飴細工に突き刺した串
安心ゆえの衰えを感じるのは生まれて初めてだった。老成故に油断を自覚するのもだ。
連邦国家において最強と謂れを持たされた俺でさえ、この年になると昨日の自分よりも今の自分がそこまで強くないことを日々の鍛錬から思い知らされる。衰えを知らぬ、シグフレドの兄ちゃんが羨ましいと思うほどだ。
言い訳は、ここまででいいだろう。
油断した。運が良かった。判断をミスした。独断専行した。他人に任せた。
「……失態だ。お前はおとりか、すぐに殺して戻らねばならん」
「おとり、ねぇ。俺としては……まぁ、いいか。失態はお互い様だと思うけどなぁ」
光熱を帯びた鉄棒の打突。雑木林の斜面や木々を無視して飛来して、退却用のオフロードバイクを飴細工に突き刺した串のように融解させる。
「なに……!?」
ただ持っていた棒を発射した――!
もう一発、俺の力でも無効化しきれないそれが脇腹にあたって、痛みが、腹で燃え盛るようになにかが破裂した音が聞こえた。
熱さが些事になるほどの炸裂の熱烈。いま、手に持っていた棒は発射したはずだろうか……!?
「一撃で死なないか。なるほど、俺よりもパワーのある相手と戦うのはガキの頃以来だ」
脇腹に当てられた鉄の棒を握ったおっさんが険しい顔で、そこいた。いつから!
能力の特性も無視した力をいっぱいに振り回すが、瞬間的な放熱と爆発が距離を離すおっさん騎士の妨害を許さない。見えなくなった騎士の姿へむけた拳の余波が大地を爆散させたのだから、殺したと思ったが、向こうに赤い点描の塊が見える。
「……なんのつもりだよこれ!? 凍えろ!」
現れたそれに向けて、上空から地面まで瞬間的に凍てつく絶対零度の壁は、雑木林の植物や草花を土ごと蒸発させる。純粋な冷気ではない。マグマさえ蒸発するほど局所的以上低気圧の壁が、それらを沸騰させて爆発的に膨張させる圧熱が、冷気を突き破って、俺の肩をかすめる。ギリギリ反応できた。だが、
「今、避けなければ……」
当たっていのは喉元だ。
爆発が重なる。連鎖爆発ではなくそれが、個体が勝手に蒸発して冷気を帯びるほどの規格外の低気圧を実態のある金属の塊が飛来することで爆雷となり察知させる。
加熱しているはずの金属が、蒸発していない。こんな素材、地球上の物質では限られる! だとしたら、質量を発生せるのではなく力そのものが実体化したフェイズ4に近い能力?
「連射っ、か!?」
点描の全てが核弾頭を火傷ですませる身体能力を持てあます俺たちですら、致命傷に至らしめる圧倒的な殺意の打突であった。
顔面だけは守る。目が潰れたら、どうしようもない。両腕にグサグサと刺さるのは角の尖った金属の破片。……!? 金属にしては重い。こんな素材俺たちの住む現代の装甲材でもなかなか視ないぞ。
死んだふりをするわけじゃないが、融解した土面と割れた地面の間に息を潜めて、おおざっぱに発射方向辺りををグズグズに重みをました両腕をおろして視認する。
左脚と両腕と背中に数か所と尻に二、三くらい……金属片が何本か刺さったが、まだ動ける。隙を伺うんだ。この霧の中で
「おい……死んだふりか?」
霧が薄らいだその向こうの笑顔と目があった。これは……、他の全員が全滅してでも本気で挑まなければ、勝てないと確信した。だが、その判断が俺個人にできるものか! だが、やらねば死ぬしかないのだ、最大出力を行使しなければ!
力を溜めていると霧の向こうのそれが弾けて、消えた。その座標へ、光の柱が落ちた。
「ラファエルか!?」
返事はない。敵の気配も消えた。だが、俺以外に数人、周囲に俺と同格の気配がいるのが確かに分かる。その識別は不可能。だが、こうなってしまえばこっちの勝ちだ。こっちには見えないものに対する判別に長けた二人がいる。
霧の向こうから点描が赤く輝く、
「あ、が、が……ぐっああ!」
木々の隙間を駆ける。そこから何発か刺さって、何個かの赤い点描の光点を避けきって分かったが、奴はタレットのようなものを設置しているのかもしれない。
いずれにしも、俺が焦土化する座標内にいたらラファエルの攻撃の邪魔になる。だから、
膝が落ちた。膝カックンをされたのか? そんなふざけた感想が胸に沸き立つ。
椅子に座りそこねたような錯覚に陥る俺の視界の裏で騎士らしい服装の女性が黒々とした紋様を這わせた剣を振っていたのが視えた。
見えたが、瞬間的に消えたその女がいた座標へ光の帯が飛んでそれがは回避されったのだと理解する。
こいつら、発射前のラファエルの光を避けた!?
それよりも移動の動きがギリギリ目で追えないレベルの超加速なのからして、光よりも速く動いているなんてことはない。だとしたら、やつらにはラファエルの能力を予見する手段が、標準的に備わっている可能性が、
自分の体が落ちた。斜面を転がってやっと、あの紋様に切断された両足の痛みに悶えた。
「あ―――――――――っ!」
私が気配の違和感を感じ、目を向けたそこから大量の天属性に分類される類の魔力によく似て全く仕組みの違う何かが来ると察知したときには、旦那が窓も壁も破壊することをいとわず、図太い鉄の塊の柱を後ろ手に担いで魚のヒレのような、裏向きに煽られた傘状の排熱版から、広範囲に向けて変化熱と圧熱を魔術で強化され放出するための形状でそれたを防いだ。
視界を覆う金属柱から私が、状況が把握できずに居たら旦那は
「範囲が狭すぎ、だっ」
呟いた次の絶叫――!
「冷気放出の第二波に警戒!! 全隊員緊急事態体制につけぇ!」
言うやいな発射方向を向いてかがむ予備動作を見せる、
反対向きの傘の平熱方向へ自分の魔力で作った金属を足場に跳ねてゆく。
私は防衛するべきかもしれなかったが、こんな大規模魔術を使う相手なら護衛くらいいくつもつくだろう。だとしたらこの判断は妥当だろ?
一人で対処は無茶と判断して副官へ、指揮権委任を宣言した。
「私はルイスの後を負う。いくらなんでも一人で対処するのは油断だ!」
私は旦那の後を追う。言ってから、言い馴染んだこの名前をルイスはもう使っていない事を思い出した。
追いかけて、旦那が突入した雑木林に存在する魔力の性質が大きく三種類以上存在することを察した。敵の最低想定数は3人、無茶では?
三人居以上居るなんてことにあっさり気づけたのも粉塵となった土の魔力が、不自然なほどあからさまに練り上げられていたからだ。窒息させるのつもりか? こちらの世界にもマイナーだがそういう暗殺術は存在する。だとしても、魔力の量が不自然に多すぎて、別の意図が察せられてしまう。なんなんだ? こんなに見せびらかしたら、対策そのものは許してしまうだろうが、なのに?
気配を殺し、森へ駆けて雑木林の隙間をすり抜けながら思考の中で分析を続ける。
一つはこの不自然な土に限りなく近い別のもの。二つ目はさきほどの天属性の巨大な冷気。三つ目は我々の定義する光属性と全く同じ性質の練り上げられた魔力。
他に小規模な魔力は周囲に居ない。いま、あらゆる術を使用してしていないイレギュラーがあったとしても、異世界の魔力は魔法と同じ現象を操作しているらしく、一つの現象に対して魔力はまともな戦力につき一塊になるはずなので、三人と考えるべきだという認識も疑う。
光の魔力だ。弾けたよう明るい、突き刺すほど暴力的な魔力のそれがうねるようにネジ曲がって、魔術行使のための力が空間に一本矢の通り道のように集まる。
土の魔力は気道へ入られないように土と風の魔力の混成した対策の防護術を生成しながら粉塵を塞ぐ。魔力が発動のための臨界に加速度的に増えたのを視て自分の体を光の魔力の通り道から外す。
光の帯が通り抜けた。……狙撃狙いか。まだ連射するつもりか、魔力が通った場所に魔法が発生するのでは、放出しているわけではないので発射位置から相手の座標が割れない。……厄介だな。
こうも、予備動作がわかりやすくては避けるのは難しくない。だが、こちらを確実に視認しているということだ。知覚に干渉している魔法なのだとしたら、こいつの視力は通常のものではないと考えるべきだろうか。
空を穿つような炸裂音、大気が爆発した滝のふもとのような流れの煩さ、それを超えて聞こえてくるバチバチと連鎖的に爆発する音。衝撃波に合わせて、光の狙撃がくる。これはいいが、旦那の鋼の魔力により発する3000度を超えることもある金属とジェット噴射の余波で、何度もくらったら、体中打撲してしまう。
連鎖的爆発した金属の発射音が聞こえたその先に、まるで隠しちゃいない天の魔力を帯びたその塊が視界の端に映る。
まっすぐ、その位置へ一歩、跳ねるついでに踏み込む優しさで、腰の聖剣銘の一振りを振り抜く。
ッ鈍い。
手のひらが聖剣を離したがるほどの抵抗力に悲鳴をあげて、私の下段払いを当てた。魔力、なにをどう仕込んだらこんな厚みを感じることになるんだ。生物かこれが?
追撃で胸を裂こうにも、光が集まりだした。痛いほどの脚裏が泣き出す跳躍で走り出す。
結果的に余裕をもって躱せたが、追撃が必要だ。
「あ―――――――――っ!」
情けない声で転がるそいつを、タイトな服装の青年が引っ掛けるように抱え込む。
追撃か、撤退か、迷ったのかいけなかった。
足元からあらにかけて球体のような研磨剤の渦の直撃を食らった。
「痛いっって!!」
錬気を貫通して装備と脚を引き裂いた時点で闇の魔術による現象の低速化で抜け出すだけならなんとかなったが、出血が多すぎる。
闇の魔術も短時間で消費する闇の属性の因子に変換可能な魔力を大量に消費する。もって数十秒。緊急撤退用の力属性の因子も残すなら風と雷はリソースが重なるための使用は避けた方
が良い、闇の魔術にリソースの重なる水と氷もだ。土魔術も同系統の相手にぶつけたいとは思わない。 ならば、火炎と光の魔術だけでいいだろう。
数十秒のうち、十数秒で決着をつければいい!
駆ける、その一撃で死なないのなら一撃だけ耐えながら二撃目が来る前に殺せば良い。攻撃向きの魔術など用意されていない、魔術を抜きにただよく斬れて硬いその業物を、仲間を脇に抱えた敵の首元に寄り道なく一直線に殺しに進む。
は?
その首を刎ねる前に、そのタイトな服装の青年は自爆した。肉肉しかった体が泥のように溶けて膨張して、ふくらんだ泥が溶けて崩れた。
「デコイ……!」
魔術的な手段でももっているのか? 泥で作った人にしか見えない人として動ける。偽物!
周辺を確認しながら、放り出されて転がった悶えている男に緑の魔術で痛み止めと昏倒の薬剤のような効果を与えて持ち上げる。こいつの戦術的な実力は最悪、異世界からわざわざ侵略しに来たコンクエスタ―たちへの人質になりえる。
決して意識を取り戻さないように治療の一環で止血とと気絶させながら肩に抱えて走る。
こいつの脚と私の片脚で全身血まみれでベタベタだが、そんなことを気にする状況じゃない。
戦術級の兵士だけで攻略する拠点があるものか、さっさと戻って敵にとっての主力と思われる戦闘級部隊の対処に戻らなくてはならないではないか!? って考えた私は焦っているんだ




