こんな形になってしまったけど
騎士たちに囲まれて、わざわざ豪奢で実用的に思えない馬車を用意してまで案内される王城までの坂道の後、降ろされると執政官との口上をアンドロマリー閣下が述べた後、2、3近況の何かを離して「また後で話そう」と打ち切って気さくに手を振って僕らの方へ向き直る。
僕、クラーラ、シャノン、ユーリ、アンドロマリーも含めると男性一名、女性四名で意識すると居心地のわるさを感じてしまう程度だが、周囲の騎士は男性の方が多いから気にする必要もないだろう。
「じゃあ、行こうかな」
流石に僕から視たら気のいい兄さんに見える程度に年上だが、とても若い騎士だ。彼が膝混付いていた姿が促されただけで立ち上がり敬礼と変ずる。
「彼は、優秀な第三近衛隊の新人だ。カレヴィーくん案内、頼むよ」
「はいっ! こちらへ」
「第三の王城づとめ、よっぽど信頼されているのかしら?」
「そうだね。彼なら第二隊の選抜を任せられる役人としても判断してるのさ」
「……? 第二、近衛の?」
「大役を任せられて恐縮するばかりの日々ですよ」
クラーラがよくわからない話をアンドロマリーとするが、第二と第三がどういう関係なのかすら僕には知らされていない。
長い絨毯と階段。誰も通らない道を何度も曲がりくねって、建物の作りがレンガ造りから、古めかしい石造りに変わった区画で停止する
「王命により閣下とそのお連れ様をつれてまいりました!」
場所を任された警備同志でキビキビと敬礼されたので慌てて、儀礼式の礼をしてしまったら
「今はしなくもいいわよ」と
アンドロマリーに優しく苦笑されて肩を撫でるように触れられてしまった。
城の内部構造を大きく回るように迂回してどこかへ向かう中で、何度かまた敬礼される度に聞こえるか怪しい程度の声で「どうも」と反射的に声を漏らしてしまう。
「お連れしました。ここからは近衛第四隊隊長殿が案内します!」
コニア姉さんだ。今はなぜか仏頂面でいたような気がしたが気の所為だったのか、挨拶の代わりに破顔した笑みで小刻みに手を振るう。
「ひさしぶり! フリッツ、ユーリ、シャノン。アンドロマリーだけは二日ぶり! 貴方にだけはひさしぶりはふさわしくないわね。なら、『おはようございます』が適正でしょうか?」
「やぁ、コルネリア、君には積もる話もあるだろうからさっさと案内してくれ」
アンドロマリーの物言いにややムスッとしたコニア姉さんは手を横に広げてフランクな態度を保つ。
「言われなくも宮殿裏だ。案内するさ、席を一緒にする予定でもあるからな」
「えっ、ん? あれ、今日の目的を謁見って聞いてたんだけど」
「あぁ、それは……そうだな。警備上の理由でスケジュールで嘘をつくのはある程度高貴な身ではよくあることだ。あまり気にするな」
「そうなの?」
本当か? と思って、アンドロマリーに聞いてみたが頷いて答える。
「一応、私にも偽物のスケジュールを受け取る仕事をさせている高貴な相手がいるわ。たまに会いに行くと愉快な方々だね」
「まぁ、今回は大臣の偽造スケジュールも組んでない粗末で、事情通が知ったら騙されないような適当な謁見スケジュールだから、事実と思うものもいないさ」
理解しかねる言い分に案内されるが、随分と大きく飾り立てられている訳では無いが古く綺麗に整った扉の前に通され、コニア姉さんがノックして『コルネリア・コルネイユ子爵』と名のり、許可を促されてやっと扉を通される。
過ごしやすそうな格好をした少年。このヴァロヴィング王国で一番偉い彼が小さなテーブルに置いた本に手を添えてこちらを向くと挨拶をする。
「苦労をかけたな。みな、好きに掛けてくれ」
いくつかの椅子が用意されていたのでできるだけ扉に近い位置を僕ら四人は探り探りに座ろうとしたが、コルネリアに背中を押されてシャノンとユーリは陛下の長テーブルを挟んだ対面へ、僕とクラーラはアンドロマリーに抱え込まれるように腕を引かれて陛下から視て右側のソファに一緒に座らされる。
その対面のソファの隣にユーリは立ったままうらめしそうな目をアンドロマリーに向けた。女の戦い始めんじゃねぇよ! 王様の前で! その二人に視線のぶつかり合いにやきもきしていると王様が
「やぁ、久しいね。ジークフリード・ラコライトリーゼ」
「! 名前を覚えてくださったとは光栄です。陛下」
名前を……覚えられてたのか、僕に声をかけた。……止めろってことか? と思ったが、違ったらしく話を続ける。
「あぁ、……うん。そうだね。マリーお姉ちゃんが気にかけてる相手として話が……なんか、独り歩きしているから注意するようにしなさい」
「え? ぁ、はい。そうなんですか」僕に言われてもコイツを止められないのだが……
「まぁ、歩かせてる本人にも言っていることなんだけどね? お姉ちゃん?」
「……いいだろう? 私は気に入った相手を贔屓する。公平から最も遠い愛と自由の人間ということは、ここに居るみんながご存知の通りさ。君の不利益になるわけでもあるまい」
苦笑して、少テーブルの下に含まれる収納から茶葉を取り出して、テキパキと紅茶を入れる。陛下が、
「なぜっ、茶を自分で入れる……側仕えとか居ない?」
「え? あぁ」
困惑して言葉を上手く選べずにいると、同じことを思ったクラーラが酷く下手な言葉選びで疑問を口にする。失念していたことに気づいたような態度で王様は、少年らしい声で感嘆の息を漏らす。
「預言者のとこの姉かい? 妹じゃないよね? 一応、僕にも事情があってね。公務をしていない時はあんまり使用人も置きたくないんだ。そう言えば、君が預言者のとこに居た時は何度か会っているけど、プラベートな場所に入れるのは初めてだね!」
「……そりゃ、仕事上の関係だったし」
「じゃあ、今日からは友達だね」
「えぇっと……どうこたえれば……」
泣きそうな顔で僕を向くな! 場合によっては僕らは殺し殺されの関係だったんだぞ!? なんてそんな感情を僕へ向けるんだよ?
「ジークフリードとクラーラ……結局カルラじゃないんだよね?」
「あぁ、……姉の方だ」
魔術で集められた熱いと温いの中間のような温度の紅茶を6つ、カップと皿に並べて、ユーリに視線で促して全員の前へ移動させる。
「あぁそうか、良かった。間違っていなかったみたいだ。一応、お金の話もあるけど、あとで経理局長がわざわざ出張って説明するみたいだけど、資産を国庫で預かっているから、引き出したい時は時間がかかるよって通知だけさ。そうだよね? コルネアリア」
「あぁ、行政官をやっているような彼らにとっても、フリッツは変な立ち位置だから見極めたいようね」
お茶を一口含むことで僕とクラーラからやっと離したアンドロマリーの腕がティーカップとソーサーの自由を次に奪う。
「え、僕に立ち位置がある!? ただの、エイリアンの保護監視区画の管理長だよね?」
「ただのってなんだい……君以外そんな仕事していないよ?」
「あぁ、…………そうだね、そうですね」
一口含んでもそれでも僕には少し熱くてお茶を呼吸で冷ます。錬気もあるから飲めないほどの熱の痛みではないが、どうも熱いのは苦手なんだ。
「で、話は聞いているけど、核爆弾の話はについては、アンドロマリーを通じて聞いたことろだ。教導会の使いがくるから彼らにも離してくれたまえ」
「……核爆弾じゃないわ。フェイズ5克服者の」
「あぁ、それについてはコルネリアが一番詳しい」
「なに…………?」
僕らにはリラックスムードを向けていたはずが、国王陛下はユーリにはいきなり本題を切り出した。
「いえいえ、そうは言っても、仕組みについてはさっぱりですがね」
そんな前置きをしてコニア姉さんは険しい顔で説明する。
「あの人達、一人ひとり全員が、預言者シグフレド並のことが出来ますよ。それが複数人いることは確認しております」
預言者……隕石落としなみのことが……か。は!? え、やばくね人類?
「シグフレド、預言者の方の名前ですね。その方並とはどの程度のことですか?」
「少なくとも地表上の人類以外の全ての生物を一撃で絶滅できる程度かな。それくらいのことをしようとしたから、その女はその場で仲間と合わせて二人まとめて殺したが、魔法を宿した本人もシグフレドよりは弱いが、東の国の腥風卿が本気で戦わないと即死できない程度、もっと脅すような言い方をすると連邦の精鋭中の精鋭に与えられる聖騎士称号を持った騎士の平均より強い……その程度の厄介さも持っていると知っている」
「戦っ! こ、勝ったの!?」
「うん、実力を理解していたらそんな反応になるよね。あぁ、うん。私は一応、今この地球で一番強いから」
「地球……」
「ん? あぁ、この世界全体の大地の名前をそう呼んでいるんだ」
「いや……そうじゃない……」
「……?」
「やっぱり、この世界と私達の世界の地理は同じだ。歴史が異なっているからわかりにくいが、……どうやら」
「へぇ、そうなのか。……それ、他所で言っちゃダメよ? 斬り殺されちゃうから」
「……殺される覚悟はして説明をしにきたつもりです」
……なんだ。その表情、いつかどこかで視たような。
「わたしたちには……」
「お前はそれを伝えてどうしたい? 我々としては全面戦争のための備えを秘密裏に開始したばかりだ。お前はそれを止めるか? それとも……」
「コニア姉さん!? なにを言ってるんだ! いいや、待って、全面戦争の備え!? いったいいつからっ!」
「数日前からだ」
「被害者はっ……!」
「安心しろ、我々の敵はエイリアンではない。エイリアンを招くような御使い教徒や、こちらの世界に自分の意志で攻めてくるコンクエスター。だからこそ、異世界人を……ね」
「だからこそ、なんだ?」
「……ごめんなさい。こんな形になってしまったけど、エイリアンの送還魔術の座標確認実験の許可が各国の連盟により降りたの。フリッツが作った式の数パターン中から異世界に通じる正解を各国の魔道士各位で探していることを命じたところなの」
「は……?」
「それが終わり次第。送還に入ってもらう。もうフリッツには拒否権は無い。ごめんなさい」
「……いや、送り返すのは問題ないが、敵側に戦力になるかもしれない人材を送ってもいいのか?」
「………………手元においているよりはマシって反応らしいわね」
「本当か?」
「フリッツが私の言葉で何を聞いても信じられないのはしょうがないとは思うのだけど、真実よ」
「……本当、なんですか?」
国王の少年を見るがやはり彼も申し訳無さそうだ。
「申し訳ないね。我々も急遽話を進めざるを得なくなったばかりなんだ。現場ではまだ機密の範囲だろうから、しばらくは黙っていれくれ。数日で公表されるが、今はまだまってくれ」
「わかりました。王様がそう言うなら」
真実なんだろう。……だが、そのまま帰したら兵士として利用されるために送るようなものなんじゃ、
「……入れ違いになったようだね」
「?」
「あぁ、そういうこと……なのか? いや、そうなんだろうか……?」
「私は……いや、私には……」
◆
ノックと、『袖切り』と名乗った何者かが王様の少年が部屋に入ることを許可される。
その名のりから仕立て屋かなにかかと思って扉ではなく、壁とベッドの天蓋のカーテンの隙間に隠れたどこかから合われて、クラーラがその姿を視て軽く悲鳴を漏らす。
「ひぃっ……っ! おま、お前!」
「落ち着けっ! ……彼は私の同胞だ!」
驚きに満ちた彼はかつて憧れた地元の
「陛下……なぜ、ジークフリードをこの場に?」
「同郷なんでしょう? 君のことも言ったほうが良いんじゃない?」
「ゼフテロ!? なんでここに居るんだよ。アンドロマリーまで!」
かつて僕とコニア姉さんが兄のように慕った男。
「……お前、私の脚を斬った」
「どういうことです! ……語ってもいいのですか、陛下!?」
ゼフテロ・フォルトゥーナ。王国の植民地解放運動の中核を成す指示役だ。
「問題ない。もう準備は終わっている。……僕らの願いはもう叶ったようなものだ」
「確かに……盤石ではありますが、不測の事態いくらでも」
「ここで語っている以上、アンドロマリーも口説いた。問題ない」
「その女こそがっ! ……一番の懸案事項だったらしいのではないのですか?」
「随分前のことだ。もう、いいんだ」
「そう、……ですか。そうか……、っ、そういうわけだジークフリード、アンドロマリー、俺は陛下と繋がっていた」
「えっと、ゼフテロも王国に務めてたってこと?」
「いったい、どういうことなのよ……」
うつむき気味に首を横に振られる。違うのか
「王国には務めてない。国王陛下には植民地解放運動のパトロンをして頂いていたんだ」
「……え、王様が?」
「そうだ。陛下は、いまのヴァロヴィング王国には植民地を支配する力はないことを誰よりも最初に分かっておられた。だから、俺よりもずっと先にグニシアと伴に、預言者を敵に回してでも我々を支援してくださった……というわけだよね。レイくん」
「レイ! 貴方は私を出し抜いたってこと!? この私がどれだけ貴方のために……っ」
「あぁ、そうだね」
「国家を盛り立てる想いは言葉は嘘だったの!?」
「嘘はないさ。ただ、マリー姉さんの願いとコニアの願いのどっちも『有り』だと思った。だから、どちらでもいいなら、コニアの願いを叶えることにしたくなった」
「……そうか、なら」
「ごめん」
「いや、いまならその気持ち、わかるから否定できないや」
どういう感情なのか、半分怒ったように驚く僕と、恐怖の混じった本気の嫌悪を示す彼女の手を甲の上から添えて、しみじみと語る。
「クラーラとジークフリードと出会った『いまなら』」
なんだんだよ!
「え、待って、というか! 陛下ってえ、王様をレイくんって呼んだか!? ゼフテロぉ!」
「あぁ、本名は事情により開かせないが、愛称は親しいものには許している。コニアと義姉弟の契を結んだっていう君にも『レイ』の愛称で呼ぶことも許すぞ」
言い出すより先に陛下が説明してきた。いや、……だが、使い分けできるか? 僕に、
「ごめんなさい。……人前で言ったら勘違いで斬り殺されかねないので、誤用しないように、やめておきます。そういうのは苦手なんです」
「そうか……残念」




