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それでも、一つだけ、本心があるんだ。恋心だけ

 ユーリ、僕は君を帰るべきに場所に帰すことが最も不幸が少なくて済む道だと確信している。僕らは淡水魚と海水魚のように、出会うべきではなかった。だが、出会ったからには別れれば良い。それを急がなければ、僕らは多くの不幸を呼び、いつか不幸になる。

 ユーリ……アンドロマリー閣下から聞いたぞ。なにを説明するために登城するっていうんだ? 核爆弾やビッグ5がそんなに重要なのか? なんだそれ、ユーリだけならまだしも、シャノンもついてくるって、……なんで?

「クラーラ、シャノンはなぜついてくるんだ? 説明だけなら、ユーリだけか、聞き取った覚書を書簡として送れば良いのではないのか? なんで」

「説明する権利は私にはないわ」

「判断する権利はあるのに……?」

「……! ……結果的な、いや、もう、なにも言えない」

「そうか」

 お前が、女だからなのか? 同性だから異性の僕よりもユーリと?

「ユーリ、なにがあったんだ?」

「言えないと言っている相手の前で堂々と聴くことかな?」

 そうかと頷き、二人きり、僕の与えられた資料室に入る。

 促されるままついてくるユーリの顔からは何も見えてこないのに、その奥のシャノンの顔色から、悲しそうな感情が見えてくる。

「何も……前に話した通り、話す内容は変わらないけど、最重要機密に関わる知識がないと、説明をしても理解できないらしくて、どうすればいいかをクラーラに相談したの。結果、なんとか大事になって説明に漕ぎ着けそうだ」

「……。本当に?」

「そりゃ、そうだけど。それ以外なにが」

「だとしても……僕は、君たちの力になれないのかな?」

「えぇ、それに間違いは、ありえないわ」

 こんな確認で得られる安堵など、

「どんなにキレイなお題目を並べても僕は君に惚れて、助けようって決めたんだ。力になれなくても、頼って欲しくなる……」

「そんなことをいまさら、貴方が尽くした何も変わらないわよ」

 指が伝える抱きしめるために引っ張った手首の感触が、なめらかで、柔らかくて、暖かくて、

 弾かれた指の拒絶の痛みが肌を痺れさ、そのしびれが脳髄にまで判断をビリビリと鈍らせてしまう。

「フリッツ? いきなりどうしたの!?」

「いや……」

 驚いている彼女に説明するべきなのだと、貴方までは理解していても痺れた判断能力では探したい言葉が何一つ見つからなくて。

 自分の無力なんて知っていたはずだろう? なのに、屈んで両手をもう一方の片手に添えて

「フリッツ……泣いてるの?」

「前に、コニア姉さんに、……コルネリアに捨てられた時の話をしたね」

「えぇ、少しだけ」

「最後の瞬間になるまで僕は、君たちを帰るべき場所に帰すって誓った。これをもう絶対に歪めないために……」

 背中に手のひらのぬくもりを感じる。

 しゃがむ僕を覆うように抱きしめるユーリに話すべきことがある気がした。そんなものは本当はなにもないって知っているのに、


 ◆ ◆ ◆


 うぬぼれていた時期があった。だが、あの当時の僕は自惚れるのにふさわしいだけの実力があって、たぶん、今の僕よりも強かった。その時期の頃はゼフテロを……自分にふさわしい、宿命のライバルだと勘違いしていたんだ。

 4つ、いや5つも年上のお兄さんに対抗意識を燃やしていたのに、ゼフテロはすぐに僕より強くなって身近な僕なんか目もくれずに、遠くにある未来を見据えて市民のために戦うと決めた。その過程でなにがあったのかはもう僕には、分からないけど、今のゼフテロは満足そうだったから、たぶん、進めているんだろう。

 ゼフテロが村を飛び出して一年とちょっとして、コルネリアもモウマドの村を出ていった。コニア姉さんとはぶどうジュースに血を混ぜて、東の帝国風の様式を真似して義兄弟の契約を結んだ。結んだつもりだったんだけど、コニア姉さんは血の繋がった家族の方が大切で、僕を弟として見ることをやめて、もう姉弟ごっこなんてやめようとしたのだから、僕のことなんてどうでもいいのかと思っちゃったんだ。だけど、違った。弟のままいることを許してくれた。

 そんな、勘違いで、自分の中がぐちゃぐちゃになるほど、生きるのが辛くなって、父さんが病気で倒れて、最期の瞬間くらいは優しくしてほしくって、期待していたのに、そんな本心を何一つ言えないまま、ベッドで寝る父さんを罵倒して、…………殺したんだ。僕が、父さんをだけど、父さんは、僕は

『父さんが僕を憎むのは母さんを愛している証明だから、その愛を誇りに思う』なんて詭弁を、

 吐いた唾を飲み込むことをしようともしなくて、……そうだ。それで、僕が……本当は全部詭弁で、詭弁を詭弁に使うほど、本心が自分でもわからなくなるから、それでも、一つだけ、本心があるんだ。恋心だけは本当だって……、

 …………違うな。この恋心は理由にならない。だけど、僕が

『帰るべき場所に帰したい』のは本心だから…………だからっ



 ――――――『えぇ、在るべきものは在るべき場所に返すのは、当たり前のことよね』。



 ◆ ◆ ◆



 金があるんだ。王都入りには消耗する供物に天属性の魔力を大量に流入させたぶどう酒と、鋼属性の魔力を内包した天然の貴金属を大量に使えるらしく、帰りは馬車の予定だが、行きは空間転移の儀式魔術を使用する。

 元々これらは専門ではなかったとはいえ、随分最新のものを読み漁ったおかげか、儀式魔法陣の模様から模様の裏にどんな式をしようして、どうやって座標を決定しているのかたやすく理解できるようになった。

 たいてい、模様はそのまま式になっているパターンと、式を理解できなくするパターンがあるが、設計者のセンスなのか、そこまで複雑な隠蔽の模様は施されていない。

 通された台座を観察していると、アンドロマリーと指を絡めた手のつなぎ方を共用されるクラーラが横から苦笑をもらす。

「台座をそんなにジロジロ見つめるものじゃないわ」

「でもこれ、……ごめんなさい。裏に隠された式が読めるから、つい視ちゃって」

 言い訳をすると、クラーラと繋ぐ反対側の手でも指と指の間に指を差し込む手のつなぎ方で僕の片手を絡め取るアンドロマリーが細くしてくれる。

「一応、機密のたぐいだけど、後で行き先の式を書き換えるから同じ式は使えないとおもいなさいよ?」

「そうなの? でもこの偽造の出来はどうにかした方がよくない?」

「この場所は本来……いや、商業的にも稼働させるのに必要な供物にお金がかかるから、貴族向けに建設された施設だから、あんまり警備を厳しくしても、うん、ある程度身分が保証されている分は簡略化されているってことよ」

「へぇ、だから、警備の割に新築のようにキレイに掃除されているのか、の、割に装飾とかはしないんだね」

「セキュリティ上の観点から施設側の自爆も用意されているからね。あんまり飾っていても仕方がないじゃない」

「自爆……ここを」

 思わずその先に地上があるであろう天井をみつめる。すると苦笑されて、見透かされた浅はかな考えを正される。

「天井が崩れるほどじゃないわよ。せいぜい台座を使用不可能に儀式魔術の構成式が焦げる程度に壊す目的の装置よ」

「へぇ、じゃあ、生き埋めの危険性とかはないのか」

「有事を想定しているから全くないとは言わないけど、崩れたら新しい台座を作るのが大変だから、わざわざやらないわ。地下に建てているのも利便性の低下っていうセキュリティの一つだから、これが全部崩れたら困るわ。建設費くらいの役割は果たして貰わないとお金の無駄よ」

 一応少し距離をとったところに常に控えている警備の騎士官の方は、なんというか、普通な態度の僕らに少し訝しげな顔を漏らす未熟者もいるが、基本的にはよく鍛えられているのか、多くは徹頭徹尾感情が見えない表情で業務をこなす。

 祭壇の管理を任される技術職の官僚が驚きの声を漏らしてしまった。声に隠しきれない困惑の揺れが伺えるが、業務としての確認事項をアンドロマリーに説明して、ついに質問してしまう。

「そのお二方はどういった方で?」

 いや、警備として聴かないとならなかったのかもしれないが、

「ふふ、彼と彼女は愛しい人たちよ」

「え、両方!?」

 容姿で言うと女性的な男と男性的な女で、バイでも説得力のある貴族の趣味としてごまかせそうな微妙なラインだから、いや、そういう性癖って思われ……事実だな!

「なにも言うなよ? ジークフリード」

「…………わかったよ」

「二人は、大切な家族にようなものだから、私の……あぁ、両手を塞いでもいいのよ」

「そ、そういう関係なのですね」

 貴族の中ではそういう文化があるとは言え、バイセクシャルを公言する貴族は少ないからな。びっくりされても仕方がないだろうとは思うけど、なんだろうな。曖昧な表現だけで話を拡大解釈を推奨する貴族らしい話方は、

 後ろに随行する数名も付き人くらいに思っているのか、騎士官と事務的な話し合いをして、転移魔術の起動承認手続きを進める。

「手続きが終わりました。では皆様、台座内の所定の位置へ移動なさってください」

 促されるまま、全員枠内に入ったら、儀式魔術の祭壇に並べられた供物が蒸発していく。


 瞬きと、瞬きの間の僅かな一瞬のような、意識すら届かない刹那の間で別の壁が正面に見えた。

 後で聞いたら王都の高級住宅内の空間転移の儀式魔術の祭壇に移動していたらしい。

 道も分からない王都内を案内されて、順路を覚えることもできないままに王城の敷地内とされる城壁外の王族の住居のような豪邸に案内された。


 数時間後に謁見できるそうだからと、使用人たちへ着替えの手伝いを命じて僕らは、……いや、ユーリとシャノンは普通に身なりのいいドレスで、クラーラはなぜかドレスを頑なに拒否したから高級スーツ、僕は武器のショーテルを預けるのはいいけど、戦闘できない服を試しに拒否したら問題なく魔術師風のローブがついた騎士制服をもらえた。

 ……知らない紋章が描かれたワッペンに関して、『これが身分を表すので』って小間使いの方に言われたけど、胸に書いてるこの紋章はなにを表しているんんです!?

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