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2-2

 「魔法っていうのは、ハッキリとした定義や具体的なものがあるものじゃないんだ。どちらかというと哲学的な概念や、学術的な命題につける傾向がある」

 傭兵詰め所の横に隣接して繋げられた酒場、というか酒場風レストランで味の濃い肉と味の薄い芋の帝国の文化圏ではよくある軽食をとりながら、魔法に関する話をする。

「まぁ、勝手に起こる大きくて不自然に見える自然現象は全部魔法っていうわけ」

 帝国以外ではあまり食べられないというか、避けられがちな芋だったが、問題なく食べるユーリの姿に案外、彼女の故郷では似たような食事があったのか? と、想像しながらその思案は異世界に関する情報であるからして、それだけで禁忌であることを思い出し忘れるように努める。

「なんだけどな。これも、あくまで僕が学んだ学術書の解釈を僕なりに消化した認識で、魔法がなんなのかを断定できる人は実際のところこの世界にはどこにもいないものだよ」

「そう、じゃあ魔術とは何が違うの?」

「名前の通りさ」

 食事をユーリより後に終えて、ナイフとフォークを皿越しの垂直に並べる。それに習って、ユーリも同じように置くと近くに居たウエイターに合図して食器を下げてもらう。

「魔法は法則で、魔術は技術のことを言うんだ」

 水を購入し、喉の乾きを潤す。

「魔法を魔道学って学問で分析した結果、人類が手に入れた人間に流れる魔力を用いた技術として魔法を再現する技能のことさ。それが魔術で、その魔道の学者は魔導師って呼ばれてる。例えば、魔力の掴み方を教えて法則を覚えたらたぶん、ユーリもなにかは使えるはずだ」

「え、できるの。かなり興味があるわ」

「わかった。食べ終わったら自分に流れる魔力の掴み方を、その後は使い方を教えるよ。使うのはまぁ、僕には才能がなかったが魔道を情報として開発する程度には頭にありったけ詰め込んでるからさ。そこらの人よりはできる程度だ」

「……魔法って誰でも使えるものなの?」

「いや、そんなことはないね。魔法を使う魔法使いっていうのは、極稀に生まれるけどそれが自覚することなく生涯を終えることが多いとも言われているし、実際は使えたところでどうしろっていう現象を起こせるのが大半。魔法は生まれつき体に入ってないと」

「間違えたわ。魔法じゃなくて、魔術って言いたかったの。ごめんなさい」

 声を潜めて心配する彼女に苦笑してしまう。

「そう……魔術は、数学と読み書きができないとどうにもならないね。たぶん、仕事に必要ないなら使えない人は結構多いと思うよ」

「そ、そうなの?」

 会話して少し息が切れたような合間で、いきなり同じテーブルに男性が座った。


「ひさしぶり!」

 一瞬誰か分からなかったが、声を聞いて理解した。

「……あ? うわっ、ゼフテロか?」

「そうだ。久しぶりだなぁ! たぶん5年ぶりになるのなか? 俺が、出ていってから」

 それが誰か理解してしまったら嫌な思い出を思い出し、血の気が引いて目眩がするような感覚を覚え、歪んだ笑顔であろう挨拶をする。

「久しぶり……うん、そうだね。4年と2ヶ月ぶりだよ」

「あら、知り合い?」

「あぁ、同郷の、というか幼なじみだな。色々あって俺は帝国の方で色々活動してるけど。昔は村中にいた元兵士のおっさんから一緒に剣術を学んだり、フリッツから直接魔術を教えてもらったりもした。言ってしまえば同門の兄弟弟子であり、俺の魔術の師匠みたいな関係だ」

「言い方で、ずいぶんと綺麗にもなるものだね」

「なんだ、元気ないなぁ。コルネリアとは上手く行っているか?」

「あ? ――――――! チッ……知らないよ。あんな人」

 こわばる顔に笑顔がひきつる幼なじみに、申し訳ない気持ちとやるせない怒りがこみ上げる。

「どうしたんだよ。え、なんか喧嘩でも」

「知らないっ! 本当に知らないんだ。3年前にはもうあの村には居なかったんだよ」

「なにが?」

「……村を出た君が興味を持つ資格はない話だ。僕にもだ、帰るまではそんな資格はない。だから、話す理由もないし、話したくない。本当に思い出したくないことなんだ」

「…………」

 一度視線を泳がせて、再び僕に向き直ったゼフテロは口を開いてから言葉を探し出す。

「なにはともあれ、久しぶりにあえて嬉しいよ。えーっと、俺が普段滅多にこない王国側の傭兵組合に顔を出したら再開できて、俺は最高に嬉しいぞ。はは」

「ゼフテロ、あー、そうだな。嬉しいのは僕も、否定はしない」

 否定できないことすら苦々しく感じるが、まぁ、どうでもいいか。

「色々聞きたいけど、解放軍はやめたのか?」

「割とすぐ、なにかする前に抜けた。その後に俺が参加したのは解放運動。あくまで政治的なやり取りで、暴力的な運動と一緒にできないようなものだ……」

「……あぁ」

 目を背ける。彼にその顔を合わせられない。僕は彼のことが嫌いではないが、彼が村を出て別れた際に苦々しい感情があったからどうしても苦手に感じてしまう。あの時の僕は、

「なんか、調子悪いのか?」

「いや……」

 息を吸う。息を吐く、大きく吸って声をだして、頬を軽く叩く。

「あぁ、そうだ。……うんっ! よし! もう大丈夫、元気なくても空元気する。空元気でも僕自身戦わないから別に歩けるなら問題ないね! どうだっていいことだ」

「そうか、あぁ、そういやそういう性格だったな。で、その子はだれ?」

「ユーリ・サトーだ。今は彼女と一緒に旅にでるところ」

「旅の道連れにしてます。ユウリです」

「そうか、俺はゼフテロ・フォルトゥーナだ。フリッツをよろしく頼む」

 そう言って差し出された手をユーリは握り返す。

「私がよろしくされますよ。どうも、はは」

 自嘲して笑うが、気は楽そうだ。

「あ、で、ここにきた理由だけど。女性の傭兵を抑えるのに少し時間がかかるから出発は5日後になりそうだ」

「5日か」

「イェルクさんに頼まれて、これを伝えに来た。ついでに俺は同行する一人の予定だから出発まで休みもらった」

「あぁ、わざわざありがとな」

「俺の本心としては旧友と遊びたいというところかな」

「あぁ、それなんだが予定があるんだ。ユーリを……」

 彼女に5日間にやらねばならないことを説明する。

「出発までユーリには最低限護身できる程度の魔術を覚えさせておくから、魔力を掴めるようにさせるには、……」

頭の中で作業工程とそれにかかる時間とそれにより消費される日数を指折りして数えてみる。

「まぁいけるだろ」

「いけねぇよなぁ! そいつが天才って基準で話してんのか?」

 ゼフテロに否定されるが、そうはいってもなぁ。3日あればだいたいは

「いけるいける。一応、タイムスケジュール的には余裕あるから」

「……? その魔力を掴むってどうやるの」

「あぁ、それはな」

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