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何の話だ? 結局

 知った顔の少女と、一度話しただけの良く知らない女。いや、実際はまともな会話すらしていない、この地域において近年最大の勢力を持つ宗教組織の実質的後継者と目される女の口論だ。

 隠れろと言われたから隠れたが、到着したのが知っている女の子で姿を見せるか迷っていたら劇場のまま疑問を口にした彼女は、含みのある言い方で淡々と出来事を語った女に、激高してしまう。

「本気なのか!? アイツが解放軍との繫がりがないってなぜ断言するんです?」

「そうは言ってもね。エイデルハルトを殺したのは彼と隣のエイリアンだと聞いている。私も王国に頼まれて死体は確認させてもらったけど、確かに死体は第二皇子だったわ」

「エッカルブレヒトとの方との繋がりはどうなったんで!? あっちが主な勢力でしょう!」

「こっそり共同で監視は付けさせてもらったけど、今のところ接触は確認できてないかな? 現時点ではただの軍務大臣閣下の愛人って粗雑な牽制しか表には出ていないわ……出身の問題はいま向かっている場所で確認すれば良い。少なくとも繋がりはないとしているものよ」

「その情報の何に信用できる要素がありますか?」

「無いとは思うけど、信用する必要がないとも思うわ。貴方が懸念しているジークフリートの来歴による思想のことより、その行動で判断するべきよ。切り捨てるには、根拠がないというだけで許して貰えないかしら?」

「……ごまかしてませんか?」

「隠していることが無いと言えば……嘘になるわ。だけど、……漏れると困る情報ってあるでしょう? 彼の出身に関して、ということではないけどもね」

「やっぱり……、私も信頼できませんよ。エイリアンを送り返すなんて言葉を本気だとは」

「そう思っている人が多いことは知っている。だけどね、……最終的な行為には我々や王国だけじゃなくて、中東とアジアの有力者にも一枚噛んでもらう予定よ。準備だけなら数ヶ月も時間も必要ないし、彼にできることはもう無いもの。送還術の準備は終わっているようなものよ。彼が死んだところで変化するような計画ではないわ」

「だが、っ、難しいです……。信じません」

「信じられるか仕方がないからこその、その真偽を確認するのなら、今向かっているモウマドで全部済ませられるって落とし所のはずよ。それに、東の大帝国にも送り返せるなら送り返したい該当のエイリアンはいるの。もはや、話は彼の手を離れているようなものなにに、彼の来歴なんてつまらないことで止めるなら、それなりの証明をしなければだめなのよ。もし、モウマドに寄ってまでなにも出てこないのに文句を言うなら、仕事をサボったってっことじゃないかしら?」

「……納得しろと?」

 随分大きいため息。姿は見えないが、息の音だけで気だるげだ。

「いいえ、違うわ。これは、証拠があるならそこで出せって命令なのよ……じゃあ、明日。頑張るつもりなら、早めに寝ると良いわ。おやすみなさい」

「…………失礼しました」

 部屋から出ていった少女の気配を確認していると、遮音性の結界的な効果を持つ魔術が貼られ、部屋から出ていかなかったもう一方の彼女が声をだす。

「もういいわ。でてきなさい、ジークフリート」

 浅くしていた呼吸を戻し起き上がる。宿舎に重ねられた荷物の裏から寝そべっていた自分の体のホコリを払って疑問を口にする。

「なぜ、隠れさせられました?」

「……? なぜって、なにが?」

「何がって……なにを警戒して僕を隠れさせられたんですか?」

「あぁ、私は未来を知る手段があるって知っているでしょ?」

「流石に狂言でしょう?」

 首を横にふる。

「本当なのか……、魔法かなんかか?」

「なにはともあれ、その予知のおかげでトリタなどが貴方に抱いている不信感は理解出来だでしょう?」

「トリタのっていうか……市民目線の不信感?」

「そういう見方もできるかもしれないわね。少なくとも貴方を『高貴なお方を誑かしてエイリアンを集めて何やら企んでいる奇人』として認識する事情通は多いってことよ」

「それは、否定しきるつもりもないけど」

「まぁ、気にしないで、そういう輩は貴方を本気で恐れているから近づいても探るようなことを言って監視しても、本当に何もしていないから判断に困って何人も入れ替え人員と交代するだけだから」

「……王国から派遣された保護区画に騎士より文官が多いのはそういう理由なのか?」

「さぁ? それは預かり知らないことだけど」

 トリタとは半月ほど旅を伴にしたこともある仲だが、それでも拭えない市民視点でのエイリアンを守るという判断の異質感。

 全体を把握している貴族は波風を立てないように対処したがらないし、市民は戦禍の基となったエイリアンを排除せよと事を荒立てる。

「明日の昼前にはモウマドに到着するけど、変なことする方もいるだろうからそれは予め勘弁してね」

「あぁ、そうだな。僕以外になにもないならどうでもいいんだがな……、ところで預言者は未来をどれくらいはっきりと見えるんだ?」

「そうね。お父さんは貴方よ。すなわち、その差の程度の未来よ」

「…………?」

「うん? そのままの意味だけど」

「いや、まだ何も言ってない。意味も何も、意味がわからないぞ? 聞き間違えたか?」

「どうかしら、貴方はお父さんと遺伝子レベルで同じよ」

「……?」

「最初は公になっていない魔術儀式で生まれたクローンかと思った」

「え、同じってそういう意味かよ!?」

「他の可能性としては4兆7千億人に1人の確率で一致したのかと思った。でも、それでは、亜麻色の毛髪とか、わずかに青みがかった琥珀色の目とか、天の属性に類する奇跡の子とか、それ以前の生来的な性分……遺伝子で決定しない部分の一致が説明しきれなかった。だから、そういうことよ」

「……? すまん、わからん」

「お父さんが預言者を名乗り表舞台での活動を開始したのは貴方が生まれた16年前の秋よ。だとしたら、異常なのは貴方がお父さんと遺伝子が一致したことじゃなくて、お父さんの遺伝子が貴方と同じことという結論に至ったの」

「つまり……それは、なにが言いたんだ?」

「お父さんに未来を見る能力はないわ」

「それは、君が言っても問題のない発言じゃないのではないか?」

「公的にはそうなのだけれども、…………今更隠すことじゃないわ。もう少し後に貴方はお父さんに用事ができるから、私に声をかけてほしい。どれだけ距離が離れていても、なんとかする手段を一つ用意しているから、私にはもうできることをした。……あとは、幸運を祈っているの」

「で、……あー、うん? いや、何の話だ? 結局、『どの程度未来が見える』のかという質問には、なにを……?」

「私は視た少し先の未来で、……えぇ、説明は全部済ませておくわ」

「ん?」

「ごめんなさい。どこまで説明するべきか考えながら未来のことを話さないと、未来のことがどうなるかわからなくなる時があるから、話すのが難しいの」

「あぁ、そうか。……未来を視るのは君の感覚に宿った魔法現象っていことなのかな?」

「うん、そう」

 胡乱な言い方に少し苛立ったのを察したようで、彼女がその身に宿る苦難を説明されたらなんとなく理解できたから落ち着けた。魔法現象なんて再現できても解析不能な現象がほとんどなんだから、人の感覚器官に宿って悪影響がないなんて優しいものじゃないんだろう。

「お父さんはこれから、自分を犠牲にして、異世界の人たちに汚染された毒と鋼の大陸と、不毛と荒野の大陸の全てのマシン工場を巻き込んで大量のマシンと、水銀とか、汚染物資もまとめて異世界に送ろうとしている。だけど、問題があって……えーっと……」

「犠牲……、か、それが問題なのか?」

「いえ、そこじゃない。それも上手くやれば無事で帰還できる。問題なのは送ろうとしてる異世界はマシンが送られてきた異世界とは別で、本当は元の世界に送り返したいんだけど、その世界はもう全員死んでいて、送り先に困っている状態というだけで」

「……全員死んでいる?」

「死んでいるだけなら良かったけど、送ることもできない状態になっていて」

「……」

「本当はお父さんはこの手段を封印するつもりだったの、だけど、……コンクエスタ―の本格侵攻が起きたら使うわ。間違いなく、今は使う気がないけど、もう少ししたら、確実に使おうと思う場面が来る。そして、そのマシンを処分する手段に貴方が保護した異世界人の送還術を使うつもりみたいで」

「……! ……それは」

「ごめんなさいっ! ……」

「利用させないためには、どうしたらいい? 僕はなにを」

「戦争を避けるための手段は用意しているから、シシィか私の部下の誰かが行ったら受け付けて。ここで私達が出会ったことがバレても、その連絡の邪魔をされかねないから、戻るときも隠れてね、お願いよ」

「………………っ、考えておく」

「とりあえず、そんな感じで、お願い。未来のことを考えるのはとてもつかれるのよね。預言者の部下がなにかしようとしたら、気をつけて」

「わかった」

「一応味方だから、シシィか聖騎士に話を通せばお父さんが教導会となにかしようとしても、大抵のことはどうにかなるわ。だから、私からできることは、貴方の方が預言者に向かいたい時がきたら、シシィから私に連絡をとってほしいって感じね」


 ◆ ◆


 前に授業に来たのは三ヶ月前か、忙しく、もとより足取りのかるい師匠たるシシィに頼んで、宿題の添削の代役を……実技は僕である必要もなし、同郷の子供たちの魔術の理解度を正当率と自由文章の解答から分析いして……伸ばすべき得意そうな魔術の課題を出しておく、実技内容も今回半日かけて補給している間に少し視て、苦手分野の課題は標準分野から……

 サラサラとノートに課題案を刻み、まるで師匠との交換日記のような気もするが、子供達と軽口をぶつけ合ってちょっとした図書館と貸した僕の所有する本を開放している自宅の一回で昼にもなると、実技も視終わってから苦手課題の難易度をどの程度下げるかを考えながら、

「フリッツ、お昼ごはんは食べたのよね?」

「……? まだいいよ」

「はぁ、そう言われると思ってユニーカちゃんから手料理を作ってもらってきたよ」

 卵とパンと、野菜と塩味の強いベーコンと……たしかに、ユニーカが適当に作る時の気安いメニューだ。

「ありがとね。どうせなら、好きな女の子の手料理だったほうが嬉しかったよ」

「……貴方はまだ」

 響く女の子の声。

「ユーリー! どこだよー?」

 マノンだ。

「おーい! こっちよ―」

 窓先から手を振ってユーリが呼びかけると微笑みながら怒っているような語調の文句が返ってくる。

「あのね、あの時の私は薬で意識がほとんどないような状態だったし、こっちの言葉がまだ伝わらない状態でなにがなにやらだったんだから、『フリッツの家』って端的に結論だけ言われも場所が分かるものじゃないでしょうに」

「え……、本当に正気じゃなかったの?」

「私の記憶が確かなら、あのときは軽く幼児退行していたはずだが」

 幼児退行するほどの、正気を奪う薬……か、

「それは……、……いや、聞いても問題ない時だけ答えてくれ、どんな薬だったんだ?」

 しまった。言いながら失言に気づいて言い訳をせざるを得なかった。聞いて良いことじゃないんじゃないかと、頭を下げると同時に考えながら答えられる。

「あ、いや、すまん」

「能力行使の際の……いや、頭は下げなくてもいいよ。あれは、自滅防止のための薬の副作用よ。なぜか、いつの間にか問題の症状が消えていたから」

「症状?」

「説明はしないほうが良いんだろうけど、私の居た場所ではフェーズ5症状と呼んでいた」

 フェーズ、……どこかで聞いた表現だな、帝国の魔剣持ってたやつが言っていたような。

「……ごめん」

「え、なにが?」

 今、シャノンはなにに謝った?

「いえ、なんでもないわ」

「えぇ、必要もなかったわ」

 ユーリに、謝った? なぜ、

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