 首を横に振ったユーリから本当に悲しそうな息づいかいとため息が溢れる。

「それはダメだよ。フリッツ、私と貴方は同じ世界にいられないことは、貴方が一番しっているでしょう?」

「……あぁ、そうだな。どうしても、伝わってほしかったから」

「辛くなるだけなのに?」

「矛盾している自覚はある。そんなに情熱があるなら送り返そうとなんてするべきじゃないって、でも、そうするのが不幸が少なくて済むって信じているから、淡水の魚と海水の魚は共に生きるのは、……自然じゃないんだってのは、もう分かっている」

「そう、送り返すことが不幸をなくすための行動で、その不幸を避けるために自分の幸福は諦めるっていうの? それこそ不自然なことじゃないの?」

「…………あぁ、だろうけど、言いたくなったんだ」

「なんで……っ!?」

「僕はこれから戦わないといけないんだ。そんな覚悟だけはしている。それだけとても、強い相手と、全てを賭して戦う予定が……あぁ、あるんだ」

「ごめんなさい……貴方の、そういう見通しの甘いところは嫌いで仕方がなかった」

「……見通しを立てたこと、ないもんな、なにが見通し甘いって言われてるかも、分かんないや」

「ごめんなさい、思い出の人……貴方を忘れない」

「ありがとう……そうだな、『ありがとう、愛しの人……君の思い出の片隅にいさせてくれるならそれだけで幸せだ』と返そうか」

 あぁ、そうだ。これから、預言者の目論見を邪魔して、コンクエスタ―に対処して、みんなを帰るべき場所に返せば、きっとその不幸を無くした先にみんなの幸せがあるって信じて

「二人共、おかしいよ!」

 シャノンの悲鳴に、答えを窮する。たしかに、変な会話になっている自覚があったからだ。

「えっと、シャノン、なにか、いや、えーっと」

「ジークフリートは感情の話をしているのに、ユーリは自分の感情を答えずに一般論しか話してないし、その話に納得してたら、詩の交換みたいな意味不明な今の受け答えでわかったような態度をして割り切ったふりをして……! 二人共、お互いのこと好きなのじゃないっ! なにのに、なんで!? ジークフリートは諦める? ユーリは本音を言わないんだよ!?」

 そんなことを言われたら、答えられる言葉はこればかりだ。

「ごめん……、僕は、反論の仕方が判らないんだ。ただ殺そうとするのは違うと分かるけど、元の場所に戻そうとしたいって理屈にどうしても……難得してしまうんだ。僕が」

「なんでっ! したいことをして人を集めたんじゃないの!」

「シャノン、もういい」

「ユーリだって!」

「僕のしたいことは、納得できない理不尽をぶん殴りたかっただけで」

「私には……。私も……ごめん、外の空気を吸ってくる。きっと私も戻ったら戦うつもりなの。その話は貴女も聞いたでしょ? だから、きっといつか、シャノンとも戦うかもしれない覚悟は決めているの、だから、お願い私達に」

「戦う!? なんだって、私はユーリと同じものを望んでいるのに」

「お前はフェイズ5克服者だろうがっ!!」

 その怒りに満ちた、ユーリの声にシャノンは

「…………っ!」何も言えなくなる。

「ごめんなさい」

 そういって、乱暴に玄関を飛び出して開けっ放しでどこかへ小走りに向かうユーリの背中に僕は何かいいたかったのに、なにも言えなかった。


 ◆ 


「ひさしぶり、トリタちゃん」

「おや、お久しぶりです! ジークフリードさんお一人なんですね?」

 この笑顔の裏に僕に対して強い不信感があるのを知ったが、僕はそれに納得してしまう。

「あぁ、村はそんなに広くないし、出入りの見張りや自主的な監視してる騎士様達がいるから、かえって付きっきりにしない方が良いかなって」

「あぁ、監察官殿たちのことかな? いや、監査官だったかな、いや、肩書は兼ねるんだったか、まぁ、そういった役職の方が二チームも混ざってましたからね」

 川を眺めているけど、後ろの奥の方の倉庫がきになるのかな? たしか、僕の身辺調査をしているらしいし、……なにか聞いて、そのお礼にでもさらすべきか。重要なものはないけど、恥ずかしいものばかりなのだから、

「なぁ、ゼフテロが国王陛下と繋がってたのって……どういう……あぁ、なんて言えば、いいのかハッキリとわからないのだが、……そうだな。君と出会った頃からでいいから、ゼフテロがなにをして、何をしようとしているのか聞かせてもらえないか?」

「同郷なのに本人に聞かないの? 案外距離感のある関係なのね」

「どうだろ、むしろ同郷だからじゃないかな。昔直ぐ側にいた兄弟に、仕事の話とかあんまりしたくならないみたいな……どう、だろう? どう言ったら良いかな。怖いんだ」

「怖い? なにが」

「兄だと錯覚してしまうほど良くしてくれた5つも年の離れた親友が知らない場所にいるのが」

 ため息をはかれた。「なんなの? 貴方は」苛立ち気味に言って両手を広げて呆れたとリアクションをとられる。

「あの時、人を殺したと心を傷めずに貴方が言い放った後に聞いたけど。貴方、子供の頃から気に食わない悪党を殺して回っていたって聞いていたけど。それを不気味だと思われていたって考えないのかしら?」

「今は、反省してる」

「それと同じ感情よ? 今、貴方が感じている恐怖によく似た言い表せない違和感はきっと」

「そう、だね。否定はできないね」

 魚が跳ねたようなまぶしげな水滴の飛ぶ水音が、ポチャン。と、川の風音を思い出させる。

「……最初、二年前の政変が起こる前に出会ったから、ゼフテロが『袖切りフォルトゥーナ』と呼ばれて王国から指名手配されていた頃まで戻るわね」

 指名手配?

「私の兄さんも居た自警団で活動していたから、兄さんの同僚としか認識していなかったけど、色々あって私達は二人になったんだけど」

「いろいろって……」

「いろいろよ。これからなにをするつもりなのかには必要のない話ばかり。で、政変があってからは、預言者の娘の教導会の分派と一緒に国王陛下とたった一人で近衛騎士をしていた女に同郷のよしみとかで取り入って……植民地の自治権獲得に向けて話し合っている」

 ずいぶん、端折ったが。いろいろしていたんだな。

「最初の方こそ、怪文書のバラマキとか大したことのない手段で王国に嫌がらせしていたけど、その殆どの時間は交渉と話し合いと連絡の代行とか、対話のために必要なやりとりばかりで、荒事があっても人を殺さないことに徹底していたわあの人は……手加減できるほど強いから、傭兵で日銭を稼いでは人を殺さない圧倒的な暴力で、あの人は頑張っているわ」

「そうか、やっぱり、ゼフテロは魔法の天才だったかっらな」

「そうなの?」

「あぁ、子供の頃から、そういうセンスがあった僕が嫌がらせのために考えた、やたらめったら複雑化して機能だけで使うことを考えてないような複雑な魔術を一発で理解して使いこなして、子供だった僕を苛立たせていたよ」

「……どういうこと?」

 風の寒さが恋しくなる暖かな風を感じる時期になってきた。

「嫌がらせに難問を作っては楽しそうに感謝して解いてしまうような奴だった。僕も、意地になってばかりだった」

「今もじゃないの?」

「あぁ、そうだったね」

 だから、本人に過去のことを聞けないんだったね。

 指さした。浅く地下につながる掘っ立て小屋を言って自嘲する。

「そこ、僕が作ってた作品というか魔術道具や、あんま上手く行かなかった道具を入れてる倉庫で、そのうち分解してなにかに使おうと思っているうちに、不便な材料だけ集まってって」

 ボロくなった扉を引いて、ギシギシと音を立てて開くとホコリを被っているどころか、僕が放置する前より配置が整然とされて綺麗になっている硬い土面と石造りの壁の少しだけ広い空間が姿を見せた。

「だれか、掃除しているのか……こんなガラクタ、シシィに頼んで処分すればいいものを」

「これは……魔道装置がこんなに」

「……未熟な頃の作品をこんなにキレイにしちゃって、どのおじいちゃんの差金かな、まるで美術館だ」

「なんだ、この大量の……炎の魔術道具?」

 いくつも改良を加えて作ったが結局目的を果たせなかったために随分とかさばって、小さな仕切りの棚に一つ一つ丁寧に収められたささやかな魔法装置を視て、困惑する。その民家に入れるには大きすぎるが、物置に置くにはやや背の低い棚が4つも並んでいるのだから困惑も自然な反応になるだろう。

「笑うだろ。ただのトーチだ」

「子供用?」

「なんでそう思ったんだ?」

「だってこれ、炎属性の魔力因子を作る補助をしてちょろっと発火するだけのトーチだから」

「そうだな。僕にはこの程度の魔術も使えないんだ」

 怪訝そうにトーチを観察して、聞き返す。

「なんだって?」

「あぁ、そのトーチの補助があっても僕の体から出る魔力から炎属性の因子を作れないし、他人から渡された炎の魔力を操作することもできない。そのトーチはその実験の結果かな」

「えっと……なにかの病気? よね、それは」

「さぁ、もとから虚弱体質はあったが、その程度の子供でもできるような魔術ができなくて、そうだ……意地になっていたんだ。ユーリと出会ったあの日も、炎の魔術が使えないことを気にして、そういう話しから逃げ出すために山菜を取りに行ってユーリと出会ったんだった」

「それは」

「この話は必要ないか。ごめん、気にすることじゃないね。ユーリを召喚した御使いカルトも愚帝の次男がやっていて、その次男も僕が殺したことになっている」

「なっている?」

「あぁ、実際は僕はあいつに敗北して、最後の最後にユーリの魔法で自滅させられて死んで、死に方がまずくてシャノンが召喚されるのを停められなかったんだ」

「…………そうか」

「あぁ、そうだったね。……これ、一応、優先度の高い機密なんだったかもしれない」


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